日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第269夜 旅館にて

早朝に目覚めた後、庭に出て枝払いの準備をしたのですが、暑かったので屋内に戻りました。
エアコンの下で涼んでいる時に、居眠りをしたのですが、その時に観た短い夢です。

カランカラン、と音がする。
目を開くと、旧式のエアコンが音を立てていた。
「ここはどこ?」

回りを見回すと、どうやら旅館の中だ。
「そう言えば・・・」
各駅停車を乗り継ぐ旅に出て、夜の列車に乗ったのはよいが、寝過ごしてしまった。
終点で目が醒めたが、どこか知らぬ田舎の駅だった。
途中で別の路線に乗り換えて、別の方角に向かうはずだったのに。
私が乗っていたのは終電だから、もはやここに泊まるしかない。
駅前で寝袋に入るのも平気だが、この駅にはそんなスペースは無かった。
ターミナル駅だと言うのに、人はほとんどいない。
「列車を格納して、整備点検するのが目的の駅なんだな」

駅の前で途方に暮れていると、法被を着た中年オヤジが寄ってきた。
「お客さん。泊まるとこは決まってます?」
「いいえ。乗り過ごしてしまったのです」
「ウチなら泊まれるよ。1泊2食で6千円のところ、もう終わりだから3千円にしてあげる」
安いなあ。元の6千円でも、安いビジネスホテルなみの値段だ。
しかも食事つき。
「この時間からでも、夕食は食べられますよ」
なら、どんなボロ宿でもOKでしょ。

男の運転するワゴン車に乗り、旅館に向かった。
やはり古いつくりの旅館だった。
2階建てのように見えるが、奥の方には3階部分も少しあるのだろう。
風呂は交替制ということだが、客は全員が済ませているので、すぐに風呂に入った。
風呂の灯りは、裸電球が1つだけ。
「これなら、別に混浴でも、ほとんど大丈夫じゃん」
さっさと上がり、部屋に戻ると、夕食が来ていた。
割ときちんとした内容だ。
「もう10時を過ぎているのに、立派な扱いだよな」
ビールを飲んで、夕食を済ませた。
さすがに、下膳はしてくれず、食器は部屋の前の廊下に出した。

ひと息ついたところで眠くなり、そのまま今まで居眠りをしていたというわけだ。
「今は何時だろ?」
壁に時計が無かったので、鞄から自分のを出した。
「もう12時前か」
立ち上がって、トイレに行こうとする。

トイレはこの階の端の方にあり、大広間の先まで歩かねばならない。
部屋を出て、廊下を歩き始める。
大広間の前に行くと、中で人の声がした。
大勢の人たちが、宴会をやっている音だった。
「あの時はお前がよう。オレは知らんかったから・・・」
ああ、随分酔ってやがんな。
「さすが田舎だ。この時間でも宴会が終わらない」

そう言えば、私の郷里でもそうだった。
冠婚葬祭には、地域の者が集まって宴会を開いたが、これがなかなか終わらない。
10時、11時になっても腰を上げずに飲み続けるのだ。
通夜の時には、仏様を前にして、これが2時3時まで続く。
「ギャハハ」
「嫌よ」
オヤジだけかと思いきや、女性の声も聞こえた。
「20人から30人ってとこだな」

トイレから部屋に戻る。
眠れなくなったので、テレビを点けるが、田舎なので放送が終わっていた。
「冷蔵庫にビールがあったっけな」
ビールを飲み始める。
その内に、疲労からか、またうとうとする。
廊下の方からは、微かに宴会の声が聞こえて来る。
「スゲーな。いったいいつまで飲むんだろ」
ここで眠りに落ちる。

ビールを飲んだので、程なく尿意を催し、再び目覚めた。
時計を見ると、2時半だ。
廊下を歩くと、大広間からはまだ人の声がした。
4、5人で、何かぼそぼそと話している。
「それでなあ・・・」と、時折、声がでかくなる。
もう2時だよ。
「しかし、よく他の客から文句が出ないもんだな」
薄暗いトイレで用を済ませ、部屋に向かって歩き始める。

再び、大広間の前を通る。
「あれ?」
違和感を覚える。
ついさっきまで聞こえていた話し声が途絶えていた。
「なるほど」
違和感はそのせいだ。
でも、人が出て行くような足音はしなかったぞ。
私がトイレの中にいたのは、ほんの1、2分の間だ。
「やっぱりおかしいよな」
なんとなく、大広間の襖を引き開けた。

中には・・・、誰もいなかった。
それどころか、宴会をした形跡がまったくなかった。
黴臭い畳の部屋は、隅から隅までがらんとしている。
「何だろ。俺の気のせいだったの?」
まさか。あんなに大きな声だったのに。

翌朝。帳場で宿代を払った時に、女将らしき婆さんに声を掛けた。
「昨日の夜の宴会って、どういう会だったんですか?ご法事?」
女将は私の眼を見て、「え?」と問い返した。
昨夜、この旅館に泊まったのは、俺とあともう1人の客だけだったのだ。

ここで覚醒。

昔、実際に体験したことをなぞる夢です。
ちょうど今の時期のことでしたので、やはりこの時期になるとまったく同じ夢を観ます。
この「夢の話」にも、その都度書いていると思います。

幽霊はひっそりと隠れているのではなく、はっきり・くっきりと目の前に現れるものなのだと、その時に初めて知りました。
怪談で聞くものとはかなり違います。