早朝に目覚めた後、庭に出て枝払いの準備をしたのですが、暑かったので屋内に戻りました。
エアコンの下で涼んでいる時に、居眠りをしたのですが、その時に観た短い夢です。
カランカラン、と音がする。
目を開くと、旧式のエアコンが音を立てていた。
「ここはどこ?」
回りを見回すと、どうやら旅館の中だ。
「そう言えば・・・」
各駅停車を乗り継ぐ旅に出て、夜の列車に乗ったのはよいが、寝過ごしてしまった。
終点で目が醒めたが、どこか知らぬ田舎の駅だった。
途中で別の路線に乗り換えて、別の方角に向かうはずだったのに。
私が乗っていたのは終電だから、もはやここに泊まるしかない。
駅前で寝袋に入るのも平気だが、この駅にはそんなスペースは無かった。
ターミナル駅だと言うのに、人はほとんどいない。
「列車を格納して、整備点検するのが目的の駅なんだな」
駅の前で途方に暮れていると、法被を着た中年オヤジが寄ってきた。
「お客さん。泊まるとこは決まってます?」
「いいえ。乗り過ごしてしまったのです」
「ウチなら泊まれるよ。1泊2食で6千円のところ、もう終わりだから3千円にしてあげる」
安いなあ。元の6千円でも、安いビジネスホテルなみの値段だ。
しかも食事つき。
「この時間からでも、夕食は食べられますよ」
なら、どんなボロ宿でもOKでしょ。
男の運転するワゴン車に乗り、旅館に向かった。
やはり古いつくりの旅館だった。
2階建てのように見えるが、奥の方には3階部分も少しあるのだろう。
風呂は交替制ということだが、客は全員が済ませているので、すぐに風呂に入った。
風呂の灯りは、裸電球が1つだけ。
「これなら、別に混浴でも、ほとんど大丈夫じゃん」
さっさと上がり、部屋に戻ると、夕食が来ていた。
割ときちんとした内容だ。
「もう10時を過ぎているのに、立派な扱いだよな」
ビールを飲んで、夕食を済ませた。
さすがに、下膳はしてくれず、食器は部屋の前の廊下に出した。
ひと息ついたところで眠くなり、そのまま今まで居眠りをしていたというわけだ。
「今は何時だろ?」
壁に時計が無かったので、鞄から自分のを出した。
「もう12時前か」
立ち上がって、トイレに行こうとする。
トイレはこの階の端の方にあり、大広間の先まで歩かねばならない。
部屋を出て、廊下を歩き始める。
大広間の前に行くと、中で人の声がした。
大勢の人たちが、宴会をやっている音だった。
「あの時はお前がよう。オレは知らんかったから・・・」
ああ、随分酔ってやがんな。
「さすが田舎だ。この時間でも宴会が終わらない」
そう言えば、私の郷里でもそうだった。
冠婚葬祭には、地域の者が集まって宴会を開いたが、これがなかなか終わらない。
10時、11時になっても腰を上げずに飲み続けるのだ。
通夜の時には、仏様を前にして、これが2時3時まで続く。
「ギャハハ」
「嫌よ」
オヤジだけかと思いきや、女性の声も聞こえた。
「20人から30人ってとこだな」
トイレから部屋に戻る。
眠れなくなったので、テレビを点けるが、田舎なので放送が終わっていた。
「冷蔵庫にビールがあったっけな」
ビールを飲み始める。
その内に、疲労からか、またうとうとする。
廊下の方からは、微かに宴会の声が聞こえて来る。
「スゲーな。いったいいつまで飲むんだろ」
ここで眠りに落ちる。
ビールを飲んだので、程なく尿意を催し、再び目覚めた。
時計を見ると、2時半だ。
廊下を歩くと、大広間からはまだ人の声がした。
4、5人で、何かぼそぼそと話している。
「それでなあ・・・」と、時折、声がでかくなる。
もう2時だよ。
「しかし、よく他の客から文句が出ないもんだな」
薄暗いトイレで用を済ませ、部屋に向かって歩き始める。
再び、大広間の前を通る。
「あれ?」
違和感を覚える。
ついさっきまで聞こえていた話し声が途絶えていた。
「なるほど」
違和感はそのせいだ。
でも、人が出て行くような足音はしなかったぞ。
私がトイレの中にいたのは、ほんの1、2分の間だ。
「やっぱりおかしいよな」
なんとなく、大広間の襖を引き開けた。
中には・・・、誰もいなかった。
それどころか、宴会をした形跡がまったくなかった。
黴臭い畳の部屋は、隅から隅までがらんとしている。
「何だろ。俺の気のせいだったの?」
まさか。あんなに大きな声だったのに。
翌朝。帳場で宿代を払った時に、女将らしき婆さんに声を掛けた。
「昨日の夜の宴会って、どういう会だったんですか?ご法事?」
女将は私の眼を見て、「え?」と問い返した。
昨夜、この旅館に泊まったのは、俺とあともう1人の客だけだったのだ。
ここで覚醒。
昔、実際に体験したことをなぞる夢です。
ちょうど今の時期のことでしたので、やはりこの時期になるとまったく同じ夢を観ます。
この「夢の話」にも、その都度書いていると思います。
幽霊はひっそりと隠れているのではなく、はっきり・くっきりと目の前に現れるものなのだと、その時に初めて知りました。
怪談で聞くものとはかなり違います。