日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第115夜 幽霊旅館

今朝がたの夢です。

気がついたときには、古い旅館の三和土に立っていました。
女将さんらしき女性が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれたのですが、顔を見ると眼が全く笑っていませんでした。
板間に上がり、部屋に案内されます。女将さんの先導する後ろで、廊下を進んで行くとギコギコ音がします。

この旅館は、旅先で予定のスケジュールをこなせなかったので、駅の前の観光案内所で紹介して貰った旅館でした。秋の旅行シ-ズンなのに、その旅館だけ空いた部屋があったのです。

廊下を歩きながら、自分が夢の中にいることを自覚しており、「これって、30年位前に○○県で経験したことだよな」と頭の中で考えています。
そこは部屋数は15室くらいで、あとは宴会場のような部屋が奥に2つだけの小さな旅館でした。

部屋に通されたら、既に疲れていたので、座布団の上に横になります。すぐに、半分は起き、半分は眠っている状態になってしまいました。うつらうつらってヤツですね。
少しすると、襖ごしに奥の座敷のほうから、なにやら声が聞こえてきます。
宴会が始まったらしく、オジサンたちが声高に議論したり、オバサンが嬌声を上げてます。
煩いなあ。

トイレに行きたくなったので、廊下に出ます。まだ体が起きておらず、全身が重く歩くのは容易ではありません。
トイレは廊下の奥の角を曲がったところなので、廊下の壁に手をつきながらゆっくり歩いていくと、座敷の前を通りかかります。
ちょうど、たまたま襖が開き中が見えたのですが、座敷では二十人以上の人たちが宴会をしていました。
だいぶ飲んでいるらしく、皆大声になってます。
芸者さんもいるようなので、「こんな山の中にねえ」と妙な気がしました。

トイレがまた古くて、漆喰の壁が所々剥げ落ちてます。
用を足し終えたので、またゆらゆら歩きながら廊下を戻り、元の部屋に入ります。
再び座ると、また寝入ってしまいました。今度は深い眠りに落ち、眼が醒めたのは1時間くらい経ってから。
時計を見ると9時半くらいなので、「急いで飯を食って、風呂に入ろう」と帳場の方に向かいます。
帳場の向かい側に、食事用の小部屋があり、1人とか2人の客はそこで食べることになっていたのです。

帳場には女将さんがいたので、「奥の宴会はもう終わったんですか?」と聞くと、「え?」という声に続いて、怪訝そうな視線が帰ってきます。ずいぶん眼光のキツイ女性です。
ま、いいか。静かになったんだし。
部屋に戻る時に気がついたのですが、客間で灯りが点いているのは私のところだけです。
おかしいな。さっきはあんなに煩かったのに。

廊下を歩いて、奥座敷の方に近寄ってみると、やはりしんとしています。
襖を開けてみると、中は真っ暗で、かび臭い匂いがします。そこでさっきまで宴会か何かをやっていたようには見えません。
疲れていたので、深くは考えず、部屋に戻って寝ました。

翌朝、タクシーを呼んでもらい、旅館の前でそれに乗り込むと、すぐに運転手が振り返りました。
「お客さん。ここに泊まってなんとも無かったの?」
「宴会の音が煩かったけど、それ以外は別に」
運転手は「はあん」と合点のいった顔をして、「宴会。やっぱりね」と呟きます。
「お客さん。地元じゃあ、ここで宴会をする人はいないんですよ。前に火事が出て、泊まり客が十何人も死んだから」
「ええ?」
「お客さんはシャイニングって映画を見たことがあるの?ジャック・ニコルソンの出てたやつ」
「ありますよ」
「あの中で、ニコルソンがホテルの広いフロアに行くと、百年前に死んだ人たちがパーティをやってるシーンがあるでしょ。ダンスを踊っていて」
「ああ、ああ。覚えてます」
「ここは、あれと同じで、あの世に行けない死者たちが、ずっと宴会をやってる旅館なんですよ。ここに泊まるのは、遠くからぶらっときた旅行者か、死にたくなった人だけなんですよ。自殺願望のある人は、この旅館に泊まり、その次の日には、この先の崖の上から飛び降りる。ここの旅館が細々とでもなんとかやっていられるのは、そういうふうに自殺しようという人が来るからだけどね」
 嫌な話だな。

 道の先に眼をやると、両側に看板が立ってます。
「命を無駄にするな」
「もう一度考えよう」
「まだやり直せる」
 200メートル置きに、自殺防止用の看板が並んでいました。
 旅館をかなり離れてからも、昨夜の宴会の声ががさがさと蘇ってきます。

 A県にもこういう旅館があるそうだけど、これと同じ経験が何度もあるなあ。H県とかG県とかで。
 そんなことを考えながら、呆然として道の先を見ています。

 ここで覚醒。