日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第131夜 居間にあった死体

酒を飲みすぎたのか、夜中に喉が渇き、2階の寝室から居間に下りた。
ドアを開けると、居間のテービルに、人が1人座っているのが目に入る。
誰だろ?
子どもたちは夏休みで、皆旅行に出ているし、妻は寝室で眠っている。
灯りを点けてみると、そこに座っていたのは男だった。
男は椅子に座り、テーブルに両手を預け上を向いていた。
タレントのN井とかいう男にそっくりな痩せ型。
あっ。コイツはあのヤローだ。
能無しの評論家で、ことあるごとに俺の批判をくり返していたヤツ。自分の存在意義を、他人の悪口で達成しようとするような輩だ。もちろん、傍目の悪口だけで、「じゃあ、自分がやってみせる」とは絶対に言わない。
なぜこんなヤツがウチの居間にいるのか。

近寄ってみると、この男は椅子の上で死んでいた。
何だコイツは。よりによって、ウチの居間で死にやがって。
2階の妻を呼ぶ。
「おーい。カーサン」
妻は頭を掻きながら下りてきた。
「カーサン。昨日、コイツを殺したか?」
妻は目をしょぼつかせながら、死体を見る。
「わ。死んでるの」
「都合の悪いことに、ほら、頭や首に青あざがあるぞ」
「殺されたみたいね」
「誰が殺したのだろ。お前か。それとも俺か」
「まさか。こんなヤツ。殺す価値も無いでしょ」
その通りだ。コイツが何を言っても書いても、これまでは一切黙殺してきた。
「しかし、ウチで死んだとなるとやっかいだぞ」
「そうね。犯人はどうみてもトーサンだものね」
コイツが馬鹿みたいに俺の批判ばかりしているのは、世の中の誰もが知っている。ウチの居間で、殺されているとなれば、否応無く俺が犯人扱いだろう。
「疑われて、調べられるのも馬鹿らしいね」
「そうね。こんなくだらないヤツだものね」
「どうしよう」
「どっかに捨ててくれば?」
「どっかに捨ててくるったって、コイツは痩せていても65キロはありそうだ。コイツを担いでいくのは容易ではない」
「じゃあ。おじいちゃんの会社で軽くしてもらえば?」
「そうだな。そうしよう」
義父の会社は、食品の乾燥加工の会社で、乾燥野菜を作っている。平たく言えば、そこにはフリーズドライの機械があるってこと。人間の体の95%以上は水分なので、フリーズドライさせてしまえば、ほんの数キロまで軽くなる。
義父の会社は、すぐ近くの1キロ先にある。今は深夜で、工場には誰もいない。
妻は義父の会社で、長らく事務を手伝っていたので、勝手は知っている。

男が仕上がるまで半日掛かったが、翌朝の始業時間のぎりぎり前に間に合った。
フリーズドライで乾燥したものは、凍った時の形のままなので、男は膝を抱えた格好のまま固まっている。
これを一旦、ダンボール箱に入れて持ち帰った。
「さてこれからどうしよう」
「片手で持てる重さなんだから、そのままどっかに捨ててくればいいじゃない」
「人の姿のままなんだから、そう簡単じゃないぞ」
 試しに腕を引っ張ってみると、パキと音を立て、肩の骨が折れる。
「やめなさいよ。気色悪いから。バラバラ事件になっちゃうでしょ」
ここで思いついた。
「ああ。蝋人形館をやってるヤツがいたな。コイツはタレントのN井に似た顔だから、蝋人形館に置いて貰えばいい」
早速、蝋人形館に乾燥死体を持って行く。
ここの主人は「勝手知ったる仲」で、20年来の友人だ。
入り口の受付で「こんにちは」と言うと、女の子は「ああ。いつもお世話様です」と頭を下げる。
エレベータで3階に上がり、乾燥死体を歴代総理大臣の間に置いた。著名人有名人の当てこすりで生きてきたヤツだから、コイツも幸せだろ。

チン。
ここで背後のエレベータが開いた。
中からは作業服を着た男が2人出てきた。
男たちは俺の前まで来ると、頭をぺこりと下げる。
「あ。管理会社のものです。水漏れはどこですか?」
俺のことをここの社長と間違えているらしい。
「水漏れ?そんなのあったっけ。この階なの?」
「そういう風に聞いています。ああ、ここだ」
男たちが見上げる先を見ると、確かに天井の一角からポツンポツンと水が滴っていた。
「こりゃあ、天井裏に溜まってるかもしれないね」
男の1人が長い棒で、天井を軽くつついた。
その途端、天井板の隙間から、バケツで10杯分以上の水がどしゃっと落ちてくる。
水は周囲の蝋人形の上に降り注いだ。
「あちゃちゃ。こりゃしくじったぞ」
男たちは狼狽している。

「わあ、何だあれ!」
一人が指差す先には、俺が置いた乾燥死体がある。
その死体は、あたかも生きているかのように、うにうにと手を振り動き回っている。
紙のこよりに水を注すと、巻きがほどけて活発に動くが、それと同じことが起きていたのだった。
水を含んだ死体は「ここで黙って死んでなるものか」と言わんばかりに、一心に踊りを踊っていた。

ここで覚醒。