日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎今日の小話(その1) アリとキリギリス

◎今日の小話(その1) アリとキリギリス
 秋の夕暮れ。アリが道を歩いていると、キリギリスが倒れていた。
 全身が薄汚れ、羽もボロボロだ。
 アリは思わずキリギリスに声を掛けた。
 「どうしたんだい。おなかでも空いているのかい。ボクがあんなに言ったのに、秋冬の備えをしていなかったようだね。ボクは食べ物を沢山仕舞ってあるから、少しあげようか?」
 これにキリギリスが弱々しい声で答えた。
 「いや結構。オレはこのままでいいんだよ。運命だから」
 すると、アリは含み笑いを隠さずに頷いた。
 「そうだろうね。あんだけ遊んでばかりいたのだから、こうなるのは当たり前だもの。君は夏の間中、歌って踊って暮していたんだものね。まさに因果応報だけど、恥ってものを知っていれば、今さら食べ物をくれとは言えないだろうね。お父さんたちもそうだったけど、君らも同じだね」
 キリギリスは少しの間黙っていたが、徐に口を開き落ち着いた声で言った。
 「ねえ。オレたちの命は秋までなんだよ。そもそも冬の備えは必要がないんだ。短い夏の間に恋をして、子どもを作らなくちゃならない。だから必死でお嫁さんを探して歌っているんだよ。オレと君とはまったく別の一生があるんだよ」

 アリはキリギリスを凹ませてやろうと思っていたのに、キリギリスが平然としているので面食らった。
 そのアリの目の前で、キリギリスは息を引き取ろうとする。
 「オレたちは君みたいに長く生きられない。だけど、君みたいにがつがつと溜め込んだりせずに済む。嘘をついたり、ひとのことを妬んだりけなしたりしている暇も無いから、安らかに死んでいける。さて、君はどうだろうね」
 それを言い残し、キリギリスは静かに目を瞑った。
 はい。どんとはれ。

 原稿用紙2枚のショートショートを毎日書いて行こうと思ったのですが、これが本当に難しい。「短編をまとめるのは難しい」は定説ですが、まさに実感します。
 さて、ここからどう捻ればよいのか。
 かなりの練習が必要になりそう。