日刊早坂ノボル新聞

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◎本当に「不正」なのか

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◎本当に「不正」なのか
 厚労省の「毎月勤労統計調査」(通称は「毎勤」です)の不正疑惑が取り沙汰されているが、果たして「不正」なのか。
 「国勢調査」など人口統計や労働・経済統計には、政府の定める「指定統計」があるが、これらは基本的に内部処理される。「内部処理」と言うのは、実査から分析まで、基本的に行政機構の中で行われ、外部に委託されないという意味だ。
 「毎勤」もそのひとつ。都道府県が回収し、厚労省で集計される。

 今朝の某ワイドショーで問題視していたのは、以下の2点だ。
1)「毎勤」では従業員規模500人以上の事業所については悉皆調査とされているのに、一時期から3割程度の抽出調査に変更されている。
2)集計に際し、回収票を3倍に拡大した。 

1つ目の疑問は、何故調査方法を変更したのか、ということ。
 最もありそうなのは費用の面だ。実査に金が掛かるから、これを圧縮するために、抽出調査に切り替えた。これは別に承認手続きを経て、事実を公表していれば問題は無い。
 数値的にも、時系列分析等への限定符は付くが、必要な統計的手続きを経ていれば、大きな問題ではない。
 ただし、従業員規模500人以上の事業所であれば、わずか全国で数千社だ。東京都には集中しているが、指定統計であることを考えれば、さほどの作業量・費用でもない。
 この辺は、当事者でなければ、判断の理由は分からない。
 ただし、こういう「常に同じフレームで観察する調査」では、企画段階で「結果を操作する」のは難しい。おそらく実務的な理由があったということ。

 2つ目は「抽出調査なので当たり前」だ。
 悉皆で行うべきところを、3割程度のサンプルで行おうとするなら、回収段階で、産業別、企業規模別の構成と、本来あるべきサンプル構成との間に「ずれ」が生じる。
 このため、元の階層構成に近くなるように、回収票にウエイトを掛け、補正することになる。
 すなわち、結果を歪めているのではなく、正しているのだということ。

 以上の2点から、今のところ「不正」という判断は適切ではないように思われる。
 「悉皆調査」を任意で「抽出調査」に切り替えたということであれば、「不手際」と見なされる場合があるが、この段階では「不正」とは言えない。
 テレビに出ていた専門家風のアナリストは、統計について実務経験が無く、野党の批判も的外れだと思う。こういうのは、ほんの数分で「コイツ。あまりよく知らないんだな」と分かってしまう。

 アベノミクスの問題は「数値の偽装」などという次元の問題ではない。
 政策そのものがおかしいのだ。
 日銀は景気の底支えのために「禁じ手」を繰り出し、大企業の株をズブズブに買って株価を操作している。
 このため、大企業の株価は総じて安定し、そのことは「企業資産」の確保に繋がり、引いては「資金繰り」を容易にする。
 そのことで経営が安定し、収益性が高まれば、必然的に「大企業に働く従業者」の賃金が高くなる。
 だが、掲示した表の通り、日本には「従業者規模300人以上」の事業所に働く従業者は「15%しかいない」。
 アベノミクスの景気浮揚策の根幹は大企業に向けられており、中小企業従業者には直接的恩恵が届かない。
 「大企業が儲かれば、そのうち出入りの中小企業にも行き渡るさ」
 こんな「風が吹けば・・・」的な発想がアベノミクスの中核になっている。

 それを測る経済指標が、基本的にデータの取りやすい大企業を注視する傾向があるから、「経済指標がよく見えるのは当然」のことだ。実際の存在比よりも、「見られる」度合いが高くなるから、他の大多数の中小企業の従業者の生活観との間に乖離が生じるのも当たり前だろう。
 ま、統計の専門家であれば、「『戦後最長の好景気』はないだろう」と言うのが率直な感想で、「おかしい」と思っていた者は多い。

 目下の問題は次の点だ。
 再集計と分析は、統計アナリストであれば、さほど難しくない。
 研究者個人で行ってもそれほど時間は掛からない。
 これを「行わない」「公表しない」と言うのは、あくまで「政治的意図による」。
 要するに「調査手法が不正」(実は「不手際」)の次元ではなく、この場合は「政府が不正」ということ。