日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第223夜 暗黒の世界

ふと「日帰り温泉に行こう」と思い立ち、11時に出発しました。
郊外の日帰り温泉は、自宅から二十数キロの所にあります。
なお、最寄りの施設は数キロの所にもありますが、ご近所の皆さんと会ったりすると面倒くさいので、20分は離れた施設に行きます。

平日の温泉施設は空いていますが、珍しく十数人の客がいました。。
そこで、最初から露天に直行します。
露天の方は室内風呂より熱くなっていますので、出たり入ったりしながら、20分くらい過ごしました。
すると、少し気分が悪くなってきました。
「これって狭心症?あるいは低血糖症?」
全然別の病気のようですが、自覚症状はかなり似ています。体が震えて、脂汗が出てきます。

温泉から出て、服を着ようとしますが、既に体が重く、ズボンを履くのもキツい状況になっています。
バスタオルを持参していますが、ほとんど拭かず、濡れたまま服を着て、浴場の外に出ました。
「まずは、糖分を補給しないと」
ブドウ糖を持参していなかったので、缶コーヒーを買います。
砂糖の場合、脳にエネルギーが回るのに20分くらいかかりますので、この時間内に障害が発生すると、そこでアウトです。へたをするとそのまま植物人間になってしまいます。

休憩室まで歩くことができないので、マッサージ機の隣にあるわずかな腰掛スペースに横たわりました。
強心薬は持っていますが、もはや、手を動かすこともできません。
「もしかすると、ここでお陀仏かも」
ま、常々「そんなもんだろう」、「ひっそりと道端で死ぬだろう」と思ってきましたので、半ばは観念します。
「そう言えば、(血圧)降下剤を飲んで、1時間しか経っていない。温泉に入ると、さらに血圧が下がるので、これが不味かったか」
もはや、何の抵抗もできず、目を瞑りました。

これはその時に見た夢です。
今回は「夢」と言うより、「感覚」と表現したほうが良いのかもしれません。

微かな自意識があります。
真っ暗な場所で、地面に横たわっている感覚です。
周囲は完全な暗黒で、何ひとつ見えず、感じることができません。
(この状態は、金縛りってヤツに似てるよな。)
ただし、金縛りの場合は、周囲に対する知覚が働いていますが、今は完全なる暗黒の中です。

かつて、心臓が数分ほど止まったことがありますが、その時も暗い場所にいました。
そこはトンネルに近い場所で、前の方に灯りも見えました。
今はそれとはかなり違い、完全なる闇の中です。

病気・事故に限らず、突然死すると、それからしばらくの間は暗闇の中にいるんだっけな。
確か、生者の世界で言う十数年の間はそのままです。
自意識を持ったまま、闇の世界にいるのは、さぞ苦痛だろうな。
死後・生前に経験する闇の苦痛を覚えているので、人は暗闇を怖がるんだっけな。

果てしなく長い時間が過ぎます。
何の変化もなく、ただ闇の中です。
「もう何万年の時が経ったんだろ」

その闇は、唐突に晴れました。
目を覚ますと、私は温泉施設のマッサージ機の隣で横たわっていました。
顔を上げ、壁の時計を見ると、午後2時を指していました。
「もう2時間以上も経っている。半畳のスペースで寝込まれたら、この施設で働く人たちが迷惑するだろうな」
立ち上がって、出口に向かおうとします。

しかし、まだ駄目でした。
体が重く、上手く歩けません。
よろよろと10耽覆爐函休憩室があります。
かなり広い部屋で、30畳はありそうです。
「良かったな。今日が平日で」
そこで休んでいる客は、ほんのチラホラ程度でした。
部屋の片隅に行き、座布団を敷いて横たわりました。

すぐに眠りに落ちます。
再び暗黒世界の中に横たわります。
「まただ」
体の感覚を確かめることもできず、ただ横になっているだけです。
真っ暗ですが、ぼんやり、ゆっくりなら、物を考えることも出来ます。

生きながらにして、死んでいる状態に近いのが、眠っている間です。
体の機能がほとんど働かず、頭を使ってものを考えることもできません。
ところが、心の根っこのようなものは、しっかり残っています。
「これが魂ってものなんだよな」
「死ねば終わり」と思いたい人は多いでしょうが、動機の無い行動が無いように、魂の無い「生」はありません。
どれだけ長い時間が経ったことでしょう。
「また恐竜時代から、やり直してるみたいだな」

何万年かの時が過ぎ、少しずつ体の感覚が戻って来ます。
周囲の物音が聞こえます。
(これは足音か。)
薄目を開けて見ると、近くにいたのは、受付のオバサンでした。
あまりに長い間、休憩室で寝ているオヤジがいるので、様子を見に来ていたのです。
(何だよ。昏倒しているんだから、救急車を呼べよな。)

目が醒めたので、体を起こしました。
何とか、動くことができるようになっています。
時計を見ると、午後4時過ぎを指していました。

「今日は半日の間、ここで寝ていたわけか」
現実には、「寝ていた」のではなく、「昏倒していた」わけですが。

こりゃ、いずれにせよ、そう遠くない将来に、本番が来るのかも。
「いや、かもじゃなく、間違いなく来るだろうな」
これだけは口に出して言っていました。

なんだか分らないうちに、覚醒。

今日は「苦しい」と感じる前に、もはや動けなくなっていました。
きっとこれも予行演習なんだろうと思いますので、ある程度、「遺族」が分かるようにして置こうと決意しました。