トンネルの中をトボトボ歩いています。
周囲は真っ暗ですが、前方のはるか遠くに小さな光が見えます。
(これって昔心臓が止まったときの体験だなあ。)
確か、この先には川が流れていて、その向こうはお花畑が見えるはずです。
前回はトンネルの途中までで、そこから逆戻りしたのでした。
今回は案外と楽に進むことが出来、光のすぐ近くまで近づきました。
トンネルの端はドアで、少し開いた隙間からわずかに光が漏れていたのです。
(この先は「あの世」ってヤツなんだよな。)
少し躊躇します。
その時、光がゆらめき、中で何か動いている気配がしました。
思わずノブを握り、扉を開きました。
うへえ。
ドアの向こう側はあたり一面が燃え盛る紅蓮の炎で、赤やオレンジ色の光で満ち溢れていました。
炎の先は見渡す限り暗黒の闇のようですが、やはり所々で火が噴出していました。
(これって、地獄じゃん。)
慌てて数歩下がり、もう1度外へ出て、そっとドアを閉めました。
(どうせ地獄に行くとしても、今急いで入ることはないよな。)
トンネルの中を元来た方向に歩き始めます。
ハッと気がついてみると、長椅子に座っていました。
テーブルを囲み、7、8人で議論をしています。
(あ、師匠だ。亡くなってからもう15年近く経つなあ。)
先生の周囲には今は懐かしい先輩方が座っていました。
一瞬、気を失っていたのでしょうか。
「ちょっと失礼。トイレに行ってきます」
立ち上がり、部屋を出ようとしました。
10歩ほど進み、ドアのノブに手を掛けます。
扉を開くと、その先は漆黒の闇。しかし、すぐに炎が噴出してきました。
「うわあ!」
慌ててドアを閉め、テーブルの方に振り返りました。
皆が私を見ています。
「どうしたの?」
「いやあ、ちょっと」
(疲れてんのかな。あるいはいよいよ心の病気が始まっているのかも。)
「そんなことはないよ」
先輩の1人が答えました。
(この人、私が頭の中で考えていることがわかるのかな。)
「だって君はもう扉を開けたでしょ。まだ開けなきゃ良かったのにね」
その先輩も10年近く前に亡くなった人だってことに、その時気づきました。
ここで覚醒。