日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第181夜 砦からの脱出

深夜の大リーグ中継を見ながら、いつの間にか寝入ってしまった時に見た短い夢です。

俺はどこかの密林に住む先住民だ。
大きな滝の見える砦の一番下の階に囚われていた。
砦は水の流れが削った崖の岩棚を利用して建てられている。
この砦に入るには、崖の上から下りる他は無く、出入り口から最も遠いのが一番下の階になる。
捕虜になった俺は、仲間二十人と共に、牢に閉じ込められていたのだ。

その日。俺の部族から、この砦に貢物が届けられた。
俺たちを解放するのと引き換えにするためだ。
貢物は荷車に山積みの金と女二十人、あとは酒(か麻薬のようなもの)だ。
女たちの中には、俺の姉や許嫁がいる。
女たちは俺たち部族の男を救うために、自ら貢物になると申し出たのだ。
砦の主はこの貢物を受け取ったが、しかし、奴は俺たちを解放せず、そのまま牢に置いた。

深夜になり、俺の牢の戸が開いた。
そこに立っていたのは十四歳くらいの少女だった。少女の上半身は血で濡れそぼっている。
少女は自分が宛がわれた男を殺し、下に降りて来たのだ。
「すぐに逃げて。出窓を伝って登るのよ」
この砦には三百人の敵がいる。七つの階にはそれぞれ武装した兵士が立っている。
階段を上がって行けばすぐに兵士たちに見つかってしまう。
このため、ここから逃れ出るには、二階の窓から出窓を伝い上って行く他は無いのだ。

二階に上ると、姉が俺を待っていた。
「お前が先頭に立つのよ。これを結びなさい」
姉が渡したのは長縄だ。所々を丸く結んでいるから、これを出窓に垂らせば、次の者が上りやすくなる。
部族の男たちにとっては、綱を上るのは容易い。だが女たちは別だ。
「姉ちゃんは?」
「女たちは殺されない。この子は別だけどね。連れてって」
俺を牢から出した少女は人を殺している。残して行けば、間違いなく首を刎ねられてしまうだろう。
「わかった」
姉は俺の体に布を回すと、隠し持って来たナイフをそれに結んだ。

俺は出窓に出ると、ひとつ上の階の出窓に飛びついた。
部屋の中は静かだった。
酒を飲み、女を抱いた男たちは、ぐっすり寝入っている。
俺は最初の縄を窓枠に結び、下に垂らした。
少女が縄を掴むと、俺は少女の脇に手を入れて、引き上げた。
出窓の高さは人の背丈を少し越えるくらいで、さほどではない。
結び目を二つ上れば、上の出窓に手が届くのだ。
もちろん、この少女にとっては容易なことではないのだが。
ひとつ上の階に登ると、少女は心許無げな言葉を漏らした。
「落ちたらどうしよう」
俺は声を潜めて少女を励ます。
「落ちるな。でも、たとえ落ちたところで下は川だ。泳げるのなら問題は無い」
嘘ではないが、本当は大丈夫でもない。
実際に下は川で、落ちて怪我をすることは無いが、その川の中には鰐がいる。

同じように階を三つ上ると、その部屋には俺の許嫁がいた。
許嫁はその部屋の男を縛り、猿ぐつわをかませていた。
「ここから上は階段で行けるわ。早く逃げて」
許嫁はこの部屋の男が持っていた剣を俺に手渡した。
「お前も来い」
うん、と許嫁が頷いた。
俺を救うために、自分の体を投げ出しただけではなく、命を失くす危険を顧みずここに来た女だ。絶対に置いていくわけにはいかない。
俺は心の中で深くこの許嫁に感謝した。
もちろん、俺の女に屈辱を与えた奴らを生かしておくことは出来ない。
俺はこの部屋の男に近寄り、首を掻き切った。
「この砦の奴らは、いずれ皆殺しにしてやる」

崖の上に出ると、そこにはこの砦の主が立っていた。
砦の主は俺の実の兄で、俺と兄はそれぞれ別の部族の王だ。
しかし、兄は侵入者たちと手を組み、俺の領域を侵しているのだ。
「なぜ侵入者と手を組む。利用されているだけだぞ」
兄は眉間を険しくして返事をする。
「俺はお前の兄だ。すなわち我らの父の領土は、この俺が総て受け継ぐべきなのだ」
兄は携えていた槍を構えた。
そういうことなら仕方がない。
俺は許嫁が渡してくれた剣を引き抜いた。

ここで覚醒。

「侵入者」という言葉が出たところで、頭の中で「スペイン人」、「ピサロ」という声が響きました。
そうなると、おそらく南米が舞台だろうと思います。
私の名は、確か「アタワルパ」。このあたりの知識は無く、アタワルパが一体誰なのかは知りません。実在する人であれば、少し面白く、不思議に感じます。
または、脳には生まれてから今までの記憶の総てが仕舞われているという説がありますので、どこかで見聞きした記憶が生んだものかもしれません。