日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第126夜 時の狭間にて (続き)

「ねえ。結婚する相手は決まってるの?」
オレが向かい側に座るや否や、ユミが尋ねてくる。ユミの隣では、ミサコが「もうそんな話?」と言わんばかりに、ユミを小突いている。
「いいや。大学に残っている身だから、まだご飯が食べられない。結婚なんてとてもとても」
「センセイになるまで、奥さんに養ってもらえば良いじゃない。なんならワタシがそうしてあげようか」
ユミは昔からこうだったなあ。全然変わらない。
「皆はもうダンナさん候補は決まってるの?」
「それがまだなの。ケンジ君のお友だちで良い人いないかしら。そろそろヤバイのよね」と、これはミサコの方。
「ワタシはお友だちじゃなく、ケンジ君が良いなあ」
「ちょっとちょっと。図々しくない?」
ユミとミサコは2人で嬌声を上げるが、レイコはその端で、控え目に笑うだけである。

「レイコさんは?」
話を向けると、レイコは少しはにかんだように答える。
「私はバツイチだから・・・」
ふうん。離婚してたんだ。
「色々大変だったのよね~」と、すぐさまユミが脇から口を挟む。
美人だが、このコはちょっとかしまし過ぎるかな。

「皆、美人になったね。こんなことなら、誰かと付き合っていれば良かったなあ」
もちろん、リップサービスのつもり。
「やっぱり?今からでもまだ遅くないわよ」と、ユミ。
「卒業アルバムがあったはずだから、2階から持ってこよう。そうそう。もうじき、ご飯の仕度ができるだろうから、皆一緒に食べていくといいよ」
「わあい。やったあ」
応接間を出て、すぐ脇の階段を上ろうとする。
しかし、その前に母に断らねば。
居間に向かい、母の背中に声を掛ける。
「母さん。お客さん達も一緒で良い?」
「大丈夫だよ」
元気な時の母だ。良かったな。ベッドの中の具合の悪そうな顔を見るのは切ないから。

トントンと階段を上り、再び自分の部屋に入る。
卒業アルバムは、書棚の一番目立つところに置いてあった。
どれどれ。
ベッドに腰掛け、パラパラと頁をめくってみる。
3人とも同じクラスだったんだよな。ユミもミサコも、レイコも。
アルバムには、化粧っ気のまるで無い素顔の写真が並んでいた。

実際、付き合ってれば良かったかな。
順繰りに顔写真を見る。ユミはいずれ美人になりそうで、ミサコは利発そう。
レイコの番で、少し胸がきゅっとなった。
「このコ。密かに好きだったな」
バツイチだって言ってたけど、もしこれから付き合うなら、このコだよね。

アルバムを抱え、階段を下りようとする。
がたん。
埃だらけの階段に、スリッパが滑り、足を踏み外そうとしてしまった。なんとか壁に手をつき、転げ落ちずに済んだ。
驚いて、パッと我に返った。

ユミって、確か高速の事故で死んだのではなかったか。
その時には、ダンナと子どもが一緒だったはずでは。
かなり前の新聞の記事が、記憶に蘇った。
じゃあ。あそこにいるのは誰?
ミサコやレイコは。
母さん!

階段の下は薄暗く、人の気配がまるで無い。
天井の所々に、煤がぶら下がっているのが目に入る。
この階段の下、玄関の壁には鏡があるはずだ。それを覗けば、総てがはっきりするだろう。
一段一段下りながら、自分がどんどん年を取っていくのを感じる。
ここで覚醒。

昨夜の夢ですが、家は実在のものなのに、登場人物にはまるで覚えがありません。
女性3人も、母親も、現実の人達とはまったく異なります。と言うか、女性3人には全く面識がありませんでした。
この夢にどういう示唆があるのか、まったく想像できませんね。