日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第126夜 時の狭間にて その1

(気がついた時には既に夢の中にいた。もちろん、この時点ではまだこれが夢だという意識はない。)

数日の休みを利用し、郷里の生家を訪れていた。
この家には既に誰も住まなくなってから久しく、さすがにあちこちボロが来ている。
階段を上り、かつては私の部屋だった物置に入ってみた。
ここには、学生時代に私が読んだ本が、昔同様に山積みになっている。
ダンボールを開けてみると、そこには懐かしい書籍の数々。
古びた本の匂いがやたら懐かしい。奥に進むと、昔自分が使っていたベッドがまだそのままになっていた。
そのベッドに座り、手足を伸ばしてみた。
あの頃は広く感じたこの部屋も、今は小さく見えるなあ。
思い出に浸っているうちに、少しずつ眠くなってくる。

「ピンポーン」
呼び鈴の音が聞こえた。慌てて起き上がる。
どうやら眠り込んでいたらしい。
玄関のチャイムは、まだ鳴るのか。もはや20年以上は経っており、とっくの昔に壊れていてもおかしくは無いのに。

「はあい」
階段を降り、玄関のドアを開ける。
外に立っていたのは、3人の若い女性であった。
「エヘヘ。戻ってると聞いたから、皆で遊びに来ました」
誰だよ。この人たち。
少しの間、呆然とした。その表情を1人がめざとく見つける。
「あれれ。まさか私たちのことを忘れたわけじゃあ、ないでしょうね」
わざと怒った振りをする。
調子を合わせようとも思ったが、思い出せないものは仕方が無い。
「すいません。どちら様でしたっけ?」
「あらあら。本当なの。ひどいなあ。同級生のこの美女3人組を忘れてしまうなんて」
同級生?
見たところ、この女性たちはどう見ても30歳を超えてはいないようだ。かたや私の方は、もうじき50歳に届こうというオヤジジイ。
この時、たまたま少し横を向き、壁に掛かっていた鏡を覗いた。
そこに映っていたのは、せいぜい20台後半の若者の姿だった。

あれれ。さっきまでのが夢だったのか。
女たちの後ろには、私が乗ってきたバイクが覗いている。
車で来たような気がしていたが、そこに見えているのは紛れもなく私のバイク。
久しぶりに帰ったのは事実だけど、オレはまだ中年オヤジじゃない。
そう思い始めてみると、女たちの顔を思い出せそうな気がする。
「ううん。あなたはユミさんだったね」
とりあえず正面に立つ、勝気そうな女の子に訊いてみる。

「わかったのね」
その子が「ほれごらん」と言わんばかりに頷く。
「じゃあ、あなたはミサコさん」
「正解!」
右側の女の子が明るく答えた。

左側の女の子の名も当てねばと思うが、なかなか思い出せない。 
う~ん。
「この子はレイコよ。昔は大人しかったから目立たなかった?」
真ん中のユミが、やはり最初に口を出す。
ああ、思い出した。いつも控え目にしてるコだったな。

「ねえ。中に入らせてもらってもいい?」
「いいよ。埃だらけだけどね」
ドアを広く開き、女たちを迎え入れる。
「わあ。初めて入った。どこが埃だらけなの。きれいに掃除してるじゃない」
ドアを閉め、振り返ると、家の中は確かにきれいに整っていた。
玄関のすぐ内側は応接室になっていた。とりあえず三人をそこに招き入れる。
この部屋のドアを閉める時、居間の方から、料理の匂いが漂ってくる。
「お母さんがお料理してるのね。うん。これはお鍋だね」

母は数年前に病気になり、今は病院にいるのでは・・・。
しかし、台所の方からは、確かにタントンと野菜を切る音が聞こえてくる。
母さん。退院してたのか。
あれれ。そんなバカな。このオレが27、28歳なら母はまだ50歳になるかならないか。
少し頭の中が混乱する。

応接間に入ると、中央の長椅子には、3人が並んで座っていた。

(続きはこの記事の下に)左の「夢の話」から入る。