日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第268夜 フードコートの悪魔

今朝方に、トイレに起きた後に観た短い夢です。

僕は高校生。
高校では演劇部の部長だ。
「部長」と言っても、部員は3人しかいない。
同じ3年生のケンジと、2年女子のミキだ。

何せメンバーが3人だけなので、さしたることは出来ない。
やれることが限られてしまう。
1年に1回は公演をしたいのだけど、監督1人と役者2人で出来る内容だけになってしまう。

このため、普段やっているのは専ら小芝居だ。
普段の生活の中で、色んなシチュエーションを織り込むのだ。
いつ始めるかは気分次第。
3人は気心が知れているので、いきなりでも大丈夫。

「もう別れてくれないか」
屋上で外を眺めている時、僕は唐突にミキに告げた。
もちろん、小芝居だ。
設定は、僕が会社の上司で、ミキが部下の女性。もちろん不倫相手だ。
ミキはすぐに小芝居だと気づき、流れに対応する。
「私を捨てて、奥さんのところに帰るのね」
この辺、大人のドロドロした愛憎は体験してないが、想像で何とかなる。
「いつまでも今の関係は続けられないだろ。君だってもう28歳だ。お嫁に行くべき年頃だ」
「そんなことを言わないで」
ここにケンジが登場する。
「課長。あんまりじゃないですか」
(あれれ。コイツは誰の設定なんだろ?)
ま、無難なところでは、ミキの同僚で、密かにミキに想いを寄せている、ってとこか。
やや「ありきたり」だが、仕方ない。
「君には関係のない話だろ」
そして、それから大揉めに揉め、ケンジが僕を殴ってしまう。
ケンジはクビになるが、課長の僕も不倫がばれて会社を辞めるのだ。

こんな具合に、ゲームのように小芝居が始まるので、3人ともいつも気を抜けない。
でも、慣れてくると、なかなか楽しい。
街中でこれをやると、まるで映画を撮っているみたいな気分になる。

この日は大型ショッピングモールのフードコートだった。
回りに他の客がいようが、そんなことは構いやしない。
ハンバーガーをカウンターで受け取った後、席に戻る途中で、僕は今日の小芝居を思いついた。
人込みの中に、人間の姿をした悪魔が混じっているというのはどうだろう。

僕は2人の座る席に近づくと、厳かな口調で言い放った。
「見つけたぞ、悪魔め」
2人の目が輝く。またいつも通り、小芝居を始めるのだ。
僕はケンジを見据えて、言葉を続けた。
「人間に紛れ込んでも、僕には分かる。お前はドルナド・クマーだろう!」

すると、2人の横のテーブルに座り、僕に背中を向けていた男の背中がびくっと動いた。
男が振り向いて、僕を見る。
「おい」
イケネ。声が大きすぎたか。「煩い」と言われるんだな。
「すい・・・」
ません、と言う前に、男がひゅんと僕の前に立った。

背が高い。痩せているので、余計に背が高く見える。
その男は、真夏だというのに、長い上着(コート?)を着ていた。
「お前。今、お前は俺の名前を呼んだな」
それって、ドルナド・クマーのこと?ハンバーガー屋の名前を逆さまにしただけなんだけど・・・。

「なぜ俺のことが分かった。お前はどうやって俺のことを見つけたのだ」
男は険しい表情で僕を見ている。
「僕は・・・。僕たちは、ただ・・・」
男が横を向く。
「仲間がいるのか。ふん。こっちの2人だな。よし。お前たちもこっちに来い」

有無を言わせぬ口調だった。
ケンジとミキが僕の近くに寄って来る。
男は3人を前にすると、順番に僕たちの顔を眺め渡した。
「ここには他にも人がいる。大きな声を出すなよ」
「はい」「はい」
「よく俺の名を言い当てられたな。その通り、俺はドルナド・クマーだ。仕方ない。お前たちの願いを1つ叶えてやろう」
「え。どういうことですか?」
「俺の本当の名を言い当てることが出来た者には、ご褒美があるのだ。その者が願うことなら、どんな願いでも叶えてやることになっている。ただし、1つだけだぞ。お前たち3人は仲間なのだろうが、言い当てたのはコイツだ。コイツがお前たちを代表して願い事を1つ言うのだ」
男は僕のことを人差し指で指し示した。

この時、僕が視線を男から外すと、テーブルの上に芝居の脚本が置いてあった。
(あ。この人も芝居をやる人だ。)
ケンジを小突いて、テーブルに眼を向けさせる。
すると、ケンジもそれに気づいた。
(なるほど。この人も僕らと同じように、常日頃から芝居に浸かっているんだな。)
そうなると、これもきっと小芝居だろ。
ドルナド・クマーなんて名前の人間がいるわけないし。

ま、もう少し付き合ってみるか。
「じゃあ、僕たち3人を演劇の世界で成功させてください。20代ではこの国で一番の劇場で、30代では世界の名だたる劇場で芝居が出来るようにしてください」
男がじっと僕のことを見つめる。
「お前は舞台監督になるのが望みなんだろ。しかも、心の底では、演劇ではなく映画監督を望んでいる」
図星だった。僕は本当はいずれは映画が撮りたいのだ。
「そっちの2人は役者だな。よし分かった。まずお前だ。俺はお前のことを世界有数の名監督にしてやろう。舞台と映画、その両方でだ」
次に男は、他の2人の方を見る。
「お前たちには、演技者としての最高の地位をやろう。お前たちの演じる劇は、常に最高の評価を受ける。そうすれば、なんでも自分の好きな演劇をやれるようになる」

もしそれが本当だったらいいなあ。
僕は、30代の自分が広い会場の中で、観客全員から喝采を受けている場面を思い浮かべた。
「お前たちは、死ぬまで演劇界・映画界のトップに居続ける。そういう契約で良いな」
この時、僕らは男が「願い事」という言葉を「契約」にすり替えているのに気付かなかった。
「それで良いです。僕たちを演劇界のトップスターにしてください」

ここで男が初めて笑顔を見せた。
「よし。これで契約は成立だ。これからお前たちは演劇界や映画界の頂点に立ち、それは死ぬまで続くことだろう」
たとえ作り話でも、気分の良い話だ。
だが、男の話はそれで終わりではなかった。
「命が尽きるまで、栄光はお前たちと共にある。だが、死ねばお前たちの魂は俺のものだ。代金は後払いで結構ということ。人間と違って、悪魔はなかなか良心的だろ」

ここで覚醒。

オーソドックスな話で、過去に見聞きした内容を組み替えた模様です。
型通りの展開ですが、それなりに楽しめた夢でした。