日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第87夜 不倫 その3

「週に1度、ここに来て夫の様子を見て頂戴。毎週診察していただいても、変わりばえしないのだけど」
食事や排せつの介護は、メイドたちが完璧に行っているのだということ。
実際、3年も寝たきりだと聞くのに、男の体には床ずれ1つありはしない。

「ウチの主治医になっていただけたら、もっと嬉しいわ。報酬はひと月に1千万ではどうかしら」
思わず後ろを振り向いた。
「そいつはすごいね。でも君の言う主治医って、いつもオレがこの家にいなくちゃならんということ?」
「そう。昔と同じようにね」
コイツ。昔の強引な性格のままだ。
「やめとくよ。必要なら週に1度ずつ往診に来る」

帰り際、「送ってくれなくともいい」という私の言葉を聞かず、レイコは車に乗り、私の隣に座った。
門を出ると、2軒隣のオバケ屋敷が眼に入る。
「知ってた?あそこの建物で起きたこと。昔話したことがあったっけ?」
「何のことかしら」
他人に話して、喜んでもらえる内容じゃないから、伝えていなかったらしい。

帰路は思いのほかスムーズで、40分ほどでクリニックの前に着いた。
「ちょっとごめんなさい。携帯を取るから」
レイコは私の体越しに手を伸ばし、反対側に置いたままだったバッグから携帯を取り出そうとする。
一瞬、目の前にレイコの首筋が見え、香水の匂いが鼻腔に拡がった。
これは、オーストリアの香水だ。たしか「月の涙」だったか。あるいは「星の涙」?
私が昔、プレゼントしたのと同じもの。

感傷に浸ったのは一瞬で、すぐに私は車の外に出た。
ドアが閉まり、去っていく車の窓に軽く手を振る。
さっきのって、明らかに私へのメッセージだよな。
夕暮れの風が頬に当たるが、さほど冷たく感じない。もはや3月で、日一日と春めいた気候になってきた。 
(長い夢です。まだ続く。)