◎夢の話 第647夜 再生
12日の午前4時に観た夢です。
ビルの外に沢山の人が集まっている。およそ3千人はいそう。
「開発者なんだから、お前が何とかしろ」
口々にそんなことを叫んでいる。
俺は試験研究機関の研究員で、専門は遺伝子工学だ。
この研究所で、俺はインフルエンザの研究をしている。
ここでぼんやりと今の状況を思い出した。
インフルエンザウイルスは増殖率がもの凄く高く、かつ短時間で増える。
そいつが活きのいい理由は、遺伝子にある。
そこで、もしその遺伝子だけを取り出して、人間に移し替えることが出来れば、数々の病気を克服できる。俺はそう考えたのだ。
もちろん、リスクもあり、もし細胞が勝手に増殖を始めたら、「全身が癌細胞」になってしまうかもしれない。
だが、何事にもリスクはつきものだ。やってみなけりゃ分からない。
俺は実験を敢行し、それに成功した。
俺の作ったワクチンを投与すると、今にも命が尽きてしまいそうな重篤な患者が1日で立ち上がれるようになった。
健康な人間に打てば、病気をまったくしなくなる。なんらかの損傷が生じても、すぐさま細胞を修復してしまうわけだ。
これはまだ実験段階だったが、俺の上司が勝手に記者を集めて情報を公開してしまった。
要するに自分の手柄にしたかったということだ。
実際、すぐさまお偉いさんから連絡が来て、上司は毎日、人に会いに出かけて行った。
ところが、わずか数ヶ月で状況が一変した。
俺のワクチンは病気を帳消しにしたり、死に掛けの人を元気にするが、死んだ人まで生き返らしてしまうことが判明したのだ。
事故で体の半分が損壊した死体まで、起き上がって来る。
要するに、ゾンビを作り出してしまうわけだ。
ウイルスは遺伝子抽出用に変化させていたのだが、これを所内に留めて置けば問題はなかった。
しかし、どんな秘密もウイルスも実際には簡単に漏れる。
たちまち、街には死人が溢れた。
俺の上司はそれを知ると、さっさと退職を決め、わざわざ記者会見を開いて、「開発者はこいつです」と言い残して去った。
手柄なら自分のものだが、しくじりは別のヤツに。
この手の人間は世間にはよくいる。
どの会社や役所にも、職場に一人はこういうタイプがいる。
今や死人の方が人間の数を上回っているかもしれない。
これを腹立たしく思った群集が、こうやって、俺の研究所まで押し寄せているわけだ。
俺は十階から外を眺めていたが、下の群集に異変があった。
別の群集が近寄って来て、それから逃げているのだ。
「ああ。死人が押し寄せて来るんだな」
こいつらは、映画みたいに生きている者の肉を齧ったりはしないが、怒りのまま行動するから、始末に終えない。
程なく玄関が破られ、ビルの中に死人たちが入って来る。
皆、開発者たるこの俺を目指してやって来るのだ。
エレベーターや非常階段の扉が開き、沢山の足音が俺の部屋に迫る。
部屋のドアが開いて、どやどやと人が入って来た。
振り返ると、そこに立っていたのは、俺の見知った顔ばかりだった。
親族や友人、知人、大学時代の師匠まで混じっている。
いずれも既に物故した人たちだった。
皆が俺のことを見て微笑んでいた。
「生き返らしてくれて有難う。ずっと会いたいと思っていた」
ここで俺は気が付いた。
「これは夢だ。俺は夢を観ているわけだな。この人たちを懐かしみ、『また会って、話がしたい』と思うから、こんな夢を作り出しているわけなんだ」
ここで覚醒。