日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第308夜 駅

水曜は体調が悪く、終日寝たり起きたり。
沢山観た夢の最後はこの夢でした。

目が醒めると、駅の構内にいる。
ホームのベンチに座り、そこで居眠りをしていたらしい。
俺が待っているのは終電だった。
「うっかり眠り込んで、電車が行ってしまうとまずい。きちんと起きて待っていなくては」
しかし、眠気には勝てず、また目を瞑ってしまった。

再び目を開くと、ホームには数多くの人がいた。
「ありゃりゃ。朝まで寝ちまったの?」
行き来する人たちの顔は、一様に無表情だ。
皆自分自身のことで忙しいようだ。

「朝の通勤時間帯に駅にいるなんて、何年ぶりだろ」
目の前を数え切れない人たちが通り過ぎる。
電車が来たら乗らねばならないが、混雑してるハコに乗るのは嫌だよな。
「少し、駅前の喫茶店で時間を潰して、空くのを待とうかな」
しかし、改札まで降りて行くのにも、この人込みを掻き分けて行かねばならない。
じゃあ、ま、ちょっとこのまま座ってよう。

ぼおっと、ベンチに座っている。
10分、15分と時間が過ぎて行く。
そのうち、少しおかしいことに気がついた。
「電車が全然来ないぞ」
それなのに、人が次々に現れては、俺の前を足早に通り過ぎて行く。
改札から入って、階段を上がってホームに来るが、そこからどこに行くのだろう。

そこで、俺は階段から現れたある1人を眼で追いかけることにした。
若い女性が来たので、これにしようか。
「いやダメだ。オヤジが女性を目で追い駆けていたら、如何にも不審者だもの」
次に俺と同じくらいの年恰好のオヤジが現れた。
「よし。コイツにしよう」
オヤジは階段を上ると、ホームを歩いてこっちに来た。
俺の前を通り過ぎる。
ホームの先のほうに歩いて行くが、背中を確認できたのはほんの数十秒だった。
不意に姿が消えたのだ。
「あそこを先まで行くと、もはや線路しかない。電車は来ていないのに、一体どういうわけだろ」

視線を再び階段の方に戻す。
すると、階段の下の方から、またあのオヤジが姿を現した。
「おい。お前は反対の方に行ったはずだろ!」
そのオヤジは、再び俺の前を通り過ぎると、ホームの先の方に歩いて行く。
そして前と同じように、ひゅっと姿を消した。

「まさか、また改札を上がってくるんじゃないだろうな」
俺は視線を階段のほうに戻した。
すると、ほんの数秒後に、またあのオヤジが現れた。
「あのオヤジ。同じ場所を何度も通っているのだ」
けして「行ったり来たり」しているのではない、いつも同じ方向に向かっていた。
「こりゃ、もしかして・・・」
別のヤツも同じかも。

今度は三十歳くらいの女性に決めた。
この女にしたのは、服の色が派手で、見失うことが無さそうだからだ。
すると、やはりこの女も、改札を入って、ホームに上がり、その端で姿を消していた。
「なるほど。わかったぞ」

こいつらは幽霊だ。
自分が死んだことが分からず、生前と同じ行為を繰り返しているのだ。
毎朝、目が醒めると、服を着て駅に向かう。
これを何百回何千回と行っていたので、意識がそこから離れられなくなっているわけだ。

混雑した人込みに、既に死んだ者が混じっていることはよくある。
朝の駅だって、よく見ていると、普通じゃないモノが紛れ込んでいる。
俺はそういうのにウンザリしたので、マイカー通勤にしたのだ。
「これから死にますってのが、線路に飛び込むところを、毎朝見させられては溜まらんからな」
大概は幽霊で、そいつが飛び込んだ後は何もない。
近くに立つ人は、そいつのことが見えないので誰1人として騒がない。

「でも、何千人の幽霊が駅に集まっているなんてのは、さすがに初めての経験だ」
ま、これくらいになると、「今、自分が正気かどうか」を疑う必要もない。
だって、ほら、時計を見れば・・・。
腕時計を見ると、やはり朝の3時だった。
「朝の3時じゃあ、駅はまだ開いてないだろ」

でも、また俺はおかしなことに気がついた。
俺は終電を乗り過ごしたままベンチに座っていたはずなのに、駅員が俺を起こさなかった。
俺のことを無視して、駅を閉めたのだ。
そんなことは、この日本では有り得ない。
「ここで俺も幽霊だった、みたいなオチになったら、いかにもありきたりだよな」

じゃあ、まず1つずつ確かめよう。
まずは周りにいるこいつらだ。
こいつらは自分の妄執で現れているのだから、俺との接点が無くなれば見えなくなる。
今、こいつらが見えているのは、俺がここで居眠りをして、無意識状態に近くなった時に、奴らの意識?とシンクロしたせいだ。
「おい。俺はお前らのことは知らない。お前らなんか、俺とは関わりの無い存在だ。だから俺が1度目を瞑って、次に目を開ければ、お前らは消えている」
目を瞑って、「ハイ」と力強く言って、再び瞼を開いた。
やはり、周りの幽霊は消えていた。

ちなみに、これは自己暗示の応用で、相手に働きかけているのではなく、自分に向かって言っているのだ。役に立つから、ぜひ覚えといて。
「俺はお前らとは関わりが無い」「お前を救えるのはお前だけ。俺じゃない」と、はっきりした線を引くのが、幽霊を避ける簡単で有効な手段だ。
やたら意識しまくって、幽霊を怖れるのは、相手と「関わろう」とすることなので、逆効果だ。
思い余って、自称霊感師やスピリチュアル・カウンセラーを訪ねるのは、もっと愚か。
どうせ「死んだお祖父さん」みたいな話を持ち出すに決まってら。

霊感なんか誰にでもあるが、誰とも共有できない。
そういう意味で「霊は存在する」のと「霊は存在しない」のは同じ意味だ。
般若心経で教えてくれてるだろ。

さて、本題に戻ろう。
この駅で、さっきまで、沢山の幽霊が行き来していたが、ぶつかったり、相手を避けたりすることはない。それは、各々の幽霊が他の者を認知できないからだ。
このため、ひとり1人にとっては、他の幽霊は存在していない。

問題は次だ。
「果たして、この俺が存在しているのかどうか」
これも同じ方法で良い。
「今から俺は目を瞑り、それからもう一度目を開く。もし俺がこの世に存在していないなら、俺の意識はここから離れてどこかに行く。存在するなら、もう一度ここだ」
もし俺が存在するなら、おそらく同じ場所で目が醒め、それからきっと終電に乗って家に帰る。
もし俺がこの世に存在しない幽霊なら、また別の所を漂うか、あの世に向かうだろ。
ここで俺ははっきり腹を括った。

目を瞑り「ハイ」と叫べば、総てが分かる。
少しドキドキするが、さあ行くぞ。

ここで覚醒。