今朝方に、トイレに起きた後に観た短い夢です。
僕は高校生。
高校では演劇部の部長だ。
「部長」と言っても、部員は3人しかいない。
同じ3年生のケンジと、2年女子のミキだ。
何せメンバーが3人だけなので、さしたることは出来ない。
やれることが限られてしまう。
1年に1回は公演をしたいのだけど、監督1人と役者2人で出来る内容だけになってしまう。
このため、普段やっているのは専ら小芝居だ。
普段の生活の中で、色んなシチュエーションを織り込むのだ。
いつ始めるかは気分次第。
3人は気心が知れているので、いきなりでも大丈夫。
「もう別れてくれないか」
屋上で外を眺めている時、僕は唐突にミキに告げた。
もちろん、小芝居だ。
設定は、僕が会社の上司で、ミキが部下の女性。もちろん不倫相手だ。
ミキはすぐに小芝居だと気づき、流れに対応する。
「私を捨てて、奥さんのところに帰るのね」
この辺、大人のドロドロした愛憎は体験してないが、想像で何とかなる。
「いつまでも今の関係は続けられないだろ。君だってもう28歳だ。お嫁に行くべき年頃だ」
「そんなことを言わないで」
ここにケンジが登場する。
「課長。あんまりじゃないですか」
(あれれ。コイツは誰の設定なんだろ?)
ま、無難なところでは、ミキの同僚で、密かにミキに想いを寄せている、ってとこか。
やや「ありきたり」だが、仕方ない。
「君には関係のない話だろ」
そして、それから大揉めに揉め、ケンジが僕を殴ってしまう。
ケンジはクビになるが、課長の僕も不倫がばれて会社を辞めるのだ。
こんな具合に、ゲームのように小芝居が始まるので、3人ともいつも気を抜けない。
でも、慣れてくると、なかなか楽しい。
街中でこれをやると、まるで映画を撮っているみたいな気分になる。
この日は大型ショッピングモールのフードコートだった。
回りに他の客がいようが、そんなことは構いやしない。
ハンバーガーをカウンターで受け取った後、席に戻る途中で、僕は今日の小芝居を思いついた。
人込みの中に、人間の姿をした悪魔が混じっているというのはどうだろう。
僕は2人の座る席に近づくと、厳かな口調で言い放った。
「見つけたぞ、悪魔め」
2人の目が輝く。またいつも通り、小芝居を始めるのだ。
僕はケンジを見据えて、言葉を続けた。
「人間に紛れ込んでも、僕には分かる。お前はドルナド・クマーだろう!」
すると、2人の横のテーブルに座り、僕に背中を向けていた男の背中がびくっと動いた。
男が振り向いて、僕を見る。
「おい」
イケネ。声が大きすぎたか。「煩い」と言われるんだな。
「すい・・・」
ません、と言う前に、男がひゅんと僕の前に立った。
背が高い。痩せているので、余計に背が高く見える。
その男は、真夏だというのに、長い上着(コート?)を着ていた。
「お前。今、お前は俺の名前を呼んだな」
それって、ドルナド・クマーのこと?ハンバーガー屋の名前を逆さまにしただけなんだけど・・・。
「なぜ俺のことが分かった。お前はどうやって俺のことを見つけたのだ」
男は険しい表情で僕を見ている。
「僕は・・・。僕たちは、ただ・・・」
男が横を向く。
「仲間がいるのか。ふん。こっちの2人だな。よし。お前たちもこっちに来い」
有無を言わせぬ口調だった。
ケンジとミキが僕の近くに寄って来る。
男は3人を前にすると、順番に僕たちの顔を眺め渡した。
「ここには他にも人がいる。大きな声を出すなよ」
「はい」「はい」
「よく俺の名を言い当てられたな。その通り、俺はドルナド・クマーだ。仕方ない。お前たちの願いを1つ叶えてやろう」
「え。どういうことですか?」
「俺の本当の名を言い当てることが出来た者には、ご褒美があるのだ。その者が願うことなら、どんな願いでも叶えてやることになっている。ただし、1つだけだぞ。お前たち3人は仲間なのだろうが、言い当てたのはコイツだ。コイツがお前たちを代表して願い事を1つ言うのだ」
男は僕のことを人差し指で指し示した。
この時、僕が視線を男から外すと、テーブルの上に芝居の脚本が置いてあった。
(あ。この人も芝居をやる人だ。)
ケンジを小突いて、テーブルに眼を向けさせる。
すると、ケンジもそれに気づいた。
(なるほど。この人も僕らと同じように、常日頃から芝居に浸かっているんだな。)
そうなると、これもきっと小芝居だろ。
ドルナド・クマーなんて名前の人間がいるわけないし。
ま、もう少し付き合ってみるか。
「じゃあ、僕たち3人を演劇の世界で成功させてください。20代ではこの国で一番の劇場で、30代では世界の名だたる劇場で芝居が出来るようにしてください」
男がじっと僕のことを見つめる。
「お前は舞台監督になるのが望みなんだろ。しかも、心の底では、演劇ではなく映画監督を望んでいる」
図星だった。僕は本当はいずれは映画が撮りたいのだ。
「そっちの2人は役者だな。よし分かった。まずお前だ。俺はお前のことを世界有数の名監督にしてやろう。舞台と映画、その両方でだ」
次に男は、他の2人の方を見る。
「お前たちには、演技者としての最高の地位をやろう。お前たちの演じる劇は、常に最高の評価を受ける。そうすれば、なんでも自分の好きな演劇をやれるようになる」
もしそれが本当だったらいいなあ。
僕は、30代の自分が広い会場の中で、観客全員から喝采を受けている場面を思い浮かべた。
「お前たちは、死ぬまで演劇界・映画界のトップに居続ける。そういう契約で良いな」
この時、僕らは男が「願い事」という言葉を「契約」にすり替えているのに気付かなかった。
「それで良いです。僕たちを演劇界のトップスターにしてください」
ここで男が初めて笑顔を見せた。
「よし。これで契約は成立だ。これからお前たちは演劇界や映画界の頂点に立ち、それは死ぬまで続くことだろう」
たとえ作り話でも、気分の良い話だ。
だが、男の話はそれで終わりではなかった。
「命が尽きるまで、栄光はお前たちと共にある。だが、死ねばお前たちの魂は俺のものだ。代金は後払いで結構ということ。人間と違って、悪魔はなかなか良心的だろ」
ここで覚醒。
オーソドックスな話で、過去に見聞きした内容を組み替えた模様です。
型通りの展開ですが、それなりに楽しめた夢でした。