日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第311夜 怨霊病棟

夕食の後で、テレビの前に座ったら、十分も経たないうちに寝入っていました。
これはその時に観た夢です。

病院のベッドに体を起こして座っている。
そのオレの許へ、向かい側の患者がやってきた。
「ネギシさん。死んじゃったんだってさ」
「え?検査だけじゃなかったの?」

ネギシさんは隣の病室の患者だ。
1年前に心筋梗塞になり、治療を受けたのだが、その頃オレも同じ病気で入院していた。
オレの方は治療に手間取り、退院したのはひと月後だ。
オレは「1年後検査」のために、再びこの病院を訪れ、ここでネギシさんと再会した。
検査入院なので、心臓にカテーテルを入れると言っても、1泊か2泊で退院する筈だった。
ところが、ネギシさんは検査の翌日から具合が悪くなり、かれこれ3週間もそのまま病院にいた。
そして、最後はあっけなく死んでしまったというのだ。

オレは今年も心臓に異常が見つかり、その治療を受けた。
向かい側の患者はタカハシという名で、オレと同じ心臓の治療をして、今は5日目だ。
オレのほうも1年後検査だったが、血管2本に詰まりが見つかったので、中をきれいにしてもらった。
2箇所だったと言うこともあり、入院期間は1週間。
退院予定日は明後日になっている。

「なんでまた急に。ネギシさんの死因は何だったの?」
タカハシさんは渋い表情だ。
「肝臓癌だってさ」
「そんなのアリなの。今までまったく検査に掛からなかったのに、癌だと分かって3週間で全身に転移してたなんて」
「変だよな。このところ、退院する人を見掛けたことが無い。そのまま病院にいるか、死ぬかの2通りの人だけだ」

死因が肝臓癌だってところが気になる。
オレも2日前の経過検査で、心臓ではなく肝臓を再検査することに決まっていた。
「そう言えば、退院するわけでもないのに、ここの病棟から別のところに移る患者が多いよね」
ここは循環器科だが、毎日、消化器や呼吸器の病棟に患者が移って行く。
さらに、そのどの患者も、その後良くなって退院したという話を聞かないのだ。

オレは猜疑心を抱えつつ、医師の診察を受けに行った。
レントゲンの他、ひと通りの検査が終わるのに、ほぼ半日掛かった。
診察室で椅子に座ると、担当医が視線を上げた。
「コバヤシさん。検査の結果が出ました」
「はい」
「ちょっと難しい状態です。あなたの肝臓を検査したら、肝臓は大丈夫だったのですが、リンパ種に罹っていることが分かりました」
「それって、もしや・・・」
「残念ですが悪性です」
医師の表情で大体は想像がつく。

オレはここで疑惑を確かめることにした。
「先生。ちょっとおかしくないですか。ここに入院してからというもの、退院した人を見たことが無い。皆、病気が重くなるか、別の重病に罹って死んでます。肝臓癌、リンパ腫、肺癌と癌ばかりじゃないですか。何か病変をもたらすような要因がここにはあるんじゃないですか」
癌を発生させる要因と言えば、放射線が漏れている、とか、強力な発癌性物質を吸収させられている、とかだ。
オレの話を聞き、医師はオレの方に向き直った。
「あなたの考え方は正しい。疑うのも当たり前です。だってほら」
医師は自分の白衣の前を開いた。
医師の腹は一部が異様に膨れていた。
「私も今月、突然胃癌になったのです。しかも末期癌だ。これまで何の異常も検査には出なかったのに」

医師が「ふう」とため息を吐く。
その医師にオレはもう一度疑問をぶつけた。
「これはちょっと普通では考えられない事態です。ここでいったい何が起きているんでしょう」
オレの言葉に医師が頷いた。
「コバヤシさんが疑われるのも当然です。現に私たちもおかしいと思い、医師会に相談しています。中央にも報告していますが、役所が腰を上げるのを待っていたら、とてもじゃないが間に合わない。コバヤシさんも私もその頃には死んでます」
「異変が起こり始めたのは、過去半年以内です。それなら、この半年で何か環境に変化が生じたのか調べる必要がありますね」
「工事をして、中庭を駐車場にしたことと、地震に備え医療機器を置く場所を変えました。それは既にチェックをしています」

オレはここで1年前のことを思い出した。
「中庭には祠みたいなものがありましたよね。あれはどこに」
「あれは移転したと聞いています。きちんと神主を呼んで、お祓いもしました」
「どういう祠だったのですか」
「この地の悪縁を鎮めるためのものだったようです」
なるほど、それか。オレは祈祷師の息子なので、その辺は詳しい。
「じゃあ、それが重しになっていたわけですね。その祠を他所に移す作法だけではなくて、その祠の替りに悪縁を鎮めるための封印をしないと、有象無象の悪霊が這い出て来ます」
「そんなことがあるもんなんでしょうか」
いつの間にか、医師と患者の立場が逆転していた。
それもそうだ。こっちはオレの方が専門家だからな。

「このことに我々が気付いたことが知れると、悪さがもっと激しくなります。すぐに行動を開始して、悪縁を取り除く必要がありそうです。まずは院長の所に行きましょう」
「そうですね」
オレは医師と2人で診察室の外に出た。

「うわ。何だこりゃ」
この病院の廊下が暗くなっていた。
照明は前と変わらず点いているが、薄暗く見えるのだ。
看護師や患者が立っているが、どれもこれも死体のような面持ちだ。
「こりゃ不味い。とんでもなく強力な悪霊が動き出している」
「急ぎましょうか」
オレたちは小走りで先に進んだ。
院長の部屋はわずか五十辰竜?イ澄

不意に頭の中に声が響く。
「そのたった五十胆茲泙如△前は果たして行けるかな」
こりゃ本当に不味い。オレに語り掛けて来てら。
頭の中に息を吹きかけた後は、本物の声を出して来るだろうな。

すかさず笑い声が廊下全体に響き渡った。
「ふふふ。ははは」
横にいた医師がオレの顔を覗き込む。
この人にも、今の声が聞こえたのだ。

急に足が重くなった。
泥の中を進むように、足を前に出すのが困難になる。
胸の真ん中が締め付けられるように苦しい。
「こりゃ、あと十辰睚發韻困法▲レは・・・」
足がよろめく。

ここで覚醒。

実際に胸が重苦しかったので、苦痛で目が醒めました。
先に苦痛があり、それに合うような夢を観たということでしょう。

日中は家にいましたが、廊下を歩く足音が煩いので、思わず「静かにしてくれ」とドア越しに言い付けました。
数分後、階下に降りてみると、家族は数時間前に出払っており、誰もいませんでした。
体調が悪いので、妄想にうなされているか、敏感になっている、ということでしょう。
ま、毎年11月から12月の頭くらいまでは、これが続きます。