日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第116夜 追いかける影

夕方、1時間ほど仮眠を取った時に見た夢です。

新しい小説を出版し、記念パーティやらが終わった後で、夕方いったん事務所に戻った。
秘書が待っていて、「7時にお客さまがいらっしゃるそうです」と私に伝える。
「誰?」
「Tさんという方です。ご友人だとかで」
Tって誰だっけなあ。
「疲れているから、断ってくれない?電話番号は聞いてるの?」
「ええ。よろしいのですか?」
「体調が良くないのに、このところ出ずっぱりだからね。私は奥で少し寝るよ」
応接室の奥には、仮眠用の控え室があり、忙しいときにはいつもそこで休んでいた。

20分もしないうちに、人の声がする。
「中で待たせてもらいます」
秘書を押し切り勝手に中へ入ってきたらしい。
「でも、今日は帰ってくるかどうかわかりませんよ」
秘書は20分も待たせれば、この客は帰るだろうと踏んだ模様。

控え室には、防犯用のモニターが付いており、応接室や受付の状況が見える。
「ああ、あれは」
大学の同期で、今は某出版社の企画部長をやっているはずのTか。
しかし、いないと伝えたはずの自分が奥からでてきたのではまずいよな。
モニターの中のTは、黙ってソファに座っていたが、脇に置いてあった新刊を手に取り、中を検めている。
1分も経たぬうちに、Tは本を閉じ、顔を両手で覆った。よく見ると、Tの体はぶるぶる震えていた。
何あれ?泣いてるのか。
仕方ないな。

別のドアから外に出て、事務所の玄関に回り、再び中に入った。
秘書の前を通る時、人差し指を唇に当て「黙っていて」という合図をする。

「やあ、どうも久しぶり。このところ忙しくてね」
Tが顔を上げた。何も言わず、黙って私の顔を見ている。
「久しぶりだね。今日はわざわざ来てくれたの?」
私はTの向かい側に座った。
「お前。あの時のこと、書いただろ」
Tが口を開く。
「え?」
「皆で一緒にドライブした時のことだよ。Hの山の中」
ああ。今度の新刊のことだ。学生がドライブしていたら、色々と恐ろしい目に遭うというホラー小説。
「読んだのか」
「読んだも何も、実体験だろ」
最近、書くネタが乏しくなったので、つい学生時代の恐怖体験を素材にしたのだった。
「あの時、あの赤い服の女を車に乗せてれば・・・」

20年近く前に、4人でH山中をドライブしたことがある。
深夜の2時ごろで、霧が出ていた。
ライトを点けていても、10メートル先までしか見えない。
そんな時、赤い服の女が突然前に現れたのだった。

「ちょうど怪談話をしていた時だったから、驚いて逃げたよな」
「ああ。まさに幽霊みたいな姿だった。服が赤いのは、生地が赤いのか、血で赤くなったのかわからんような感じだった」
「運転していたのは誰だっけ?」
「Kだよ。今は雑誌の編集長をしている」
もう同期の皆はそれぞれエラクなってるんだよな。
「あの時はあの女に驚いて、一目散に逃げたよな」
「ああ」
「ところが、2日後にH山中で女の死体が発見された。若い女がナイフで刺された上に車で轢かれ、崖から下に捨てられたという事件だった」
「うん。憶えている。後から思えば、あの女は殺人鬼から逃げる途中だったのかも」
この後、しばらくの沈黙。

「ちょっと、いい話ではないから、皆でこのことは黙っていようということになった」
「そう。後になってからはどうしようもない。女の他に何かを見たわけではないしね」
「じゃあ。なんで本なんかに書くんだよ」
「それが起きた年と、H山中という場所と、赤い服の女以外は作り話だよ。ジャガーとすれ違ったとか、ナンバーの下二桁が何番だとかはね」
「あの時の犯人は捕まってないだろ。たぶん、お前が書いた話の中で、何か引っ掛かる箇所があったのだろう」
視線を下げると、Tの手が震えているのが目に入った。
「何かあったのか」
「Kのところに、脅迫状のような手紙が届いた。Kの会社は大手だから、Kを匂わすような登場人物がいれば、すぐに調べられる。お前の話の中では、その時実際に色々なものを見たのはKだということになっているそうだな」
「まさか、そんな偶然があるとは」
「どうやら、オレたちは狙われているらしい。Kの同期から手繰ってオレのところにもコイツが届いた」
Tが見せたのは、おどろおどろしい絵だった。女が血を流して死んでいて、その近くを私たちの乗る車が通り過ぎようとしている。辺りは血だらけだ。
「お前のせいだぞ」
そう語るTに、私は何ひとつ言い返すことができない。何せ、大半はただの作り話のつもりだった。
「あるいは、ことによると犯人の方ではなく、女を見捨てて逃げたことを恨みに思う者の仕業かもしれないぞ。しかし、いずれにせよ相手は異常者に間違いない」

少しやっかいなことになったらしい。
執念深く付け狙われることになるかも。
応戦して撃退するだけでなく、相手の息の根を止めるところまでやらないと心神喪失とか何かでまた外に出てくる可能性がある。馬を殺せるくらいの強力なスタンガンが必要になりそうだ。

ここで覚醒。
長々と続きがありそうな夢でした。こういうパターンの夢は時々見ますので、日常生活の中で起こりそうなシチュエーションなのでしょう。