日刊早坂ノボル新聞

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◎『シャイニング』の怖さ

◎『シャイニング』の怖さ
 ホラー映画の中で「最も怖い映画」は何かと問われたら、やはりその答は『シャイニング』だろう。
 幾つか他の映画には無いものがある。

 この映画の中で最も怖い場面は、割と早い段階に来る。
 親子3人しかいない高原ホテルの中を、息子のダニーがカートで走り回るのだが、廊下を曲がると、二人の少女が立っている。
 あの場面だ。
 それまで、そのホテルの「いわく」などはまだ語られていないから、その少女たちが何者かは分からないのだが、とにかく薄気味悪い。

 実際に幽霊を見たことがあれば、「これだ」と思うことだろう。
 出方にリアリティがある。
 ただ少し違うのは、映画ではダニーの真正面に二人が立つのだが、現実にはそういうケースは少ない。
 そこは映画的な視角要素を考えてそうしたのだろうと思う。
 よくあるケースは、視野の端に「一瞬だけちらっと見える」というものだ。

 私の実体験ではこうだ。
 道幅6メートル程度の道路が交差する十字路に差し掛かり、そのまま真っ直ぐ交差点を越えようとした。
 左右の道が1秒だけ視野に入るのだが、一瞬だけ、右側の視界の隅に人が見える。
 赤い着物を着た女性だ。着物というより肌襦袢で、外で着るものではない。
 季節は冬で、時期にそぐわない格好なので、「あれ」と足を止め、振り返って、右の道の先を見るのだが、その時にはもう誰もいなかった。
 映画では、少女たちは十秒近く立っており、歩いて去って行く。
 しかし、幽霊は多く瞬時に消えてしまう。
 「気のせい」と「うまく説明できない」事態の中間くらいの感覚なので、不快さだけが後に残る。

 それと、もうひとつリアリティのある場面は、宴会場のシ-ンだ。
 誰もいない筈のフロアに、ふと気付くと、酔客が沢山いて騒いでいる。
 これも嫌な場面だ。

 このブログで幾度か書いたので省略するが、私も同じような経験をしたことがある。
 旅館に泊まり、早く休んだのだが、12時1時になっても、奥座敷から騒ぎが聞こえている。
 うるさくて寝られず、完全に目を覚ましてしまう。
 時計を見ると、もはや午前2時だ。
 田舎では、冠婚葬祭の時には、長っ尻オヤジががなかなか帰らないことがあるが、さすがに2時では遅すぎる。
 帳場に文句を言おうと、部屋の外に出るのだが、その時もオヤジががなる声や女性の黄色い声が盛んに聞こえる。
 帳場に行くには、廊下を渡り、宴会場の前を通って1階に下りる必要があるから、その奥座敷の前まで行くと、そこで声がピタッと止んでしまった。
 ワイワイ騒いでいたのが、突然、静かになったから、不審に思い、襖を開けて中を見た。

 すると、その宴会場は真っ暗で、人は一人もいなかった。
 「おいおい。さっきの声は何だったの」
 慌てて部屋に戻り、布団の中に逃げ込んだ。
 喧騒と静寂のコントラストがあまりに鮮やかだったので、今も鮮明に記憶に残っている。
 2食ついて3千5百円。数十年前だとはいえ、安過ぎる。
 そのことを知っている人は、さすがに行かないと思う。
 でも、世間の人の半分は鈍感で、目の前に幽霊が立っていても気付かない。案外、今も営業しているのかもしれん。
 もちろん、儲かりはしないわけだが、今なら「幽霊温泉」みたいな告知をすれば、逆に客が訪れる可能性はある。

 『シャイニング』はビデオで時折見直すが、セリフも大方憶えてしまっているので、この少女の登場場面と、バーテンが急に現れる場面だけを観る。