日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

病院の怪談? 「キャリア婆さん」の話

8月に3週間ほど入院していました。これはその時の実体験です。
心臓の病気でしたので、入院期間の大半はベッドで寝て暮らしました。
昼夜ベッドで横になっているので、夜になったからといって寝られるわけではありません。
やはり消灯の後、2時3時になっても起きており、多くは考え事をしています。
また救急病棟の夜は、看護師の多くが起きているし、ひっきりなしに救急車が来るので、サイレンや人がバタバタ動く音でかなり煩いのです。

たまに静かな夜もありましたが、そんな夜には「キャリア婆さん」が出ました。
人の動きが無くなった深夜に、廊下を車輪のついたキャリアが動く音が聞こえます。
スーパーでは、上に買い物篭の付いたキャリアを使いますが、構造はたぶんあれと同じだろうと思います。
あのキャリアから出る音は、私にとってはまさしく生活音なので、絶対に間違えません。実家は商店で、あの籠の金属が擦れる音の中で育ってきましたもの。

深夜、病棟の廊下でその婆さんが押すキャリアには、空き缶がぶら下がっていて、キャリアが動くとからからと音を立てます。
これは、ホームレスががらくたを前の籠に入れて移動するときの音と全く同じです。
夜中に、たまにこの音が聞こえたのですが、最初は何の音かわからず、看護師が検査器具を入れて移動しているのかと思っていました。
しかし、夜の3時に検査には回らないし、「大体、あのカンカラの音は何?」ですよ。
この病棟はかなり広く、廊下を端から端まで進むと、70、80㍍はあります。この廊下をキャリアが端から端まで移動する時の、カンの立てるカラカラという音が、まるで何かのリズムのように聞こえました。

4回目くらいに、ようやく「これって、買い物用のキャリアの横に空き缶をぶら下げて、廊下を歩いている音だよな」と気がつきます。
あの音は間違いなくそういう音だ。
この時、ちょうど開けっぱなしのドアの前を通り過ぎるキャリアを目にしたので、それを押しているのが婆さんだってことがわかりました。
服装は病院で見かける医師や看護師の白衣や、患者のパジャマ姿ではなく、ごく普通の年寄り臭い洋服を着ていました。

しかし、夜の2時3時の時間帯に、スーパーで使うキャリアを押して、救急病棟の長い廊下を歩く婆さんなんて、本来いるわけがない話です。婆さんはいったいどこから現れたのでしょうか?

委細正体不明で、考えようによっては怪談の域ですね。
「次にあの婆さんが来たら、廊下に出て行って見てやろうか」とも思いましたが、起き上がれるようになってからは婆さんは部屋の前を通りませんでした。
退院が間近となった頃、遠くの方でカンカラの音が聞こえた時もありますが、それを確かめるためにはナースステーションの前を通ってICUの方まで行かねばならないので、かなり面倒です。
「ふうん。やっぱりまだいるんだな」と思うだけでした。
 
入院中は自分のことで精一杯だったので、「キャリア婆さん」のことを思い出したのは、退院後10日も過ぎてからです。
一体あれは何だったのでしょうか。