昼に仮眠を取った際に観た短い夢です。
熱病が大流行した。
簡単に言うと、「発生源がこの国からは遠い」とたかをくくっていたのが原因だ。
飛行機を経由して侵入したらしく、最初に空港で数人の患者が収容された。
その後は、毎日数十人ずつ患者が増え、半月後には日に数百人、ひと月後には千人単位で増えるようになった。
今では、発症患者は3万人に達している。
オレは保健所の職員で、防疫が専門だ。
あまりに感染患者が増えたので、患者の隔離はもはや不可能になっている。
そのせいで1週間の外出禁止令が出たが、街は人通りも無くひっそりとしている。
消毒しても消毒しても、感染者が増える。
オレたちは、この大量感染の原因を突き止めるために、街中を調べ直している。
色々と調べてみると、不思議なことがわかった。
ウイルスは毎日、夕方の一定時刻になると、空気中にまんべんなく漂っていたのだ。
「これじゃあ、まるで空から降りて来ているようだよ」
これがヒントになった。
まるで空中散布したみたいな出方だ。
誰かがこの街の上からウイルスを撒いているのではないか、という疑いが強くなった。
その時から、空や高層ビルの上に注意が払われるようになった。
ウイルスが撒かれる時刻になると、オレたちだけでなく警察、消防を含め、総動員で監視を行ったのだ。
そして、オレは高層ビルの屋上で、1人の男を見つけた。
男は屋上の片隅で、空を見上げていた。
「おい。何をしている」
背後から声を掛けると、男が振り返った。
「あ。コイツは」
オレの夢に度々出て来る悪魔だった。
(この辺はいつも通り「今は夢の中にいる」という自覚があります。)
黒く長い髪。ラテン系の風貌だ。
「お前か。今度の夢では、お前は役人をやっているのか」
驚いたことにコイツも「今はオレの夢の中にいる」ことを自覚していた。
それなら話が早い。
「お前が犯人だったのか」
オレが追及すると、男が笑う。
「はは。大体想像がついただろ」
この世に害悪が蔓延するのは、概ねコイツが原因だ。
ひと言で言えば、コイツは悪魔なのだった。
「どうやって、貴様はウイルスを撒いたのだ」
男は空を見上げた。
「なあに。アガメムノンの怪物を呼んだのだ」
何だよ、そりゃ。
「それは何だ?」
「見た目は蛸みたいなヤツだ。ま、人間の眼には見えないんだけどね。俺には見える」
「どこにいる」
悪魔は黙って人差し指を空に向けた。
オレは上を見上げるが、何ひとつ異常は無かった。
悪魔が笑う。
「人間の眼には見えないと言ったろ」
ウイルスの撒かれ方から想像すると、かなり大きいヤツだ。
「きっと相当でかいんだな」
悪魔が頷く。
「ちょうど三原山くらいの大きさだな」
ここでオレは言葉に詰まった。
(三原山の大きさじゃあ、空からまんべんなくウイルスが降り注いでいるのも当然だ。早く止めさせないと。)
悪魔がオレに釘を刺す。
「核ミサイルでもダメだぞ。コイツは透明な蛸だ。ふわっと空に浮いて難を逃れるだろうよ」
これでオレは閃き、すぐさま携帯で連絡した。
「すぐに、放射能の汚染物質を、ほんの少量だけ海に投与してください」
再び悪魔が笑う。
「何だそりゃ。核ミサイルでもダメだと言っただろ」
今度はオレが笑った。
「お前は知らないのか。この国には、ビキニ環礁の実験で生まれた守護神がいるんだよ」
三原山、放射能と来れば、あの破壊神が思い浮かぶ。
放射能の匂いで、あの神がきっと動いてくれる。
相手が怪物なら、きっと我らの破壊神が倒してくれるだろ。
悪魔はオレの考えに気づくと、「ちっ」と舌打ちをした。
ここで覚醒。
ゴジラよ、永遠なれ。
姿かたちのイメージは、最初のあのモノクロのスゴイやつです。