日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

病院の怪談2 「でかい女」の話

病院での怪異譚の続きです。
 
突然、心筋梗塞になった私は、たまたま近くにあった○○病院に入院しました。
動脈が3本詰まっており、これを2回に分けて治療してもらい、何とか3週間で退院することが出来ました。
 
この病院は循環器で有名で、救急車で運ばれる人の大半は心臓の病気です。
1日に10件から20件は、救急車が出入りしていました。
場所が場所だけに、毎日のように亡くなる方がいました。具合が悪くなり、ICUに運ばれていくのですが、そのまま病棟には戻って来ないのです。
しかし、毎日のことだし、新しい患者が次々運ばれてきますので、生き死にもごく普通の「日常の出来事」という感じでした。
 
入院後、最初の1週間はベッドに寝たままで暮らし、2週目にようやく点滴を打ちながらも1人でトイレに行けるようになりました。
トイレに向かう廊下に出ると、遠くのICU病棟まで一直線に見通すことが出来ます。
廊下では、医師や看護師が忙しそうに立ち働いています。
 
ある日の昼食の後、トイレに向かう際に、はるか遠くのICU病棟を眺めると、入り口近くにひと際大きな人が立っていました。
優に185センチ以上はありそうです。
後ろ姿のその「でかい人」は白衣を着ていました。
お医者さん?
しかし、長い髪が背中の途中まで垂れていました。
看護師さん?
違うなあ。看護師なら、髪は束ねるものね。でも、女性だろうな。
 
廊下ではひっきりなしに人が行き来していますが、真ん中に立つその「でかい女」のことはまったく気にしていないようです。
見えてもいないのではないか。
 
うへへ。気持ち悪い。
そこに居てはならないもの、見てはならないものを見たような気がします。
とてつもなく嫌な感じです。
 
エレベータが開き、担架で急病人が運ばれてきました。
救急車で1階のERに入ったが、集中治療が必要となり2階に運ばれてきたのでしょう。
ICUのドアにその担架が移動すると、近くにいた「でかい女」も、その後ろをついて行きます。
直感ですが、この時、何となく「あれって、たぶん死神だよな」という考えが頭に浮かびました。
2度と見たくないぞ。
 
しかし、その5日後、もう一度その「でかい女」を見ました。
トイレから出て、部屋に向かおうとすると、病棟の渡り廊下から不意に出てきたのです。
「でかい女」は、私の直前に現れ、背中を向け歩み去ろうとしています。
私が見たのは背中だけですが、やはりそれが女だという確信があります。
 
私はそこで足を止め、ただでかい女の背中を凝視していました。
金縛りにあった時のように、まったく動けなかったのです。
うわあ。振り向くなよ。
頼むからオレの方には来るんじゃねえぞ。
 
「コイツ。絶対死神だよな」
頭の中で般若心経を唱えようとします。ところが、日頃暗記している筈のその短いお経を思い出すことが出来ません。
うへへ。参ったな。
数十秒の後、でかい女の姿が消えると、すっと体が動くようになったのです。そこで、私はベッドに戻って経本を取り出し、1時間くらいの間ひたすらお経を唱えました。
 
退院してから、友人に「エライ目に遭ったよ」とメールを打つついでに、この「でかい女」の話を書いたら、1人の友人が「オレも同じようなのを見たことがある」との返事を寄こしました。
どうやら、既に都市伝説のようになっているらしいです。
 
沢山の人が行き来する中に、無造作に立っている「でかい女」の姿は、まさに異様なものでした。
当たり前のようにそこに存在していましたが、全身から禍々しさが溢れ出ていました。