日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

何ひとつ終わっていない

所用があり、みちのくを旅して来ました。
帰路は、ほんの少しの時間ですが、郷里に寄り、老父母と話をしました。
これはその時に出た話題です。

遠縁のS氏が入院したとのこと。
S氏はいわゆる里子で、母の弟のような位置づけです。
S氏は祖父に農地をいくらか貰い、独立しました。
以来、半世紀近く、働きに働いて、和牛を50頭育てるところまで農家経営を発展させたのです。

そのS氏は、最近、体のあちこちに黒斑ができたのですが、原因がよくわかりません。このため、検査のために大学病院に入院しているということです。

牛を世話する人が不在であれば、大変なことになってしまいます。
「牛はどうしているの?」
「娘の〇〇が1人で面倒を見ている」
1人で50頭を飼育するのは、さすがにしんどいです。
「とりあえず、いくらか牛を売り、病院代を補てんして、世話の負担を軽くすれば?」
これは「絶対に無理」という話です。
なぜなら、原発事故の際に、東北から静岡付近まで放射能線量が上がった時がありますが、その時に、牛も牧草地も汚染されたとのことです。
このため、今現在も牧草は総て輸入したものを使用しています。
「牛も出荷停止のままなんだよ」

1度放射線にさらされれば、それが自然に消えてなくなることはない。
今は成牛を生かし続けるためだけに飼育しているとの話でした。

3年前から輸入品の牧草を食べさせていますが、その後生まれた子牛は汚染されておらず、売ることが出来ます。もちろん、出荷時には線量を測定し、基準値以下であることを確かめたうえで出します。
しかし、事故の時に成牛で、しかも汚染された牛となれば、永久に出荷停止です。牧草地については除染が必要ですが、福島から離れたこの地では行われていない模様です。

これではまさに「生殺し」です。
輸入牧草を買わねばならないので、負担は増えますが、収入はまったく見込めません。

「それじゃあ、弁護士を立てて、東電か国に買い取らせなくちゃならんね」
黒気和牛50頭なら、億円の桁で、これはS氏が人生を賭けて積み重ねたものです。
S氏には何ひとつとして落ち度がありません。

あるいは、原発を維持・推進しようとする政治家どもに、ステーキで食わせれば良いです。
「まともに全部を食って見せてから、同じことを言ってみろ」
食ったら、もちろん、すかさずお替りを出します。
(これは私個人の意見です。念のため。)

原発は、ひとつ間違えば、1国だけでなく、人類全体に禍根を残すことになる性質のものです。
これを止めないばかりか、管理がきちんと出来るかどうかもわからない発展途上国に輸出するなんぞ、人類に対する背信行為ですよ。

原発事故の処理は、まだまったく終わっていません。
いくら時間が経っても、自然に消えて無くなることは無いのです。

程なく再び東北を訪れますので、次は線量計を持参して、各地の線量を計測してみようと思います。
この地方の夏の風物詩である、和牛の放牧は「今では行われていない」のではないかという話でした。

なお、無用な余波を避けるため、具体的な地名は記載しませんでした。