日刊早坂ノボル新聞

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夢の話 第653夜 妖怪退治

夢の話 第653夜 妖怪退治
 七日の朝4時に観た夢です。

 夢の中の「俺」は五人家族。俺と妻、長男、娘二人の構成だ。
 俺は神社の職員だ。と言っても神主ではなく事務方だ。

 家に帰ると、妻が暗い顔をしていた。
 「お父さん。玄関に赤札が貼ってあったわ」
 俺は思わず舌打ちをした。
 「何だって。また当たったのか。前の回は十年前だったのに」
 当家が当たったのは、「ぬったり様」の当番だ。
 「ぬったり様」は、別に「ぬらり坊」とも言うが、いわゆる「ぬらりひょん」という妖怪に近い存在だ。
 「ぬったり様」の当番が当たると、1年間、その妖怪の世話をしなくてはならない。
 こいつの外見は人間の僧侶と同じだが、かなりのわがままで、頻繁に「あれをしたい」「これをくれ」と言い出すから始末に負えない。
 もしこいつの言うことを聞かぬと、こいつは作物を荒し、家々を壊して回る。
 そんなことなら、1年だけなんだし、こいつの世話を我慢すれば、世の中が上手く回る。
 そういう訳で、俺の住む地方では、抽選で当番を決め、それに当たった者がそいつの世話をすることにしているのだ。

「しかし、この辺には二百軒の家があるのに、何故たった十年で俺のところに回ってくるんだよ」
 ま、それも想像はつく。
 今年のは、この妖怪自身の希望だろう。
 「ぬったり様」は助平でもあるから、俺の娘たちが幼い頃に目を付け、大人になった頃にまた来たのだ。
 「いい加減腹が立って来た。いっそのこと、あの妖怪を退治してしまおうか」
 「ぬったり様」は坊さん姿の痩せた老人だが、もちろん、僧侶ではない。ただ家にいて、飲んだり食ったりするだけの妖怪だ。非力で弱々しいが、しかし、姿を消すことが出来る。
 このため、いざとなるとこいつは姿を消し、人に分からぬように色んな悪さをする。

 「あいつのことを探し当てられれば退治できるのだが」
 この場合、「退治する」とは、もちろん、「殺してしまう」ということだ。昔の物語にはこの手の表現が出てくるが、皆、陰惨な結末を示している。
 「鬼をこらしめる」とは、「他の土地に住む人々を皆殺しにする」「その人たちの財産を奪い、女子どもを奴隷にする」ことを意味している。
 こう言えば「桃太郎」の話の本当の意味が分かるだろう。
 あれは他所の地で平和に暮らす人々を一方的に殺して、その富を奪った話だ。

 「あ。方法が無いわけではないぞ」
 十年前には、散々、苦労させられただけが、今は違う。
 俺はこの十年間で様々な知識を得ていた。
 そもそも俺が神社で働くようになったのは、神事のコツを掴むためで、神事に直接携わるためではない。神ではなく、怨霊や魑魅魍魎を操れるようになりたいと思ったのだ。
 そしてそれを、今ではそこそこ出来るようになっていた。
 「よし。百目鬼を呼び寄せよう」
 「どうめき」とは、体じゅうに目が付いている妖怪で、この世の総てのものを見ることが出来る。物だけでなく、人の心の内まで見通すことが出来る妖怪だ。
 「※らエモン」の体に目玉が何百も付いた姿だから、見た目はかなりグロい。
 しかし、何と言っても、こういう時には重宝な存在だ。
 百目鬼を呼び寄せ、そのままご本尊として安置すれば、俺は俺自身の道場を開くことが出来る。実効性の無い神社とは違い、いろんなことを言い当てられるから、多くの人が集まるだろう。一石二鳥だ。
 俺は祈祷を開始し、一心不乱に百目鬼を呼んだ。
 そして、それに成功した。

 数日後、俺の家に「ぬったり様」がやって来た。
 家の中に入って来た妖怪は、すこぶる偉そうな態度で振舞った。
 俺は妖怪を座敷の奥に案内し、そこに座らせた。
 座敷の周りには戸板を立て、出られぬように釘を打ってある。
 俺は親戚にも俺の意図を伝え、二十人の応援を呼んであった。
 これから起きることを知っていたから、皆が険しい表情をしている。
 普段の年とは、だいぶ様相が違う筈だ。
 「ぬったり様」は数分でこの異変に気付いた。
 「おい。まさか拙僧に悪さをするつもりではあるまいな」
 俺は思わず苦笑を漏らした。
 「拙僧だと。お前は僧侶ではなく、ただの妖怪のくせに、僧侶のふりをするとは笑わせる」
 俺の手には刀が握られている。
 それを見取ると、妖怪はすぐに姿を消した。

 「よし。百目鬼をこちらに呼べ」
 人込みを掻き分けて、百目鬼が前に出て来た。
 百目鬼は体じゅうの目をぱっちりと開くと、部屋の隅を指差した。
 「ほれ。あそこだ。あそこにおるぞ」
 そこで、俺は刀を大上段に構え、その場所に向かった。
 歩きながら、俺は思った。
 「これは、ロシアのゴーゴリっていう人の書いた話を裏返しにした筋だよな。水木しげるさんが鬼太郎の漫画でも使っている」

 でも、これなら丁度いいぞ。
 俺は生まれ替わる度に、神職になったり、一揆の首謀者になったりしている。
 そして、その度にどんな人生を送ったかを、今の俺は思い出すことが出来るのだ。
 「今度は神職かと思っていたが、その実は悪人や妖怪の首を斬る方だったか」
 今生では初めてだが、しかし、前世では何百人もの首を切り落としている。だから、この手のことには慣れていた。
 「そりゃ」
 俺は微塵も心を動かさずに、妖怪に向けて刀を振り下ろした。
 ここで覚醒。