どうにも体調がかんばしくなく、寝たり起きたり。
横になっていても、眠ることが出来ず、睡眠はわずか。
そんな状態で観た夢です。
家人と2人で車を走らせている。
ここは高速道路か、あるいは郊外の観光道路のようです。
「お茶でも買おうか」
パーキングエリアのような場所があるのに気づき、車を寄せます。
駐車場は300台くらい入りそうなスペースで、何十台も車が停まっていました。
「先にトイレに行って来る」
「じゃあ私がお茶を買って来る」
家人がドアを開けて車から出て行きます。
私の方は鍵を閉め、トイレに向かいました。
トイレを出ると、家人が待っていました。
「お父さん。ここは変だよ」
「何があったの?」
「人が誰もいない」
え。そんなことはないでしょ。
車がこんなに停まっているし、売店にはぶつかりそうなくらい、通路に人がいるでしょ。
「人が1人もいないよ」
「客はともかく、店員がいるだろ」
「それもいない」
「じゃあ、オレも行ってみる」
2人で売店に向かいます。
家人の言うとおり、店内には誰もいませんでした。
「そんな筈がないんだけどな」
陳列棚に近づきます。
普通は土産物が積んである筈ですが、箱が2つ3つ置いてあるだけでした。
しかも埃まみれです。
「なんだか、1年くらい放置されていたような感じだな。どういうことだろ」
「おかしいでしょ」
2人で外に出ます。
「こんなに車があるのに、皆どこに行ったんだろ」
正面に観光バスが見えています。
そのバスのドアが開いていました。
なんとなく、バスの方に歩き出します。
バスの手前10メートルくらいのところまで近づきました。
「なんだ。人が乗ってるじゃん」
バスの窓には、沢山の人が見えます。
「きちきちと詰め、全員が椅子に座っているようだ」
さらに近づきます。
窓の真下に行き、見上げました。
「うひゃあ」
思わず声を上げてしまいました。
後ろにいた家人が「え。なに?」と近づこうとする気配がします。
「こっちに来るな。このバスの乗客は皆死んでるぞ」
ガラスの向こうに見える乗客の顔は、干からびた死体のそれでした。
座席に座り、頭を落とした状態で死んでいたのです。
「なんだこりゃ。いったい何が起きたんだろ」
家人を遠ざけ、私だけ次の車に向かいます。
乗用車の運転席に座っていたのも、やはり死体でした。
そして、さらに次の車も。
「お父さん!」
急に家人が私を呼ぶ声がしました。
「なに?」
振り向くと、家人がバスを指差しています。
「動いてる。この人たちは動いてるよ」
すぐに家人の許に戻りました。
「ほら。あの人たちを見て。少しずつ動いてる」
そんな馬鹿な。
バスのドアから中に入り、上に上がってみました。
やはり乗客の全員が頭を落とし、下を向いています。
「そのままじっと見ていて」
家人の言葉に、乗客たちを見続けます。
すると、確かに乗客は少しずつ動いていました。
ごく僅かですが、体を揺すっていたのです。
「おい。大丈夫か」
一番前の席の乗客に声を掛けてみました。
20歳くらいの女性でした。
乗客の顔がよく見えるように、腰を屈めます。
すると、すぐに女性の体から死臭が湧き上がって来ました。
慌てて体を離します。
「やはり死んでるよ。それもかなり時間が経っている」
家人がこれをすぐに否定しました。
「でも、ほら」
顔を上げて、家人が指す方を見ます。
すると、後ろの乗客の顔が上がっていました。
「ありゃ。ほんとだ。はっきり動いてら」
先ほどまでは、頭を落としていたのに、今は顔を上に向けていました。
この時、私は一瞬の間、「こより」を思い浮かべました。
紙の「こより」に、水を一滴落とすと、よじれがもとに戻ろうとして動きます。
じりじり・くねくねと「こより」が動く様子によく似ていました。
でも、もちろん、今の状況はそれとは違います。
「とても生きているようには見えないけれど、動いているのは確かだな。こいつらはゾンビなのか」
いずれにせよ、ロクなことはなさそうです。
2人でバスを降りました。
「ここで何があったんでしょ」
「何かの大量破壊兵器が使われたとか、あるいは」
口にしてはみたものの、大量死の可能性はなさそうです。
この辺りは死体で充満していますが、厳密な意味で死んではいない模様ですから。
「もしかして、オレたちは、この世のものならぬ領域に足を踏み込んでしまったのかも」
「じゃあ、すぐにここから出なくては」
私はため息を吐き、小さく首を振りました。
「もし、オレたちがただここに迷い込んだだけならいいけどな」
しかし、そうではないかもしれません。
つい先ほどから、私は自分の手が黒く干からびているのに気づいていました。
ここで覚醒。
「程なく死ぬのではないか」という思いがあり、これが形を変えて、夢に現れた模様です。