日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第693夜 母が会社に

◎夢の話 第693夜 母が会社に
 20日の午前2時に観た夢です。

 連日残業続きだ。
 年度末だし、近々、ある県での講演も予定していた。
 技術解説的なスピーチなので、職場の先輩ではなく、俺のような者がやらされる。
 この時期、オヤジにはしんどいから若手に回って来るわけだ。
 残業と言うより、ほとんど家に帰っていない。
 朝から夜中まで働き、2時3時にサウナに行って少し寝る。
 週に6日がそんな状態だった。

 金曜日の夕方で、今日は何とか家に帰れそう。
 「あと2時間くらいしたら帰ろうから」
 さすがにワイシャツの着替えも無くなり、洗濯をしなくてはならないし。
 職場の自室に座りぼおっとしていると、扉がコンコンと音を立てた。
 「はい。どうぞ」
 扉が開く。
 すると、そこに立っていたのは、母だった。
 「全然、連絡が取れないから、来てみました」
 母は俺がまったく家に帰っていないことを知り、息子のことを案じて上京して来たのだ。
 「わざわざ来てくれなくとも良かったのに。それに、独りでどうやって来たの?」
 母は病弱で、一人では新幹線に乗れない。
 人込みが苦手なのだ。
 その母譲りなのか、俺も駅の人込みが苦手だった。

 「私はやろうと思ったら、ちゃんとやれるんだよ」
 その声を聞いているうちに、最近のことを思い出した。
 そう言えば、もう半年以上、母の声を聞いていなかったな。
 俺はここんとこ、田舎にまったく電話していなかったのか。
 それで母がここに来ることにしたのだ。
 それなら、連絡くらいすればよかった。
 少し心が痛んだ。

 すると、扉の隙間から声が響いた。
 「よし。今日はこれから飲みに行くかあ」
 俺の上司の声だ。
 この上司は自分が飲みに行きたくなると、部下を無理やり誘って夜の街に繰り出す。
 何故なら、会社の者が複数で行くと、会合扱いになり飲み代を経費で落とせるからだ。
 年度末で家にもろくに帰っていないのに、ただ「経費で落とす」目的のために、連れまわされては堪らない。
 さすがにキツいので、俺は思わず「チッ」と舌打ちをした。

 すると、母がそんな俺の様子を見ていた。
 「私はいいからね。お前は皆さんと一緒に行きなさい。私はどこかホテルを探して泊まるから」
 「何言ってるんだよ。今断ってくるから」
 母をその場に置いて、俺は部屋を出た。
 部屋と言っても、大部屋を間仕切りで区切ったスペースだから、扉を開けるとすぐに女性従業員たちの顔がある。
 上司の部屋は、その大部屋の反対側だったが、その上司は共有スペースにふんぞり返って座っていた。
 「すいません。今日はちょっと都合が悪いのですが」
 すると、その上司が大きな声で答えた。
「おいおい。俺が連れて行ってやるって言ってるんだよ。お前だけ家に帰ろうなんて駄目だよ」
 周りを見ると、他の研究員の姿が見えない。ホワイトボードを見ると、他の者は出先から直帰するようだ。
 それじゃあ、俺がいないと経費では落とせない。
 女性従業員を連れて行ったら、パワハラだかセクハラだか、面倒なことになるだろうし、俺に執着する筈だ。

 「今日は母が上京してるんです。恐縮ですが帰ります」
 「とりあえず、お前んちに行ってて貰えば。すぐ解放するからさ」
 相変わらずだな、この人。
 大体、部下が週に6日も会社に寝泊りしているのに、自分はさっさと帰っている。
 「車代とか経費で落としてやるから」と言うから、7日目の深夜にタクシーで家に帰った分の伝票を経理に出したら、「これは何?」とクレームを言った。
 前の日に自分が言ったことを忘れているのだ。
 いつもそういう調子だから、俺はその上司の言うことを信用しなくなっていた。

 「いえ。母は体が弱いので、今日は一緒に帰りますから」
 ぴしゃっと言って、俺は上司に背中を向けた。
 自室に戻ると、しかし、そこに母の姿が無かった。
 「あ。今のを聞いていたのか」
 母は自分が急に上京したせいで、息子が上司の言い付けを跳ね除けていると思ったらしい。
 きっと自分から出て行ったのだ。
 「しかし、お袋の体で、これからホテルを捜し歩くのは無理だよな」
 胸が締め付けられる。
 俺は慌てて上着を掴み、自室を飛び出した。
 エレベーターに乗り、8階下に降りる。
 玄関口を出ると、外はもう薄暗くなっていた。
 家に帰る人たちが道を行き来していた。
 その雑踏の向こうに眼を向けると、ちらっと母の背中が見えた。
 齢を取ったのか、前より小さくなっている。

 「お袋。待ってくれ」
 思わず叫ぶが、その俺の声は人込みの中に吸い込まれた。
 俺は、母の背中が見えた方に向け、小走りで走り始めた。
 ここで覚醒。

 「半年連絡していない」理由は、母が亡くなったからです。 
その母の声はとてもリアルで、すぐ耳元で聞こえました。

 この夢を観させているのは、自分自身(の記憶)ではなく、誰か別の者です。
 私の心を締め付け、苦しめようとしているのだと思います。
 母であれば、息子の心を苦しめるようなことはしません。
 やはり、まだ憑きものを落とせていません。

 母は今、郷里のかつての実家にいると思います。