日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第651夜 旅館

夢の話 第651夜 旅館
 6日の午前5時に観たホラー夢です。

 夕方の五時になり、同級生のKから電話があった。
 「今、〇×温泉に来てるんだけど、どこか旅館に泊まりたい。お前はそういうのに詳しいだろう。何か手はないか」
 大学の仲間五人で出かけたのは良いが、車で寝るのはしんどい。外に出て寝袋で寝ようにも、小雨が降っている。だから宿を取りたいというわけだ。
 「6時を過ぎた頃に駅の改札の前に行けばいいよ。すると、その日、急にキャンセルが出たりして空きが出た旅館の呼び込みが幟を持って立っている。そこで交渉すれば、相場はまあ半額だね。八千円なら四千円。六千円なら三千円。でも、食事はなしの場合が多いけど」
「分かった」

 夜中の十時に再びKから電話が来る。
 「何とか旅館が見つかったよ。それがなかなか良い所で、食事も最高だ。それで三千円だものな。まあ、旅館自体は小さいけどね」
 「そりゃツイてたな」
 「もっとスゴイことに、宿泊客を九人揃えると、一人千円にしてくれるそうだ。そこで、明日も泊まろうと思って、こうやって電話しているわけだ。お前は明日来られる?」
 「千円なら行くよ。〇×温泉で一泊食事つきだものな。でも俺は何番目だよ」
 「七番目。あと二人必要だ」
 「もし九人集まらなかったら?」
 「本当は八千円のところを六千円に負けてくれる」
 「それじゃあ、また改札の前に行くってこった。その方が安い」
 「ここはガラガラだから、宿に約束しないで九人揃えるか、最初から改札の前に行った方がよさそうだな。前の日から三千円にはしてくれんもの」
 「じゃあ、その路線で。あとは人集めだ」

 〇×温泉は都心から1時間半のところにある。
 俺は午後四時頃に電車に乗り、五時半に〇×駅に着いた。
 温泉は駅から離れているから、駅舎はさほど大きくない。
 改札を出ると、Kが立っていた。
 「九人揃ったのか」
 「最後が由美ちゃんだけど、七時過ぎになるそうだ」
 「それじゃあ、まあ、大丈夫だろ」
 Kの先導で、車に乗り込む。
 十五分ほどで旅館に着いた。
 既に薄暗くなっていたから、灯りの点いた玄関しか見えない。
 その玄関の前に他の仲間が立っていた。
 その一人にKが声を掛ける
 「泊まるって番頭さんに言ったか?」
 「千円でOKだってさ」
 そこで車を降り、ぞろぞろと旅館に入った。
 俺は仲間の一番後ろにいたが、玄関口で足が止まった。
 妙な気配を感じたのだ。
 この辺、俺は生まれつき、勘が働く性質だ。

 「ま、気のせいだよな」
 建物の中は明るくて、いい感じだ。
 客もいなけりゃ、仲居の姿も見えないから、妙に感じたのだろう。 
 部屋に案内されると、古びてはいるが、なかなか良い部屋だった。
 三人ずつが三つの部屋を宛がわれる。
 俺は荷物を部屋に置き、館内を見て回ることにした。

 ひと通り回ったが、一区画だけが通れないように塞がっている。
 「そう言えば、東館は改装中だったな」
 入り口で番頭がそう言っていたっけな。
 だが、持ち前の好奇心が顔をもたげた。
 「ちょっと見てやるか」
 「工事中」のバリケードを越えて中に入ってみた。
 やはり薄暗くて、壁がぼろぼろだ。
 廊下を進むと、ひとつの部屋のドアが開いていた。
 部屋の中から、「ギー」「ギー」という音が聞こえる。
 「何だろうな」
 その部屋の入り口に立ち、中を覗いて見た。
 やはり、部屋の中には何もない
 壁紙の禿げた壁に囲まれた、まさに改装中の部屋だった。
 部屋の中央には、作業用の椅子がひとつ転がっている。
 
 その部屋の中を眺めているうちに、俺は何だか気分が悪くなって来た。
 顕著なのは目眩だ。
 目の前がぐらぐらして、まともに立っていられない。
 「う。ここはダメだ。俺には合わない」
 すぐに部屋を出て、元のロビーに向かう。
 しかし、廊下を進む足が重く、まるで「泥田の中を歩く」ような感じがする。
 鳩尾の辺りがずしっと重くなる。
 「この建物は本当にヤバい。早く外に出ないと」
 胸が苦しい。

 やっとのことでロビーに戻る。
 するとそこには、一緒に来た仲間たちがいた。
 危機を伝えたいが、喉が詰まって言葉が出ない。
 こういう時には・・・。
 俺はパッと閃いた。
 「火事だ。すぐに逃げろ」
 外に出ろ、という合図をする。
 皆が顔を見合わせているのを尻目に、俺は玄関から転がり出るように外に出た。
 足を引き摺って門の外に出ると、同行の仲間たちも俺の後をついて来ていた。
 
 それから十五分ほどしゃがんでいたが、俺はようやく気分が治って来た。
 そこでKが俺に言った。
 「火事らしい気配はないじゃないか。どうなってるの?」
 「いや。ここはヤバイ。ここには悪縁がある」
 「そんな馬鹿な」
 Kが後ろを振り返る。
 「わあ」
 その声に、仲間が揃って後ろの旅館の方を向いた。
 すると、そこにあったのは火事で焼け落ちた建物だった。
 灯りが落ち、中は真っ暗。
 壊れた玄関が口を開けている。

 Kが呻くように呟く。
 「ここは廃墟じゃないか。俺は昨夜、肉や魚を食ったけれど、一体あれは何だったの?」
 ここで覚醒。

 ここは火事で九人が焼け死んだ旅館でした。
 もう一人来ており、人数が揃っていれば、あるいは・・・。
 ちなみに、火事の後、経営者があの東館で首を吊っていたというストーリーです。
 「ギー」「ギー」