日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第86夜 頬を挟む手

夢の中の私はまだ20代です。
女性の部屋でソファに腰掛け、テレビを眺めていました。
眼は画面を向いているのですが、見ているわけではなく、もっぱら考え事をしていたのです。
しばらくして、その部屋の主である女性が黙って隣に腰掛けました。

女性は私より3つ年上です。
最初の日には映画館で隣に座り、次の日に郊外のレストランで隣の席になり、3日目に美術館でも会うという偶然が重なり、それがきっかけで付き合うようになったのです。

私は女性の腿に頭を乗せ、改めてテレビを眺め続けました。
少し眠気を覚え、テレビから眼を離し上を向きました。
その時、女性は黙って私の頬を両手で包みました。
私はそのままスッと眠りに落ちました。

眼が覚めると、隣では息子が寝息を立てていました。
女性の部屋のソファで眠り込んでから、20年以上経ってますので、ずいぶん長いうたた寝です。
私は無意識に息子の頬を両手で包んでいました。

この夢は過去の実体験です。
夢の女性は言葉や態度に考えや感情があまり出ない人でした。
まだ二十代の私は、半ば弟のような自分の立場を物足りなく思い、次第に女性から遠ざかったのです。
この人にとって自分は暇つぶしか何か。私が連絡しなければ、たぶんそれっきり。
実際、それきりになったので、「ああ、やはり自分は軽い相手だったのだな」と思っていました。
その女性は程なく郷里で良縁を得たと聞きます。もちろん詳細は知りません。

小さい息子の頬を両手で包んでいる時、父親はこの上も無い愛情を感じています。
起こさぬように気遣いつつ、しばらく頬を撫でるうち、かつてのあの女性の振る舞いを思い出しました。
茶店で、公園で、何度も女性は私の頬を両手で包みました。
愛されていたのですね。

私はその心に気づかず、自ら遠ざかってしまいました。
さぞ傷つけ、苦しめたことでしょう。
今となっては取り返しがつきませんが、打ちのめされる思いです。