夕食後、居間に座り、そのまま眠り込んでいた。
せっかくゆっくり寝ていたのに、誰かが喚く声で目覚めた。
両目を開くと、オレがいたのは、40年前に住んでいた家だ。
(その家はもはや取り壊されており、今はもうない。)
オレはその家の2階の自分の部屋で眠っていたのだ。
はっきりと目が醒めてみると、隣の部屋で誰かが声を荒げていた。
そこで、その声の主に向かい、注意した。
「ちょっと!煩くて眠れない。少し静かにしてくれないか」
すると、そのオレの声が届いたらしく、人が部屋を出る音がする。
廊下で足音がして、人の気配はこっちの部屋の入り口に来た。
入り口に姿を現したのは母だった。
母はオレに向かって喚き散らし始めた。
「何言ってるんだい。だいたい、オマエは・・・」
その母の剣幕に驚かされる。
実際の母は病弱だったので、人生で一度も大きな声を出したことがない。
その母が、「オマエは何だ」と、オレの落ち度を言い立てていた。
びっくりして母の顔を見ると、視線があらぬ方向を向いていた。
どうやら齢で呆けてしまっているようだ。
「お袋。訳が分からなくなっているのか・・・」
なんだか胸が痛くなる。
(オヤジはどこだろ。誰もこんな母の面倒を見ていないのだろうか。)
隣の部屋には、人の気配がなく、深閑としたままだ。
(「あ、オヤジはもう死んだんだな」、と悟る。)
父が死んで、家に独り残っていた母は、それほど間を置かずに呆けたということなんだろう。
オレは身勝手で、何ひとつまともな事が出来ない放蕩児だった。
母のことも、随分苦しめてきたことだろう。
引き取ってやらなきゃな。
目の前の母は、やはり先程までと変わらず、何ごとか喚き散らしている。
ここで覚醒。
夢のルールで言えば、私の落ち度を言い立てるこの母親は、私自身です。
自分にとって最も身近な存在の姿を借り、これまでの生き方を責めている。
「いいトシこいてモタモタと何をやっているのか。せめて残りの人生はしっかりと生きろ」と自分自身で諭しているということです。