日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第56話 列車

夢の中の私は三十代後半。

接待で顧客を飲みに連れてゆく。
「連れてゆく」と言うより、打ち合わせの会食から次のクラブ活動までは、先方のリクエスト。
高級官僚なので、時代設定はそれがおおっぴろげでできたバブル期以前のことだろう。
夕食のコースは控えめで、1人3万7千円くらいの和食膳。
次のクラブはかなり上品で、周囲の客は医者か中堅以上の企業の管理職然としていた。

小一時間で客のトップが帰ることになり、店の外へ。
平身低頭して送った後、お付きの課長に儀礼的に、「ではもう1軒」と言ってみたところ、予想に反しすんなり応じる。
タクシーに乗り、馴染みの店へ。
その店のママは10年以上前からの付き合いで、接待の客を時々連れて行く。
椅子に座ると同時に、課長が手洗いに立ち、その隙に「お客さんなのでよろしく」とママに伝える。
ママは私と同じ年で、まだ若いのだが、客あしらいには長けている。

課長が戻ると同時に、店のきれいどころが2人来た。
さすがにプロだ。課長の好みに合いそうな人選は確か。
あとは女性におまかせ。

酔ったわけではないのに、記憶が飛んでおり、気がつくと列車の中に座っている。
向かい側では、課長がうたた寝
時計を見ると四時を回っていた。
「この時間に電車なんてあったかな」
窓の外は暗く、深い霧の中。

ゴトゴトと列車が動き出す。
シュシュポッポ。
あれ、これ機関車じゃん。機関車なんて30年以上前に無くなったはずだよな。
中学か高校の時に最後の運行を見た記憶がある。

前を向くと、寝ていたはずの課長と目が合った。
(寝てはいなかったのか。)
「私、もうすぐ仕事を辞めるんです」
課長が口を開いた。
「病気のせいで長くはもたない。いずれもうじき働けなくなります」
職場にはまだ伝えていないんだな。
課長は○○という遺伝病で、いざ発病すると、数ヶ月の命だと言う。
最近、最初の兆しがあったらしい。

「課長さん。その病気に罹っているのは貴方1人だけではないですよ。実は私も同じ病気です」
2万人に1人の確率が、たまたま出会った夜だった。
「そう悲観したものではないですよ。1年間で交通事故で死ぬ日本人の割合とそんなに違っているわけではないですし」
統計の使い方は、なんとなくそれらしく聞こえるウソ。
しかし、「何時死ぬか」は全く不平等だが、「死ぬ」のは各人に公平に起きること。
自分を哀れむ必要はない。なすがままに生きてゆくだけ。

課長を残し、独り列車を降りた。
プラットホームはまさに霧の中。
かすかな灯りを頼りに、改札口のほうへ歩き出した。

ここで覚醒。