夕方、居間の床で寝込んでしまいました。
これはその時に観た夢です。
近々、死ぬことになった。
持病が悪化して、医師より余命宣告をされたのだ。
残りは3か月程度で、おそらくその半分は病院だろ。
オレは高度医療を拒否するつもりなので、ホスピスで麻薬漬けになり死を迎えることになる。
ま、これも人生だ。
やりたいことはやったし、十分に楽しんだ。
財産を残さないのは、むしろ子どもたちのためになるだろう。
小金を残すと、それを当てにして、子ども同士で喧嘩をしたり、働かなくなったりするからな。
まずは資産整理だ。
オレは骨董が好きだったので、かなりの量がある。
これは1年以上前から計画的に進め、ほとんど処分してある。
残りは数品だ。
もちろん、その数品がオレのコレクションの中核で、十年は遊んで暮らせる金額になる。
これを知人にこっそりと売り、残された1か月半で使い切る。
もちろん、かたちが残らないような無駄遣いでだ。
ま、冷静に考えたら、金はそんなには要らなかった。
そこで、半分を現金に替え、残りの骨董の半分は親を早くに亡くし、苦労している子にくれてやった。
その子は知人の子で、その知人はオレの唯一と言っても良いくらいの友人だったが、あっさり癌で死んだのだ。
「いつか大学に入る時に、ここに持って行くといいよ」
オレの知り合いの骨董屋の名刺を渡した。もちろん、先方にも伝えてある。
自分の子ではなく、親の無い孤児にやるところが、オレのオレたる所以だろ。
ま、へそ曲がりなわけで。
オレが死んだ後の段取りをやり終えたので、動けるうちに墓参りに行くことにした。
祖父母や若くして死んだ従妹など、全部の墓で手を合わせた。
あとは父母の所に行き、「お別れ」を言うか、言わずに帰るかだ。
半日の間考え、やはり両親の顔を見て帰ることにした。
もちろん、近々自分が死ぬことは言わない。
年老いた親でも、自分より先に子が死ぬ話は聞きたくないだろう。
あと少し経てば、いずれにせよ泣くことになる。
もし、オレの今の状態を伝えたならと、それまでの時間も泣いて過ごすことになる。
実家に帰ると、すぐに母がオレに鍵を渡した。
「これはお前の祖父ちゃんの形見だよ」
母方の祖父はもう30年前に死んでいる。
今頃になって形見分けなの?
「と言っても、たった10坪の土地だ。そこには古い物置がある。それをお前にやると言われていたのに、すっかり忘れていたんだよ」
ああ、あそこだ。
オレが小さい時に、何度か祖父に連れて行ってもらったことがある。
祖父は大きな農家で、広い田畑を持っていた。
その他に山奥に小さな畑があり、その隅に扉があった。
そこは昔防空壕だったが、祖父はそれを改造し、自分専用の物置にしていたのだ。
オレはそこの前までは連れて行かれたが、中に入ったことがない。
外には色んな虫や動物がいたから、そっちの方が面白かったのだ。
昔、祖父がオレに言ったことがあったな。
「お前だけに教えてやるが、床の下にもうひとつ部屋がある。それはお前にやるからな」
そうそう。祖父はそんなことをオレに言い置いたのだ。
でかい南京錠はなかなか開かなかったが、錆落としを掛けると、ようやく開いた。
中に入ると、古道具の類が雑多に置かれていた。
「誰か入ったんだな」
跡継ぎの家の者が先に入り、下見をしてあったのだ。
だが、オレは箪笥の下に扉があることを知っている。
箪笥を押し動かすと、やはり祖父の話した通りに扉がついていた。
オレはこの扉を引き開けた。
すぐ下に階段が見える。
カンテラに灯りを点し、オレは下に降りた。
すると、そこに置かれていたのは、山ほどの骨董品だった。
祖父は戦争の時に、大陸に渡ったり、南洋に行ったりしていた。
行く先々で骨董品を集めていたのだ。
「スゴイ」
20年前なら分からなかったが、今は分かる。
こりゃ、オレの余命じゃあ、整理しきれんぞ。
目録を作るだけで、一年は掛かりそうだ。
オレは決断と行動が早い方で、いざ腹をくくったら動じることは無い性格だ。
だが、ここで初めて、オレは呟いた。
「ああ、もう少しの間でいいからオレは生きていたい」
金が惜しいのではなく、「もっと深く知る」ことに未練があったのだ。
残りの時間はわずかだ。
果たしてその時間の中で、オレがもう一度腹をくくることが出来るかどうか。
ここで覚醒。
死期を悟ると、その時から、生きることの本当の意味を考え始めると聞きます。
ほとんどの人は「まだ死にたくない」と叫ぶそうな。
高齢になり、重い病気を抱えた人ほど、人生を見詰める時間が長くなるので、より大きな声で叫ぶ。
もはや、その辺まで実感としてよくわかります。