日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第57夜

長い時間列車に揺られ、故郷に向かった。
連れがいれば長旅も苦ではなく、移り行く風景を共に眺めるのはむしろ楽しいと思えるほどだ。

ふるさとの家に入ると、父が両手を広げ二人を向かえ歓迎する。
「よぐ来なさったごと。ささ、中に入ってくなせ」
あれれ。この家は高校くらいまで住んでいた家で、その後、誰も住んではいないはず。
しかし、家の中は30年前と全く同じだ。

「あなたの部屋を見せてよ」
連れの女性が言う。
振り返ると、女性は微かに微笑んでいた。

この女性とは3年前に東京で知り合った。
以後、私が大学院を出るまで待ってもらい、ようやく結婚することにしたのだ。

茨城県生まれのこの女性は、私より年齢が1つ2つ上だったのだが、いつも控えめで二歩三歩下がったところから物言いをする。
気性の激しい私にとっては、安らぎを与えてくれる存在となっている。

「○○には、こっちの商売を任せようと考えているのす」
父は私が所帯を持ったら、自分の持つ会社の1つを任せるつもりだった。
「こんな田舎に住むのは、お嫌でないですか」
父の問いかけに、女性は笑って答えた。
「とんでもありません。家の前に梅の木があるのは私の家と同じで・・・」
控えめに語る横顔が、この上もなくきれいだった。

2人で2階に上り、かつて私が過ごした部屋に行った。
女性は物珍しそうに中を見回していたが、何か見つけたらしく、本棚の前で立ち止まりじっと1点を見つめていた。
「ねえ。これって、あなたの小さい頃の写真でしょ」
近寄って背中越しに覗くと、それは小学3年の時に家の前で撮った写真だった。
「こんな可愛い時もあったのね。なんちゃって」

女性の肩越しに写真を覗くと、今とは違う子どもの私が笑っていた。
ああ、この表情は息子にそっくりだ。
ええっ、息子!
オレに息子がいるのか。
まわりの風景が渦を巻くように回転し始め、すぐに消えていった。

目覚めると既に朝で、すぐ隣に息子が座っていた。
夢の中の女性は清楚なひとだったので、もう少し傍にいたかったような気もするけれど。
ま、こんなもんでしょ。

ところで、夢に現れた茨城の女性とは現実世界では全く面識がありません。
風貌、物腰にも思い当たるところがなく、あの人はいったい誰でしょう。
夢の中の異性は「自我の変化した姿」だと言いますが、「郷里で暮らしていれば今頃は・・・」という思いが心のどこかにあるということなのでしょうか。