日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第315夜 人生最悪の日

昨夜、映画を観ているうちに寝入っていました。
これはその時に観た夢です。

オレは企画会社の共同経営者だ。
この会社は全員が共同経営者で、それぞれが自分の仕事をしている。
すなわち、会社は仕事を動かしやすくするための傘で、実態は個人営業と変わりない。

「仲間に入れてくれ」という申し込みがあり、オレがその面接担当になった。
現れた男は40歳くらい。サラリーマンだったが、独立志向が強く、自分で事業を動かしたくなったという面持ちだ。
「ま、無理だろうな」とは思うが、一応、話は聞いてやる。
ここも一応は会社組織になっているからな。

「事業の内容は・・・」
「あ。良いんですよ」
「は?」
「説明しなくともいいんですよ。他の者は一切手を出さないですから」
「はあ」
「ここの維持費を頭割で払うのと、資金計画についていくつかアドバイスさせていただくだけです。あとはご自由にお考えください」
「じゃあ、お金のことについて。仮に5百万必要だったとしたら、どこに融資を申し出れば良いのですか」
「ダメです」
「は?」
「資金の融資は3千万からです。首都圏で何か事業をするなら、3か月でそれくらいは消えてしまいますから。ここにはスポンサーがいて、いくらでも貸してくれますが、最低3千万からが決まりです。担保があればそれに越したことは無いですが、無担保でも平気です。保証人を付ければ大丈夫ですが、期限厳守が決まりです。いざ返せなくなったらマチ金・裏金より怖い結果になります」
「保証人はどう準備すれば良いのですか」
「ハンコを集める必要はありません。あなたの家族全員の名前と親しい友人の名前を紙に書いて提出するだけです」
「それだけ?」
「手続きが簡単な分、確実に処理されるということです。良く考えた方が良いですよ。もし滞ると、直ちに全員に請求が行きます」
「はあ」
ダメだな。ここの実態を知らないで来たらしい。
ここは案外低利だが、きちんと金を返す必要がある。もし返せないと、問答無用で保証人が「消えて行く」のだ。しかも、遠い人、すなわち友人知人から、順番にだ。さらに、消えた保証人の親族に「誰のせいでその人がいなくなったのか」が告知される。
このため、今まで1人も返さなかった者はいない。
「1千万くらいなら、親族を回って頭を下げて借りた方が良いですよ」
そうすれば、身近な誰かが死ぬリスクは無くなる。
「そうですか。じゃあ、もう1回よく考えてみます」
男は立ち上がって、出て行った。

オレの仕事は整理屋だ。これは表の仕事で、裏の仕事は買い取り屋だ。
表の方は、倒産した会社の資産整理で、債権者を集めて分配するというヤツだ。
裏の方は、倒産前に「残り資産」を買い取るというものだ。

潰れる会社や破産寸前のヤツは、いよいよとなると売れそうなものを全部売る。
現金を作り、家族に渡すか、逃走資金にするためだ。
土地なんかは大概抵当に入っているので売れないが、倉庫の在庫だとか、車なんかは売れる。
傾いた会社の息子が、突然、ベンツの最高級車を買ったら、それはそのまま、オレのような人間の所に来る。
ローンが組んであっても平気だ。別の車に生まれ変わって、どこか外国に行く。

ここの会社は、そういうヤツの集まりだ。
ホステスの「口入れ屋」をやっているヤツもいれば、外国人の在留保証人を紹介するヤツもいる。
もちろん、合法・非合法の境界線の上にいるヤツばかりだ。

そんな仲間の1人がしくじった。
手際が悪く、合法のラインから内側に落ちたのだ。「内側」ってのは言い方が逆のようだが、「刑務所の塀の」という意味だ。
まだ捕まる前で、そいつは捕まる前に、打てる手を全部打とうとしている。
もちろん、金を散らして、出所した時、再起に使えるようにするという意味だ。
オレはそいつから書類の保管を頼まれた。
様々な証拠書類で、表には出したくない性質の資料だ。

「書類を取りに行って、レンタル倉庫に入れといてくれ。あっちの部屋には骨董があるから、倉庫代とお前への謝礼はそれだ」
「いいよ。その部屋はどこ?」
「九州のマンション。鍵はオレの机に入れといた」
「九州」
ここから千二百キロはある。骨董を積んで帰る必要があり、車で行かねばならない。
しかし、オレは心臓に持病があるので、長距離の運転はかなりキツい。
「明後日には出頭するから、すぐに頼む」
ま、報酬が出るなら、これも商売だ。断る理由は無い。
「分かった。すぐに出る」

まあ、猶予は3日間。
マンションの調べがつかないように、あの男が極力、引っ張ってくれるだろうが、念のためだ。
オレはすぐさま、ワゴン車に乗って出かけた。

マンションに着いたのは、翌日の夜だった。
鍵を開けて中に入る。
ヤツに言われた部屋の書棚から、書類を取り出す。
金庫に入れないのは、他の人間には何の意味も無い書類だから。
それなら、普通に書棚に置いた方が空き巣に盗まれずに済む。

書棚の上の棚には、やはりアイツが言った通り、50センチくらいの高さの置物があった。
「おお。すごい」
古代ペルシアの置物だ。
値段は千の桁であることは間違いない。
「これで完了」
この部屋には金庫があり、中には現金が幾らか入っているだろうが、もちろん、そっちには触らない。
いずれ、ここにも警察が来る。その時、なるべく余計な疑いを抱かせないようにする必要がある。
手袋をしているが、言われた部屋以外には、当然、入らない。
うっかり証拠を残して、オレまで捕まったら、シャレにならないからな。

置物と書類を抱え、部屋の外に出る。
鍵を閉め、立ち去ろうとすると、脳天からつま先までを貫き通すような衝撃が来た。
「ダーン」
雷のような衝撃だ。
オレはたまらず、その場にしゃがみ込んだ。

「こりゃ不整脈だな。しかも重いヤツだ」
心臓が悪いのでたまに不整脈が起きる。これが重くなり心室細動に近くなると、まさに「雷」のような感覚だ。
「これでお陀仏かも」
ま、何度か経験しているので、覚悟はしている。
こいつを経験すると、それほど遠くない将来、自分が死ぬだろうことを実感させられてしまう。

おそらく十分くらいで眼が開いた。
ツイていたことに、オレの意識はまた戻ってくれた。
だが、後遺症もある。
記憶が途切れ、断片的なものになってしまうのだ。
その証拠に、オレは自分の携帯電話をどこにやったかを忘れてしまった。
「最初から持って来てなかったかも」
しかし、部屋に置き忘れて来ているのかもしれない。
確かめてみないとな。

だが、今度は部屋の鍵が無くなっていた。
「今さっき、閉めた鍵だろうに」
これが分からない。
最悪のケースだ。部屋の中に入って確かめねばならないのに、入る手段が無い。
どうしよう。

ここで冷静に考えてみる。
ここは3階の隅の部屋だ。道路側ではなく裏の方。
「なら、ベランダに回り込むことが出来るかも」
一旦、車まで行き、荷物を置いて来ると、オレは再びマンションの3階に戻った。
奥の手すりを越えて、ベランダの方の手すりに飛びついた。
なんとか、これを越えて、ベランダに下りることが出来た。
「窓が開いててくれると良いのだが」
さすがに開いてはいなかった。

窓ガラスに手を当てて、中を覗き込む。
「あった」
オレの携帯は、どうしたことか、あの部屋のテーブルの上に置いてあった。
オレとしたことが、骨董があまりにも良い品だったので興奮したのだ。
「これじゃあ、仕方ない。ガラスを割ろう」
オレは念のため、車からバールとタオル、ガムテープを持参して来ていた。
最初にガラスにガムテープを貼る。これで音が出難くなる。
バールにタオルを巻き、それで窓ガラスを割った。

これで完全に空き巣が入った痕跡が残る。
となると、空き巣が入ったように振る舞わねばならない。
あちこち引き出しを開けては家探しした。
「なんだ、アイツ。随分、現金を抱えてたな」
引き出しには、ぞろぞろと札束が出て来た。
「あのヤロー。本当はなにをやってたんだよ」
行き掛けの駄賃だし、貰っとくか。
札束をポケットに詰め込んだ。
あとは適当に散らかして、部屋を出るだけだ。

廊下に出ると、奥の部屋のドアが見えた。
「どうすっかな」
しかし、空き巣なら、ひとまず全部の部屋を漁るだろう。
急ぐ必要があるが、そっちにも入らないとな。

ドアに近づき、ノブを回した。
ゆっくりとドアを押し開けると、部屋の中央に人が転がっていた。
手足を縛られた裸の女だった。
「うひゃあ。最悪だ」
傍から見れば、まるで、「空き巣に入ったが、中で人と出くわしたので縛った」みたいな状況になっている。

破れた服が散らかっていた。もちろん、その女の服だ。
「暴行」「強姦」てな罪状が頭に浮かぶ。
犯人にされたらヤバ過ぎる。
「まさか、死んでたりはしないよな」
そうなれば「殺人」まで付いてくらあ。
オレは書類を取りに来ただけなのに。

もしこの女が生きてれば、それはそれで面倒だ。
放置すれば1日2日で死ぬだろうし、まだしばらくは人が来ない。
それこそ殺人だな。
しかし、縄をほどいている間に顔を見られるのも不味い。
体は青黒いが、地黒ならこれでもアリかもしれん。まだ臭くなっていないし、生きてるかも。

「ふう」とため息を吐く。
まさか、こういう風に追い詰められるとは。
夢や妄想であってほしい。
なんてことを考えていても仕方がないので、ここでひとまず自分の状況を洗い直すことにした。
三者から見た時に、オレがどういう人間に見えているかだ。
もし、捕まった時に、オレが犯人でないことを証明する方法を十分考えて置く必要があるからな。

しかし、またもやグラグラとめまいがして、オレは身を屈めた。
しばらくすると元に戻ったが、そこでオレは自分が本当の危機に陥っていることを悟った。
前にも言った通り、心室細動が起きると、記憶が消失することがある。
オレは自分の車をどこの駐車場に置いていたか、今はすっかり忘れていた。

おまけに、このオレが誰で、なぜここに来たのか、ということもだ。

ここで覚醒。

寝ている間に、実際にキツい不整脈が起きていた模様です。
その時の「ダーン」という衝撃で、こんな夢を観たのだろうと思いますね。
これがあると、「いつか」や「遠い未来」に期待したりしなくなります。
人生は「今」の連続です。目の前にある出来ることを行うしか道はありません。