◎夢の話 第566夜 祈祷
27日の午前5時に観た夢です。
瞼を開くと、畳敷きの部屋に座っていた。
40畳くらいの広さで、周囲はガラス張りになっている。
紫色のガラスで、こちらから外は見えないのだが、周りには人が沢山居て、オレを見ているような気がする。
オレは白装束を身に付け、座禅を組んでいた。
「先生。相談者の方が参られました」
巫女装束の女が、2人を連れて入って来た。
「相談者」は、母親と息子の2人連れだった。
(オレって、祈祷師か何かなんだな。)
何だか可笑しい。笑いが漏れるのを隠すのに困ってしまう。
母親と息子はオレの前に座り、深々とお辞儀をした。
一瞥すれば、すぐに用件が分かる。
この息子の素行が悪く、高校を退学になった。
外に出てはケンカばかりしているが、「何か悪いものが憑いているのではないか」という話だ。
そして、その「悪いもの」を落として欲しい。
母親の頭の中はそんな内容のストーリーがあるのだろう。
「分かりました」
母親と息子が驚いて顔を上げる。
「まだ何も申し上げて居りませんが・・・」
ここで巫女が口を添える。
「保田庫裡先生は、総てお見通しなのです」
オレは元々、調査研究を仕事にしていた。このため、8千人くらいの人と面接し、生活観や人生観を聴取しているから、大概の人の悩み事を類推出来る。
それと、生来、勘が働く方の性質だから、相手のふとしたしぐさで心が読み取れる。
「この子はけして悪い子じゃない。エネルギーが有り余っているだけだ。これから、私がDVDの題名を書いて渡すから、それをお父さんに買ってもらい、毎日観なさい」
ここで母親に向き直る。
「これで終わりです。ひと月もすれば、元の良い子に戻ります」
エッチなDVDをふんだんに観て、余ったエネルギーを抜いてしまえば、平常心が戻って来る。ただそれだけのこと。
「どうも有り難うございます」
母親が繰り返し頭を下げる。額が畳に着きそうな勢いだ。
「お礼は要りません。もしどうしても気が済まない場合は、入り口に甕が置いてありますから、そこに放り込んで下さい。誰がいくら入れたかなど、チェックもしません。お金は恵まれない子どもたちのために遣わせていただきます」
母親が帰りしなに、甕の中を覗くと、そこには万券の束がごまんと入っている。
それを見てしまえば、1万2万と言うわけには行かなくなる。
そういう段取りだ。
「はい。次の人」
扉が開くと、外からどっと歓声が入り込んで来た。
「スゴイ」
「やはり保田先生は千里眼だ」
人は、皆、自分が信じたいものを信じる。
ここに来る者は、例外なく悩み事を抱えているのだから、それを言い当てるだけで、8分は解決する。
その気持ちにそっと手を添えて見せるだけで、相手は心底から喜ぶわけだ。
だいたい、法名が「保田庫裡」だもの。
冷静に考えれば「ボッタクリ」だっちゅうの。
こういう露骨なことですら、困っている者には判断がつかない。
本当に笑える。
くすくすと笑っていたら、座禅が崩れてしまった。
ガラス戸に自分の姿が映ったが、法衣の裾から、尻尾が飛び出ていた。
「イケネ。こいつは見られないようにしないと」
オレは慌てて尻尾を中に隠した。
オレの本性は化け物狐だ。
法螺も吹けば、嘘もつく。でも、事実でなくとも、気持ちを言えば大丈夫。
「嘘はついていない」という自覚があれば、言葉に説得力が増す。
次の相談者が入って来た。
今度は年配の夫婦だ。いかにも偏屈そう。
こういうのは、扉をこじ開けるのが大変だが、いざ心を許したら、なんぼでも金を出す。
よし、奥の手を出すか。
二人がオレの前に座った。
「まず旦那さんの守護霊と話をして見ましょう。しばらくお待ちください」
はは。「守護霊」ってのは、この世の人が考えたものだ。
あちら側の世界観から発したものではない。
すなわち、もし霊が本当だとしても、「私はお前の守護霊だ」と言った瞬間に、そいつは「あの世に行けていない悪霊」であることを証明することになる。
よって、「守護霊」を持ち出した時点で、そいつは悪霊に操られているヤツか、詐欺師。
そのいずれかということになる。
分かりよい作り話だが、そこはそれ、「人は信じたいように信じる」ものだ。
「守護霊」という言葉で、勝手に「自分を守ってくれる」と解釈する。
人の理解度に合わせた話をするのが「方便」だから、これでも方便のひとつだが、本当に修行を積んだ者には、簡単に見破られてしまう。
ま、ここを乗り切れば、この夫婦からは5百は取れる。いや、1千2千かも。
どれ、見てやろうか。
守護霊は、この年寄りの皺の間にいらあよ。
ここで覚醒。