日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第288夜 待ち合わせ

台風の影響が見られ始めた祝日の朝に、子どもたちのお弁当を作った後で寝直しました。
その時に観た短い夢です。

目を開けると、どこかの街角に立っている。
「ここはどこで、オレは誰だよ?」
歩道の向かい側の店のウインドウを覗くと、オレは25歳くらいだった。
通りにはしゃれた店が並んでいるが、路上には物売りが沢山出ていた。
「まるで東南アジアだよな」

「あら」
唐突に通りすがりの女が声を出した。
「ケンジさん」
数歩歩み寄り、オレに声を掛けて来た。
女2人連れの背の高い方だ。
まあ、低い方でも170センチはありそうだから、両方ともモデル並み。

顔を向けると、二人とも目パッチリのきれいどころだった。
姉妹みたいにそっくりだ。
(一体誰だろ。知り合いなのか。)
背の高い方がオレのすぐ真ん前に立った。
「ちょっとちょっと。ここは男1人で来るところじゃないわよ。通り全部がブティックなんだから。もしかしてデートなんじゃないの?」
「それが、なぜここに立っているか、わからないんだよ」
女が苦笑した。
「まさか。トボけてるの?」
「いや。本気だよ。オレは自分が誰かもわからないんだ」
「浮気だ。絶対に浮気だわ。そんなトボけかたをするなんて。もし浮気なら、私は絶対に許さない。お父さんに言い付けて、ひどい目に遭わせるわよ」
ここで、連れの女も話に加わる。
「由香里という彼女がいながら、他の女と浮気するなんて、ひどいじゃない!最低!」
この決めつけ方ときたら。
由香里か。オレの夢にはよく「由香里」という名前の女が出て来るが、大体は敵役だ。
今度もやはりそのようだ。
見た目は美人でも、腹の内はわがままで『がさつ』。典型的な嫌な女の役どころだな。

「オレはあんたと付き合ってるのか?」
女の表情が変わる。
「ひどい。付き合っていると思ってるのは『お前の方だけ』と言うの。ひどすぎる」
オレのことを睨んでいた。
「いやいや。オレは本当に、オレが誰で、今どこにいるのかが、わからない状態なんだ。芝居をしているわけじゃない」
「うそ」
やはりこの女は信用しない。まあ、それもそうだな。
「記憶を失くした」なんて話は、嘘くさくてあり来たりな言い訳だ。

「いや。あなたはあまりにも美人だから、オレみたいなロクデナシの彼女なわけがないと思ってさ」
そうだそうだ。この路線で行こう。
褒めちぎってれば、少し余裕が出来るだろ。
ま、少し堅実な言い方に戻す必要がありそうだが。
(褒め殺しのコツは、「なるべく控えめに褒める」ことを忘れずに、と。)

「オレは昔から地味な女性が好きなんだ。中肉中背で大人しい感じ。いつもは控え目だが、オレといる時だけは楽しそう。ルックスだって、大人しい感じの目立たない女性が好みだね」
まずは変化球だ。
「その点からして、貴女はきれい過ぎる。背が高くて、人目を引くほどの美人だ。スタイルだってモデル並みだよ。そんな女性がオレの彼女なわけがない。バチが当たる」
当初の予定より、オレの話はかなり上滑りしていた。
女は黙って聞いている。
「・・・」
ま、いっか。このまま先に進もう。
「こんなに体の線がきれいなんじゃ、モデル並みじゃなくて、モデルそのものだよな。オレには高嶺の花だ」
今どき、「高嶺の花」という言い方は無いよな。
オレは思わず苦笑した。

「本当に記憶を失くしたの?」
良かった。うまく流れ始めたぞ。
まあ、記憶が無いのは事実だった。
「親が糖尿病の1型だから、オレもその気があるのかもしれん。ブドウ糖不足で脳が働かないのかも」
「ああ、そうだったわね」
たまたま言い訳のひとつに口をついて出たのだが、実際にオレの親はその病気だったらしい。
「見ての通り、オレの格好はとてもデートに行く恰好じゃない。仕事の打ち合わせかなんかだろ。引っ越しの途中みたいな汚れ方だ」
実際、オレは埃まみれのポロシャツにジーパン姿だった。
これに真実味があったらしい。
女の態度が変わった。
「思い出せないんじゃ、大変でしょ。私がついててあげようか?」
「いや。そろそろ頭が働き始めたから大丈夫。ここには買い物に来たんでしょ。オレは良いから先に行って」
「後で部屋に行く?」
「いつ用事が終わるか分からないから、いいよ」
「じゃあ、気を付けてね」
「ああ」
オレが手を上げると、2人は案外スンナリと背を向けた。

2人が去った後、オレはため息をひとつ吐いた。
「不思議だな。なんであんな女と付き合っているんだろ」
さっきの女は自分の長所を自分で承知しており、それをぐいぐいと前に押し出して来るタイプだった。
自分はスタイルが良い。モデル並みだ。高いプライドを持っている。
だから、これでもかと体の線がはっきり出るような服装をする。
しかし、そういう考え方がオレは大嫌いなのだ。
元々、他人よりはるかにきれいなのだから、多少それを隠しててもすぐに分かる。
体の線ならなおさらで、動いた時にほんの少し想像できるくらいに隠してれば、はるかにセクシーなのにな。
さっきの女はそれとは真逆だった。
半分裸のような恰好で、街中を歩いてら。
「どうしてあんなタイプと付き合ってるんだか」
ま、細かいことは思い出せない。
だが、やはりこの夢でもオレは偏屈な男のようだ。
(いつも通り、「今オレは夢の中にいる」という自覚がある。)

同じ場所に立ち、ぼおっと道を眺めていると、通りの向こう側で別の女が手を振っていた。
ここで、オレは総てを思い出した。
「あ。本当だ。オレはあの女と会う約束だったんだ」
女が道を渡って駆け寄ってくる。
オレ好みのタイプだった。
女は地味なワンピースを着て、旅行鞄を持っている。
美人でも不美人でもない「ごくフツー」の女の子だが、笑顔になると可愛らしい。
(これだよ。これ!)

オレの目の前にその子が立つ。
「待った?」
オレは頷いた。
「十万年は待ったような気がするな」
「ごめんごめん」
そっか。オレはこの子と2人でこの街を出て行くのだ。
これまでの総てを捨てて、だ。

オレの車は、ここの裏手のショッピングモールの駐車場に停めてあった。
2人でスロープを駆け上がって、車を置いてある駐車スペースに向かった。
ところが、そこにオレの車が見当たらなかった。
この近くには港があるが、外国向けの輸送船が出入りしている。
街では車両の盗難事件が続いているが、きっと、その船で盗難車を運び出しているのだ。
「ありゃ。オレの車は盗まれちまったか」
隣の女が首を傾げる。
「困ったわね。どうしよう」

オレは「ははは」と笑った。
「車が無ければ、電車があるじゃないか。2人一緒なら、オレは平気だよ」
「そうよね。じゃあ、すぐに駅に行きましょう」
それからオレたちは、昔の「卒業」って映画みたいに手を繋いで走り出した。

ここで覚醒。

最後の「車」のからみだけは、性的な意味がありそうな感じです。