日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第498夜 ストーカー

夢の話 第498夜 ストーカー
 病院から帰り、居間に腰を下ろしたら、そのまま眠り込んでいました。
 これはその時に観た夢です。

 瞼を開くと、駅のホームに立っていた。
 最初に自分の身なりを確かめる。
 俺は上下スーツ姿で、革の鞄を持っていた。
 「ははあ。仕事に行くんだな」
 周りのオヤジの中には新聞を抱えた人がいる。
 そうなると、たぶん、今は朝だ。
 「ところで、俺の名前は何だろ」
 どうにも思い出せない。ま、ケンジとかケンイチってことで。

 ホームにはざっと4、5百人の人が立っていた。
 電車を待つ間、何をするでもなく、ただ呆然と前を向いている。
 まだ、頭がよく働かないと見える。
 俺だってそうだ。
 ここで、不意に誰かに見られているような気がした。
 さりげなく、周囲を見回すが、それらしき人物はいない。
 「気のせいか。自意識過剰だな」
 電車が到着し、俺はそれに乗って会社に向かった。

 次の場面は夕方だ。
 仕事が終わり、会社のビルを出る。
 「真っ直ぐ帰っても、家に誰がいるでもなし。どこかで一杯飲んでから帰るか」
 俺には一緒に飲むような同僚がいないので、一人で居酒屋に行く。
 お姉ちゃんの居る店に行きたいところだが、あいにく給料日前で金欠だった。
 居酒屋で軽く飲んだ後、駅に向かった。
 それがちょうど9時くらいで、駅の前にはまだ沢山の人がいた。
 人ごみをすり抜け、改札の方に向かう。
 定期券を出す時になり、また今朝と同じ感覚にとらわれた。
 やはり誰かが俺のことを見ているような感じだ。
 後ろを振り向くが、赤ら顔の勤め人や、険しい顔をしたOLが歩いているだけで、別段、異常は見当たらない。
 マンションまで戻り、オートロックを解除しようとすると、またあの感覚が来る。
 横目で道路の方を見るが、ごく普通の通行人が数人歩いているだけで、俺を注視する者など見当たらない。

 その次の日も、行く先々で、やはり誰かの視線を感じた。
 家に帰るときには、誰かが後ろをつけてくるような気がするのだ。
 そして、この感触は日を追うごとに強くなった。
 そこで俺はついに決心し、俺の感覚が正常かどうかを確かめることにした。
 ある日、俺は俺のマンションのある駅のひとつ前で電車を下り、そこから家まで歩いて帰ることにした。
 駅と駅の中間には、かなり広い公園がある。その公園に沿って歩いて帰ると、前後百辰らいの間には身を隠す場所が無い。
 もし誰かが俺のことをつけているのなら、道のりの半ばくらいで急に振り返れば、必ず視界に入るのだ。
 俺は隣駅から2キロ近く公園の側道を歩き、唐突に後ろを振り返った。
 すると、俺の十五淡紊蹐砲蓮∈或Г陵良?鮹紊申?歩いていた。
 その女は視線を俺に向けず、ただ前の方を向いてやって来る。
 「俺のことをつけ回しているのはコイツなのか」
 どうにも自信が無い。
 うかつに声を掛けたりしたら、ここは人気の無い公園通りだし、痴漢と間違われてしまう。その女が俺をつけているのではなく、ただ家に帰ろうとしているのなら、間違いなく大声を上げるだろう。
 幸いなことに、すぐ近くに自動販売機があった。
 俺はそこで立ち止まり、コーヒーを買うべく、小銭を出した。
 こうしている間に女が近より、俺の前を通り過ぎる。その様子を確認すれば、俺のことをつけ回すストーカーかどうか察しがつくはずだ。
 女は俺に追いつき、そして、俺の横を通り過ぎた。
 そのまま何一つ顔色を変えず、まっすぐ前を向いて歩いていく。

 「なあんだ。違ってたか」
 近くで見ると、女は意外と美人で、スタイルもきれいだった。
 女がストーカーでないことが、少し残念に思えるほどだ。
 「でも、あの女はどこかで見たことがあるような気がするなあ」
 声を掛けてみようか。
 だが、それでは女を引っ掛ける時の常套句でいやらしい。
 次の日のことだ。
 いつも通り、駅のホームに立っていると、やはり誰かの視線を感じた。
 そこで周りを見渡すと、ホームの先の方に、あの女が居た。
 「あ。昨日の女だ」
 してみると、やはり俺を見ていたのは・・・。
 しかし、よく考えてみると、女の住まいはきっとこの駅の近くだから、この駅を乗り降りしてもおかしくは無いのだった。
 だが、明るいところで眺めると、やはり、どこかで見たことがある。
 俺は過去にあの女に会ったことがあると確信した。

 夕方、会社を出ると、俺はオフィス街の方に向かった。
 駅に行くには遠回りだが、こっちには過度が沢山あった。
 俺は4度ビルの角を曲がり、5度目のビルの角を曲がった瞬間にそこに身を隠した。
 もし俺のことをつけている者があれば、必ず同じ角を曲がってくるからだ。
 そのままそこに立っていると、やはりその角を曲がって来た者があった。
 やはりあの女だった。
 俺はそこで決心し、女に声を掛けた。
 「ねえ、あんた。あんたは俺に何か用事があるのか」
 女は俺のことを少しく眺め、ようやく口を開いた。
 「ケンジさん。私のことを忘れたの?」
 それだけを言うと、女は足早にその場を立ち去った。
 これで俺の謎が半分解けた。
 俺をつけているのはあの女で、しかも、あの女は俺の知り合いだ。
 「でも、一体あれは誰なんだろ」
 顔には覚えがあるが、それが誰かまでは思い出せないのだ。
 
 夜中まで考えたが、どうしても思い出せない。
 俺は思い余って、友人のコーイチに電話をした。
 これまでの経緯を説明すると、コーイチは笑った。
 「お前が前に付き合って、捨てた女じゃねえの」
 「俺は硬派だから、女とはあまり付き合ったことが無い。身勝手に女を捨てたことなんか・・・」
 「あるだろ」
 「無いわけじゃあないが、あの女じゃない」
 俺は大人しくて地味な女が好きなので、あんな顔立ちの整った女とは付き合ったことはない。
 「なら、幼馴染とかだな。小学校とか、中学校とか探してみれば」
 なかなか良いアドバイスだ。
 俺は押入れから昔の卒業アルバムを引っ張り出し、頁をめくってみた。
 すると、あの女らしき女子は簡単に見つかった。
 「なあんだ。小学校の時に隣の班にいたショウコじゃないか」
 隣近所の生徒なら同じ通学班になるが、その女子は隣の班で、登校途中で合流して、一緒に学校に行った。
 「ちょっと頭の弱い子だったな」
 俺のことを気に入ったのか、俺の周りに付きまとっては、まるで自分が俺の彼女であるかのような振る舞いをしたっけな。
 「ケンジくん。他の子と浮気したらだめだよ」
 「結婚したら、ダーリンって呼んでいい?」
 顔立ちは整っていたが、頭のねじが左巻きだった。
 「あいつか。何であいつがこの街に居る」
 中学まで、俺はショウコと同じ学校だったが、高校からは別の街に移った。
 大学は東京で、そのままこっちで就職したから、田舎とは縁が切れたようなものだ。
 俺のことをどうやって見つけたんだろうな。
 25歳になり、大人の女らしい色気も出たようだが・・・。
 「でも、やっぱりお頭(つむ)が左巻きじゃあな」

 ここで俺は良いことを思い出した。
 「そうだ。コーイチだって俺と同じ中学じゃないか。あいつに手伝って貰って、ショウコにストーカーを止めさせよう」
 すぐに、俺はコーイチに電話を掛けた。
 「コーイチ。分かった分かった。俺のことをつけている女は、ほれ、小中と同じ学校だったショウコだよ。オノデラショウコ」
 「まさか」
 「いや間違いない。アルバムで確かめたもの。絶対にショウコだ」
 「そんなはずは無いよ。だってオノデラショウコはもう死んでるもの。あいつは5年前に死んだはずだよ」

 ここで覚醒。

 バリバリのホラー夢のようですが、落ちがあります。
 「俺」をストーキングしていたのは、オノデラショウコではなく、ショウコの妹でした。
 子どもの頃、ショウコの妹は姉と同じ通学班で、俺のことを見ていました。
 その頃からショウコの妹は俺に憧れており、この街の駅でたまたま俺を見つけたのですが、俺がケンジ本人かどうかを知るために後をつけていたのでした。
 気が弱いだけで、お頭はおかしくありません。
 もちろん、幽霊でもありませんよ。