日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎あの世が近くなると・・・

◎あの世が近くなると・・・
 特有の匂いが出始めます。
 樟脳とセージを合わせたのを、少し甘くしたような匂いです。
 このところ、朝、更衣室で着替えをしていると、この匂いがします。
 一昨日、看護師に「何だか仏さまの匂いがする」と言おうと思ったのですが、回りの患者は真剣だし、かつ深刻な状況なので我慢しました。
 今日、その原因が分かり、匂いの発生源は、私の前に着替えをしたジーサンでした。入れ違いに入ったら、もの凄い匂いがしたので、思わずファブリーズを振り撒きました。
 消臭剤はいつもロッカーに入れてあります。
 「あの爺さん。きっと三ヶ月もたないな」

 昔、家に卸屋さん(60歳くらい)が来た時にこの匂いがして、同時に、何となく「この人はもうすぐ死ぬ」ような気がしました。父母にそのことを伝えたのですが、実際にその人はひと月も経たないうちに急逝しました。
 それを母が親戚に話したので、誰かが入院すると、必ず「見舞いに来てくれ」と言われる時期がありました。
 病人は「何も匂いがしないよ」と言って欲しかったのだろうと思いますが、実際、見舞いに行った人には匂いがありませんでした。

 セージは魔除けに使われますが、これはあの世の住人たちが嫌うかららしい。健康な人なら、匂いがあるかどうかも分からないほどです。
 ところが、身体がうまく機能しなくなると、今度は自分がこの匂いを発し始めます。
 私だけが感じるのではなく、匂いに敏感な人なら誰でも分かると思います。

 母も亡くなるひと月前から、「この匂いは嫌だ」と言い始めたので、あながち想像や迷信の類でも無さそうです。
 何せ、1年くらい前から私が「魔除け」のためにあちこちにセージを置いていたのですが、その時までは何も言いませんでした。
 そこまで行くと、もう止められません。

 そんなことを考えながら、病院の中を歩いていたら、椅子に母そっくりの白髪のご婦人が座っていました。
 びっくりするほど似ていたので、ご婦人をしげしげと眺めながら、前を通り過ぎました。(相手にはきっと変に思われていますね。)
 すっかり過ぎた後で、「やっぱり、俺のお袋のほうが品がある」と、溜め息を吐きました。
 がさつな息子とは違い、母親には持って生まれた品が備わっていました。