◎夢の話 第744夜 閉じ篭る
3日の午前3時に観た夢です。
外出すると、その度に異変が起きるようになったので、しばらくの間は外出しないことにした。
「異変」というのは、もちろん、「あの世」系の話だ。道を歩いていると、のべつ幕なしに後ろから声が聞こえるし、自分の後を人がついて来る気配がある。
それが何かを確かめたくて、一時は写真を度々撮影していたのだが、撮る度に心霊写真になるものだから、それも止めた。
必ず「出る」ことが分かってしまえば、探究心よりも、ウンザリ感の方が先に立つ。
用事の度に歩くのが面倒なので、家の居間で寝起きするようにになった。
居間で食事をして万年床で横になるか、仕事部屋で原稿を書くかが生活の総てに変わった。
一日に歩く距離は、たぶん、2百辰睫気い里任呂覆い。
この日も居間で横になっていたが、何やら外で物音がするので目を覚ました。
さりげなく、窓に目を向けると、窓の外に人影が見える。
すると、3人、4人が窓から家を覗き込んでいた。
「何だよ。勝手に庭に入って来やがって」
体を起こす。
「おい!勝手に庭に入るな!」
そう叫んだが、そいつらは、依然としてじっと俺を見ていた。
「泥棒にしては、堂々としているよな」
外は明るくて、まだ日中のよう。この辺、俺は不規則な生活をしているので、寝起きの時には、今が昼なのか夜なのか分からぬことがある。
俺の家では、泥棒避けに金属バット、特殊詐欺犯用に日本刀を廊下の壁に架けている。
後者は「出し子」だか「受け子」だかというヤツの腕を切り落として、上のヤツを呼ばせるためだ。
そこから先も同じような展開だ。
このため、うまく玄関口まで呼んで来られるように、問答集を書き、毎日練習している。
俺の性格では、腕ではなく、首を切り落としてしまいそうだが、ま、正義のためなら仕方ない。
俺は刑務所に行くが、何がしかの抑止力になればそれでよい。
詐欺犯だって、そういうリスクは承知の上だろうから、知恵と暴力の真っ向勝負になる。
「とりあえず金属バットだな」
廊下に向かう際に、ちらと窓を見ると、人の姿が消えていた。
気配を感じ、逃げようとしているのか。
「せっかく来てくれたのに、逃がしてたまるか」
俺は特殊詐欺が来てくれることを、心待ちにしていたのだ。
早足で廊下に行き、バットを下ろした。
すぐに玄関に向かい、スニーカーを穿こうとしたのだが、そこで玄関の明り取りに目が向いた。
外は真っ暗だった。
「ありゃ。今は夜なのか」
するとさっきの外の明かりは何?
ここで俺はゴーゴリの小説を思い出した。
妖婆に取り付かれた青年が自分を守るべく建物に篭るが、外から鳥のさえずりが聞こえたので「朝が来た」と思い、戸を開けてしまう。だが、実際は夜のうちで、青年は妖婆に殺されてしまう。
そんな感じの筋だ。
「なるほど。俺が閉じ篭っていたから、外におびき出そうという魂胆か」
おびき出す理由は、「取り殺す」のではなく、俺に「助けて欲しい」のだ。
「そういうのが嫌だから、外に出ないようにしているのに」
すると、その瞬間、溜め息のような息を吐く音がふたつも3つも聞こえて来た。
まるで外の者全員が一斉に落胆したかのような気配だ。
「自ら迎え入れなければ、悪縁は入っては来られないのだったな」
ドアを開いたりするのも、もちろん、「迎え入れる」ことだが、必要以上に「恐れる」ことも同様だ。相手の存在を認めていることになるからだ。
「ここは平常心、平常心」
俺はバットを元の位置に戻し、居間に戻った。
敷きっ放しの布団に腰を下ろし、改めて窓を見ると、依然として外は明るく、今度は鈴なりのように沢山の顔が俺を見ていた。
そういうのに慣れている俺でも、さすがに「思いっきり退く」瞬間だ。
今度は俺が溜め息を吐く番だった。
「ハア」
困ったもんだ。ま、見ないようにすれば何とか。
ここで左手を布団に着こうとすると、そこに毛の感触があった。
「あ。トラか」
良かった。こないだ、神社の境内で写真を撮ったら、俺の左腕に猫の頭が出ていた。
その時も「トラではないか」と思ったのだが、やはり、こいつだったか。
「トラ姉さん。やはり俺の傍にいてくれたか」
トラは返事をせず、窓ガラスの外をじっと見ている。
俺はさらに猫に話し掛けた。
「トラ。この数では俺の手には負えん。お前がこいつらを導いて、あの世に送ってくれないか」
トラは長年の間、神社の境内で参拝客を導いて来た。
生きている者も、既に死んだ者も同様だ。
すると、俺のパートナーである霊猫は、「分かった」と言わんばかりに、ひと声「ニャア」と鳴いた。
ここで覚醒。
目覚めはスッキリ。
強力な仲間を得て、不安感が小さくなりました。
これからは私が死ぬまで、トラと二人三脚となります。
イメージ的には「ホームズとワトソン」なのですが、たぶん、私はワトソンの方です。
主役は「トラ姉さん」の方ですね。
ちなみに、このところ、日中に無言電話があるのですが、どうやらこちらの様子を測っているような気配があります。詐欺犯が当たりをつけているのかも。
営業向けに、ややきつめの声で対応してしまうのですが、日頃は「高齢者のようにヨロヨロ声を出そう」と思っていても、つい忘れてしまいます。
まだ修行が足りない模様。