夢の話 第520夜 未来社会
10日の午前1時に観た夢です。
気がつくと交差点の手前に立っていた。
「ここはどこだろ?」
古めかしい街並みで、ゴチック様式の建物が並んでいる。
「中世?じゃないよな」
記憶が蘇る。
中世どころか、今は2060年だった。
「未来社会じゃねーか」
いや、この場合、「未来社会」はおかしい。今、オレがいるのがここなんだから「現在」だろ。
ここで信号の色が変わる。
2060年の信号は4色に分かれていた。青・黄・赤の他にゼブラ(縞々)がある。最後のひとつは歩行者用で、車と歩行者が分けられているのだ。
「さて、家に帰ろうか」
オレは所用で役所に行き、家に戻るところだった。
ものの5分で家に着いた。
オレは教会みたいなつくりのマンションの1階で、妻と一緒にクリーニング屋を営んでいた。
今では自分ちにクリーニング機を持つ人が多いから、オレみたいなクリーニング業者は少なくなった。でもその少なくなった分、新たな需要が生まれる。
面倒臭がりはどこにでもいるからな。
店に入ると、妻がオレにガスマスクを放って来た。
「仕上げはもうすぐだから、早く着けて」
オレはそのマスクを顔に着ける。
今のクリーニングは、服を吊るし、そこに洗浄ガスを吹き付けて、一気に片付ける。
こうすれば、ワイシャツなら1度に2千枚を洗うことが出来るのだ。
妻がタンクの蓋を閉めると、すぐにガスが噴出した。
このガスは有毒なのだが、まあ、漏れる量が少なければ大丈夫。
ただ、オレたち夫婦にすれば毎日のことだから、念のためマスクを着けているわけだ。
「ブシュウウ」とガスの噴き出る音が響く。
ところが、洗浄ガスは3秒間だけなのだが、1分経ち2分経っても止まらない。
ハッチの隙間から、白い煙がびゅうびゅうと外に溢れ出した。
「おいおい。こいつは不味い。どっかバルブが緩んでるぞ」
妻が慌てて、機械の後ろに走る。
「早く元栓を締めろ」
じゅうじゅうと音がして、ようやくガスが止まった。
妻が戻って来る。
「バルブにヒビが入ってたみたいだね」
「そっか。だいぶ漏れちまったな」
「周りの人が『気分悪くなった』と騒ぎ出さないかしら」
「大した量じゃないから大丈夫だろ。外に出て様子を窺って来いよ」
妻が頷き、入り口の方に歩いて行く。
妻は扉を開け、外に出たが、すぐに踵を返し戻って来た。
「お父さん。大変だよ。皆倒れてる」
「え。そりゃ本当か」
急いで、通りに出てみる。
妻の言ったとおり、通りには人が何百人も倒れていた。
「おいおい。こりゃしくじったな。ウチのガスのせいでこんなになるとは」
夫婦で並び立ち、呆然と気色を眺める。
「でもお父さん。ウチのガスでこんなになるかしら。おかしくない?」
それもそうだ。洗濯ガスには何百人、何千人を殺傷するような破壊力はない。
今、目の前に見えているのは、見渡す限りの死体の山だった。
「あれは何かしら」
妻が指差す方に顔を向けると、交差点のど真ん中に四角い箱が落ちていた。
人の背丈ほどの高さの木箱で、上にはパラシュートが付いている。
「空から落ちて来たんだな」
ここで、オレはピンと閃く。
「おい。間違ってもマスクを外すなよ。これは爆弾だ。ガス爆弾が投下されて、皆殺されたんだよ」
それなら、この状態の説明が付く。
「何だよ。2060年にもテロリストが居るのか。せっかく近未来社会に来たのに、何ひとつ良くなっていないじゃないか」
ここで覚醒。
取りとめの無い、断片的な夢でした。あるのは皮肉めいた諦観だけです。