日刊早坂ノボル新聞

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夢の話 第532夜 七転び八起き

夢の話 第532夜 七転び八起き
 26日の午後11時半に観た夢です。

 夢の中の「オレ」は、現実とはまったく別人格。
 高校を卒業した後、父親の会社の手伝いをしていたが、30前に独立。
 表の仕事は店舗内のセッティング指南だが、裏では整理屋をやっている。
 整理屋とは、会社が潰れる時に、借金と資産を相殺し、きれいにするのを代行する商売だ。その過程で出た商品の残りや建物・土地を売買したりもする。まあ、負債が多い経営者の固定資産は抵当に入っていることがほとんどだから、流動資産がメインだ。

 事務所には、電話番の女性が一人いるだけで、あとは総てオレがやる。
 オレはこの事務員に1200万の給料を払っている。オレの商売では情報が第一だから、この事務員にはきっちり電話に張り付いてもらって、状況に応じ臨機応変にオレのスケジュールを組んで貰う。オレは年間で30億くらいの物件を取り扱い、アガリはその5~15%だから、役割の重要さを考えればもっと払ってもいいくらいだな。
 
 人間はゼロからなら、なんぼでも立ち直れる。
 ところが、会社が倒産する時には、裸一貫に戻るだけではなく、多くのマイナスを背負う。そのままだと生活も人生も滞るから、ゼロのところまで戻してやる。それがオレの仕事だ。その意味では、オレはこの仕事は人助けだと思う。
 だが、社会には努力点はないから、話をきっちり終わらせる必要がある。やっかいな交渉があったりするから、もちろん、タダではない。

 仕事自体は月に数件だから、大概はヒマだ。
 オレは毎日ぶらぶらし、遊んでいる。会社が倒れないと商売にならないのだから、そうそう沢山はない。オレが仕事にならなくなれば、それはそれで経済が上手く回っているということだ。
経営が傾いた会社の経営者は目の前のことで頭が一杯だから、オレみたいな人種がいることには考えが及ばない。
 目ざとく経営状況を見て、計画的に自分の会社を潰すヤツもいるが、こういうのは1、2年ごとにオレのところに来る。
 だが大概はそれっきりだ。
 病院の人間関係と同じで、負の性質の関わりだから、一旦その状況を脱するとたちまち縁遠くなる。

 オレの事務所には、時々、タケナカという男が顔を出す。
 こいつは元々、カレー屋の店主で、オレの客だった。
 最近では、カレー屋は珍しくないし、インド料理屋も林立している。
 ラーメン屋と違い、酒やつまみの比重も低い。経営は大変だ。
 タケナカの店は結局、立ち行かなくなった。
 資産は厨房品しかないから、どうにもならんのだが、まだ小さい娘がいたから情にほだされて、整理してやった。
 負債が5千万あったのだが、これがマイナスではなくゼロになるのだから、実質、それくらい儲けたことと同じだ。
 今は運送屋のアルバイトをしているが、時々、オレの事務所に娘を連れて遊びに来る。

 オレの弱点は、その「娘」だ。
 3年前に女房と離婚したので、一人娘とは離れて暮らしている。
 仕方の無いことだが、どうにも娘が恋しい。
 娘と同じ年頃だというだけで、つい面倒を見てしまう。
 タケナカは小遣いに困ると、娘をだしにしてオレのところに来る。
 オレが必ずその娘に小遣いをやるので、父親がそれを横取りする。
 オレはそれを知ってはいるが、まあ、それくらいは構わない。

 タケナカの目的は他にもある。
「社長。オレも社長のところで使ってくれませんか」
 事務所に来る度にそう言うのだ。
 しかし、いくら娘が可愛くても、それは話が別だ。
「うちは貧乏会社だし、人を抱え込む余裕はないよ」
 ま、実際は「やってもらう仕事はない」だ。
 オレの仕事は素人では無理だし、いざしくじれば、刃傷沙汰まで起こり得る。
 そうなると、結局はただ給料を払うだけになってしまう。
「またまたあ。大きな取り引きをやってるじゃないですか」
 オレと事務員のやり取りを耳に挟んで、タケナカはオレを羨んでいるらしい。。

 そういう時に電話が鳴った。
 「社長。N県からお電話です」
 事務員の言葉に、受話器を取る。
 資産家が不動産投機でしくじり、竈を返しそうだとのこと。
 骨董品や調度類を現金化したいらしい。
「いいですよ。伺いましょう。概ねどれくらいを見込んでおけば良いですか」
 「買値ベースでは4億5千万です」
 ってことは、買った値段は正味2億。まあ、こういう話は2倍3倍で大きく膨らますもんだ。
 オレの方の買値はその2割程度だから、4千万もあれば十分だ。
 ここでオレは事務員に尋ねた。
「現金は幾らあったっけ?」
 「3千万です」
 たまたま物件を処理したばかりで、タマが乏しい。
 「ま、仕方ない。それで勝負しよう」
 こういうのは先手必勝だから、オレはその足で現地に向かった。

モノは本物だった。嵩張る物がなく、小物類だけなのも助かる。
 オレは3千万で総てを引き取り、ワゴン車に骨董類を詰めて帰った。
 事務所には大金庫があるが、さすがに1つには入り切らない。
 もはや深夜だったから、ブツをテーブルに置き、オレは事務所に泊まることにした。
 長椅子で寝ていたが、朝方になるとどうにも腹が減り、ラーメンを食いに外に出た。
 戻って来て、オレが事務所の扉を開こうとすると、いきなり後頭部をガツンと殴られた。
 オレはそれきり意識を失ってしまった。

 目が覚めると、オレは玄関の三和土で倒れていた。
 傍らには、事務員の女がしゃがみ込んでいる。
事務員が、朝、出勤して来たら、オレが倒れていた、というわけだ。
 事務所の中は、酷く荒らされていた。
 テーブルの上の物は総て持ち去られ、金庫もバールで壊されていた。
 「やられたなあ」
 そこで、オレと事務員は警察を呼んだ。
 オレの事務所には監視カメラが3台ついている。目立つところにある大きなのはダミーで、本物は部屋の隅に隠れている。
 それをチェックしてみたら、何と犯人はタケナカだった。
「あいつ。娘が可哀想だから、散々面倒を見てやったのに」
 ま、世の中はそんなもんだ。

 「社長。ひとつ残っていました」
 振り返ると、事務員が小振りの桐箱を捧げ持っていた。
 中には、古く汚い銅製品が入っている。
「こいつはツイてたな。海獣葡萄鏡だ」
 今回、入手した古鏡で、発掘品だ。
 みすぼらしいが、国立博物館にある同じ物と対になる品だった。
 「値段を付けるなら8千万くらいだな」
 もし、タケナカに盗まれた品が戻って来なくとも、こいつが売れれば、何とかやり直せる。

 タケナカの手配が始まったが、あいつのおかげで、オレはしばらく開店休業状態に陥った。資金が回らなくなったせいだ。
 仕方なく、先日のN県で買ったものを見に行くことにした。
 まったく抵当に入っていない土地があったから、ついでにそれも買ったのだ。
 道路脇にある古民家で、崩れかけている代物だから、担保物件にもならなかった、というわけだ。
 現地には、事務員も連れて行った。
 今はヒマだし、長年の慰労を兼ねて、温泉に連れて行こうと思ったのだ。
 事務員は60歳だから、けして愛人ではないぞ。一応は断っとく。

 オレは事務員と一緒に、その古民家の前に立った。
 茅葺屋根の民家で、80年は経っていそうな按配だった。
 「社長。ここって・・・」
 事務員の呟きに、オレは大きく頷いた。
「はは。食堂にするにはサイコーだよな」
 道路脇で、どことなく風情がある。改装してレストランへの道筋を付けてやれば、必ず買い手がつく筈だ。
 オレたちは顔を見合わせて、笑い合った。

「長年一緒に仕事をしてきたから、呼吸が合ってきたよな。そろそろパートナーになって貰うかな」
オレたちの商売には、まだまだ先があるようだ。
 どんな人間、どんな状況にも、諦めてしまわぬ限り明日は来る。

 ここで覚醒。