日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第585夜 一揆の顛末

◎夢の話 第585夜 一揆の顛末
 11日の午前3時に観た夢です。

 突然、代官所に呼ばれたので、出仕した。
 オレの務めとは違う場所なので、「出仕」はおかしいのだが、一応、オレも三十石の侍だから、務めと言えなくも無い。
 役所に入ると、代官がオレを待っていた。
 「兵能。どういうことか申し開きをせよ」
 突然のことで、代官が言っていることの意味が分からない。
 「は?一体、どういうことでしょうか」
 代官は眉間に皺を寄せ、オレを睨んでいた。
 「ぬしは一揆を起こそうとでも考えておるのか」
 一揆だと。わけの分からない話だ。
 「それがしにはまったく見に覚えがありませんが」
 「夜な夜な、百姓町人を引き連れて、街道を練り歩いていると聞くぞ。今は数が少ないようだが、人を集めてご城下に乱入しようという考えだろう。それはけして許されぬ」
「はて。何のことやらさっぱり分かりませぬ」
 「ええい。では証拠を見せてやろう。今宵、その企てを直に見る。貴様も一緒に見るのだ。今はひとまずここで控えておれ」

 その日の夜が来て、オレは代官、その部下八名と一緒に、街道が交差する辻に向かった。
 道を外れ、丘の後ろに馬を隠し、その道別れの様子を見る。
 そこに変化が起きたのは、戌の刻付近になった頃だった。
 次第に人が集まって来たのだ。
 代官が小声でオレにささやく。
 「ほら見よ。人が集まっておろう」
 一丁先に見える人の群れは、確かに異様だった。
 皆、白装束を着ており、頭には三角頭巾を着けている。すなわち、死人の装束だ。
 思ったより人の数が多く、ざっと二百人はいるようだ。
 その人の群れが動き出した。
 小太鼓を叩きながら、街道を歩き出す。
 「法度法度じゃやり切れぬ。側を討たせろ。兵能野兵衛」
 「法度法度じゃやり切れぬ。側を討たせろ。兵能野兵衛」
 群衆は太鼓の音に合わせて、こんな言葉を唱えていた。
 オレの名前は兵能野兵衛だし、確かに、お上への不満を訴えているように聞こえる。
 「側用人を討たせろ」とまで言っているから、叛意は明らかだった。
 側用人は、剣持さまという方で、殿様のお気に入りだ。
 権勢を誇っているから、世の反発も強い。
 ここで代官がオレに言い放った。
 「これで分かっただろ。証拠は上がっている。だから、今、貴様を捕らえてお裁きの場で決着をつける」

 オレはそこで捕縛され、ご城下に連れて行かれた。
 一揆は重罪だから、代官所ではなく、城で直々に裁かれることになったのだ。
 お白州の中央に座らされていると、殿様と側用人の剣持が二人揃って現れた。
 剣持が口を開く。
 「このわしを討つそうだの。兵能とやら」
 「滅相もござりませぬ。此度は本当に濡れ衣でござりまする」
 「法度(禁令)ばかりで嫌気が差す。だからわしを討てと叫んでおる。ご丁寧に首謀者の名前まで叫んでくれたから、捕まえるのは簡単だったがな」
 「それはまったく違います。それがしに申し開きをさせてください」
 「何?何の申し開きをするというのだ」
 オレが掴まってから三日間の時間があった。牢屋の中でオレは、この謎を解いていた。

 「蕎麦粉と水を用意して下され」
 「それで何が分かる」
 「とにかく用意してください、それで分かります」
 「よし。それではぬしの申すとおりにしよう。それで納得させられなかったら、ぬしは獄門だ」
 すぐに、オレの縄が解かれた。道具を白州に持ってくるよりも、厨房にオレを連れて行くほうが簡単だから、オレは厨房で作業をした。
 一刻の後、支度が整ったので、オレは白州に戻った。
 藩主と側用人の前には、お椀が二つ並んでいる。
 「ふた種類を用意致しました。お試し下さい」
 「一体、どういうことなのだ」
 「まずはお試し下さい」
 そこで二人がずずと汁を吸った。
 両方を食べ終わると、まず側用人が顔を上げた。
 「なかなか美味いな。しかし、片方は普通の蕎麦だが、こっちは何と申すのだ」
 「それは法度と申します」
 「はっと?」
 「はい。同じ蕎麦粉で作りましたが、そちらは法度です」
「何故はっとと申すのだ」
 これは藩主の忠則だ。
 「殿。殿はあの地域に『蕎麦を食べてはならぬ』という禁令を出されました。そこであの地の者たちは、細長く切った蕎麦を作ることはせず、その代わりにその法度を作って食べておるのです」
 「そうか。そういうこともあったな。そこの山で採れた蕎麦を食べたら、あまりに美味かった。もっと食べたいと思って、そんな気持ちだと申したのだが、まさかそれが実際に禁令になっておるとはの」
 忠則は横目で剣持を見た。もちろん、そんな禁令を作らせたのは、この剣持だった。
 殿様に気に入られようと、忖度したのだ。

 「これが一揆とどう関わっておるのだ」
 「法度法度じゃやり切れぬ、とは、やはり細長く切った普通の蕎麦が食べたいということです」
 「なるほど。では側用人を討つのではなく・・・」
 「普通に蕎麦を打ちたい、と申しておるのです」
 「では何故、ぬしの名を叫ぶ」
 「それは、兵能野兵衛ではなく、『へのへのへえ』でござります。たまらんなあという意味の掛け声でござります。余りにも蕎麦が恋しいので、夜な夜な踊りを踊って紛らわせておるわけでござります」
 「なるほどなあ。そういう次第であったか」
 「ははは」と二人が笑う。
 オレは内心で「ほう」と溜息を吐いた。オレは侍だが、料理が得意だったから、まずはとにかく、二人の腹を満たそうと考えたのだ。腹が満ちれば、人は荒っぽいことを考えなくなる。「とにかくこいつを死罪に」とは思わぬものだ。

 オレは放免となり、ご城下を下がった。
 街道を下って行くと、向かい側から群集が押し寄せて来た。
 オレは道から外れ、離れたところからそれを見守った。
 「側用人の剣持を殺せ」
 「殿さまを倒せ」
 皆が口々に叫んでいる。
 その数はざっと数千人は下らない。
 オレはそれを見ながら呟いた。
 「オレは逃げるが、頑張れよ。一気にこの藩を潰してしまえ」
 腹が決まれば、後は簡単だ。群衆が去ると、オレはすぐさま走り出した。
 ここで覚醒。
 
 二戸地方に「蕎麦を食べてはならぬ」という法度を出したのは、盛岡藩の馬鹿殿さま。
 このため、この地域には「はっと」という蕎麦料理が実際にあります。
 「かっけ」も恐らく同じ起源ではないでしょうか。