◎夢の話 第594夜 友来る
25日の午前3時に観た夢です。
山の中の古民家に住んでいる。
ここは明治初期に建てられた百姓家が二棟続く大きな家だ。それぞれに部屋が十幾つはあったはずだから、とても掃除が追いつかない。
いつも少し小さいほうの棟に居て、ほとんどその内の一室だけで暮らしていた。
齢を取ると、何をするにも億劫だし、畑で野菜を作っている。だから、毎日、野良仕事を終えると、体を洗って飯を食うだけで、すぐさま倒れるように寝入ってしまう。
その畑だって、田んぼ3枚と同じくらいの広さがある。草取りだけで、かなりしんどい。
この日も畑で仕事をしていたが、早々に疲れたので、道端にある大石に腰掛けていた。
すると、道の向こうからハイエースが来て、俺の前で止まった。
扉が開き、中からオヤジやオバサンが5、6人ほど出て来た。
「いたいた」とオヤジの一人が言う。
顔を上げてそいつを見るが、どこかで見た顔だった。
「ケンジくん。お久し振り」
オバサンが声を掛けて来た。
(割と小奇麗な感じのババアだな。誰だっけ?)
最近、オレは認知症気味なのか、昔のことが思い出せない。
普通は、新しいことが思い出せず、古いことだけ思い出せる人が多いのだが、オレの場合はどっちも思い出せなくなっている。
ま、病気のせいだろうな。
「もう何年ぶりになるかしら」
別のオバサンが声を掛けて来る。
ああ、なるほど。どの段階かは忘れたが、同じ学校の同級生たちだった。
「わざわざこんなところまで来たのか」
「うん。同窓会でお前の話が出て、今はきれいなところに住んでいるというから、来てみたんだよ」
「ふうん」
ここに来るのは、片道5時間は掛かる。となると、泊り掛けだな。
「部屋がたくさんあるそうだから、是非とも泊めてもらおうと思ってな」
なるほど。そう言えば。オレは誰かに「いつでも遊びに来い」と言ってたんだっけな。
でも、大概そういうのはリップサービスだし、来るなら事前に連絡するもんだ。
「ここは誰もいないし、退屈していたところだから、大歓迎だよ。寝る部屋を自分たちで掃除して貰わねばならないけどね」
部屋はあきれるほどたくさんあるし、野菜も食いきれないほど採れる。
風呂は五右衛門風呂だから、慣れないヤツには刺激的だろう。
「幾らでも居ていいよ。働いて貰うけどね」
オレは皆を案内して、家の中に入った。
「築150年だから、あちこち傷んでいる。気をつけてね」
居間に皆を案内した。
囲炉裏に座ると、ちょうどぴったり四方の席が埋まった。
「いいなあ。炭を熾して、鉄瓶でお湯を沸かしている」
「毎日、お茶を飲むのも大変だよ。普通は蛇口を捻ればお湯が出るし、レンジでぱっと暖められるけど、ここはまず炭に火を入れるところからだもの」
実際、そうだった。古民家の民宿に客として行くのはいいが、いざそこに住むとなると、やることがやたら多い。
「随分久し振りだわね。ケンジくん」
女子の一人が呟くように言う。
この辺で記憶が少しずつ蘇り、「オバサン」が「女子」に変化していた。
「ひとの心は面白いね。さっきまでとは違う」
そのオレの言葉にその女子が食いついた。
「どう違うの?」
「うん、さっきはバ・・・」
いけね。「ババアに見えていたのに」と言いそうになった。さすがに失礼だよな。
「バスが目の前に停まったから、何かと思ってさ」
慌ててごまかす。
「ところで、次の本はどうなったの。ずっと待ってるんだけどさ」
オヤジの一人が偉そうに言う。
「今のオレはそんな状態じゃないよ。生きているだけで精一杯だもの。何かを達成しようという体勢じゃない。新しい原稿を書くところまではともかく、それを書籍にまとめる体力がない」
実際そうだった。飯を食い、暮らしてゆくのが今は精一杯だ。
そう言えば、この男はいつもこういう調子だった。
(大体、自分は何もせず、ただ座っているだけなのに、何で偉そうなことを言うわけ?オレはお前のために作品を書いているんじゃないよ。)
もちろん、口には出さない。
「ここ、随分広いわよね。独りっきりで怖くないの?」
どうやら、オレには家族がいないらしい。
妻や子供がいるような気がしていたのだが・・・。
「別に平気だよ」
そこに別の女子が口を挟む。
「何だかドキドキするわね。修学旅行みたいだもの」
そりゃそうだろ。同級生が枕を並べて寝るなんて、何十年ぶりかだもの。
おまけに、このトシになれば、男女の感覚が小学生なみに戻るから、男女同じ部屋でもまるで平気だ。
露天風呂があれば一緒に入るのも平気そうだが、小学生は露天風呂には入らない。そもそもここは温泉じゃないし。
「周りが静か過ぎて、逆に寝付けないかもよ」
男子のこの言葉で、同級生を寝かせようと思っていた部屋の様子が思い浮かんだ。
四十畳敷きで、数十人が一緒に寝られる。
「布団はあるけど、何ヶ月も干していないから、早速、表に出して干しといた方がいいかもね。夕方まであと三、四時間しかない」
「急に人が来ても、布団が全員分用意出来るのか。さすが昔の家は広いね」
「ま、五十人でも大丈夫だね」
「へええ」
「それに、そんなに静かじゃないかもよ」
オレがそう言うと、女子たちがオレの顔を見る。
「どういうこと?動物でも鳴くの?」
「ま、そんな感じ」
動物じゃなくて、泣くのは「あの世の住人」なんだが、さすがにそれを口には出せない。
「ま、泊まってみれば分かるけど、ここはオレの家だからね」
オレの傍で寝起きすれば、きっとオレが見ているものと同じものを見られる。
きっと大騒ぎするだろうな。
ここで覚醒。
家は「肉体」の象徴で、現在の体の状態を表しています。
古くて、あちこちガタが来ている「ポンコツ」であることは確かです。
夢の中にも出た通り、日々を生きるのが精一杯で、著作を単行本化するのも停まったままでした。
「同級生」は「オレ」の中の一部で、「もっと努力して、前に進めよな」と言っているのです。