日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第331夜 ドームの中で

今朝方の夢です。

目が醒めると、着陸船の中にいた。
オレは宇宙飛行士で、ある植民星の機械整備のため派遣されたのだ。
飛行中はずっと睡眠状態にあり、完全に自動運行。
乗組員は着陸後に目覚めるシステムになっている。

そうは言っても、乗組員はオレ1人だ。
最近は経費節減のため、操縦士のような乗員は乗せなくなった。
もしトラブルが起きたら、「飛行船ごと廃棄」の方針で、オレみたいなメカニックは見捨てられる。
契約にはそのことを織り込んであり、その分報酬も高額になっている。

着陸船が植民基地に接岸した。
オレは通路を通り、基地の中に入った。
この惑星にはまだ大気中の酸素が薄いので、光合成を行ったり、イオウ酸化物を分解したりするバクテリアを撒いているが、人間が呼吸できるようになるのは10年後だ。
このため、現段階では人間はドーム型の基地の中で生活している。

ドームの広さは縦横300メートルで、高さは30メートルだ。
中心に人工太陽が置かれており、壁面全体に植物があしらわれている。
この中で生存可能なのは30人で、それがここの生態系を維持できる水と酸素を供給できる限界だった。

中に進んで行ったが、誰も出て来ない。
「おかしいな。オレが来たことは見ている筈なのに」
オレは拠点施設に向かったが、そこにも誰もいなかった。
機器は蔦が覆い被さっている。
「ここの人たちはどうしたんだろ」
中を歩き回るが、人は見当たらない。

果物が自生していたので、オレはマンゴを1つもぎ取り、それを食べた。
地球は既に汚染されており、果物を食べられるのは一部の金持ちだけだ。
マンゴ1つが30万円ほどする。
オレはマンゴ味のクッキーを食べたことがあるが、果実は初めてだった。
甘酸っぱい果実をほおばってみると、クッキーより味が薄かった。

いやはや。何か伝染病でも流行し、人間が死に絶えたのか。
それだと、オレもちょっとヤバい。
ここは閉鎖系で、総てが循環しているからだ。

仕方ない。
とりあえず飯でも食おう。
レトルトではなく、ちゃんと料理したヤツだ。
オレは着陸船から、冷凍肉とシャンパンを取り出した。
飛行時間は4か月で、それくらいなら保存がきく。
任務遂行できた時の自分へのご褒美に、オレはこっそり保存食以外のものを持ち込んでいた。
肉を解凍し、枯れ木を拾ってたき火を焚き、それで焼いた。

周囲に良い匂いが拡がる。
「ずっと眠っていたから、ゆっくり食べないと、胃に穴が開くだろうな」
酒も久しぶりで、シャンパンを口にしたら、すぐに酔いが回った。

たき火を眺めていると、後ろの茂みでかさこそと音がした。
「お。肉の焼ける匂いで、生存者が出て来たか」
あるいは、その生存者を殺した奴かも。

ゆっくりと振り返ると、5、6歳くらいの女の子が立っていた。
「こんにちは」
「・・・」
返事をしない。
まあ、人を見るのが久しぶりだってことだろう。
「もう焼けるから、一緒に食べよう。ほら」
焼けた肉を差し出すと、女の子はそれを受け取ってがつがつと食べた。

女の子が食べ終わるのを待って、お替りを出す。
そのうちに、いつの間にかオレたちは隣に座っていた。
「飯を一緒に食う」は信頼を得るための基本的なステップだ。

さりげなく、オレは女の子に訊いてみた。
「お母さんたちはどうしたの?」
女の子は初めて返事をした。
「落ちた」
「落ちたって?」
「大きな船が来たから、皆で迎えに行った。そしたら、その船が落ちた」
「どっちの方?」
女の子に連れられて、ドームの反対側に行く。
そこには大きな窓があり、外の様子がよく見える。

すると、ドームから1キロくらい離れたところにある発着場に、巨大な宇宙船の残骸があった。
「あれは、移民船専用の・・・」
大型宇宙船だった。
ドーム建設用の資財と30人の植民を乗せた大型宇宙船は、あそこで着陸に失敗し、墜落したのだ。
ここの大人は、皆その下敷きになったので、この子1人が残されたのだ。

「いつ頃のこと?」
「2か月くらい前かな」
「そっかあ。大変だったね」
ここにこの子を独りで残すわけには行かないので、オレはオレの宇宙船でこの子を地球に連れて行くことにした。
あと1人くらいなら、オレの船でも十分に乗れる。
「ま、とりあえずは風呂に入ることからだな」
オレは倉庫でドラム缶を見つけると、これを半分にぶった切った。
これをブロックの上に乗せ、水を入れて、下から火を焚いた。
地球の狭苦しいシャワー室にはうんざりしていたから、俺自身も外で開放的な気分に浸りながら、のんびり風呂に入りたいと思ったのだ。

湯が沸いたので、オレはその子と一緒にドラム缶風呂に入った。
オレはもう50で、その子はもはや孫のようなものだった。
風呂はドームの窓の下に置いたので、上を見上げると、空が見えた。
その一角に、小さな星が瞬いている。
「ほら。あれが地球だよ。準備が整ったら、一緒に帰ろう」
オレに子はいないので、孫も当然いない。
もし孫が居たら、こんな感じなんだろう。
世間のオヤジジイたちが孫の話をする時に目を細めるが、今はその気持ちがよく分かる。

ドームの天蓋の窓は20メートル四方もある。
きれいな星空が見えていた。
すると突然、空の一角が光り輝いた。
星のひとつが爆発したのだ。

「おい。あれは・・・」
光り輝いているのは地球だった。
「まさか」
戦争の危機が叫ばれていたが、まさか本当にミサイルを撃つとは。
核ミサイルが飛び交っているのだろう。すぐに地球全体が真っ白な光に覆われた。

オレはその光景を見ながら途方に暮れた。
帰るべき星が無くなってしまったからだ。
「この戦争を生き残れるのはどれくらいだろ」
地球上では無理だろう。これから何百年かは放射能に汚染されている。
植民星では何人が?
幾つかの星があるが、全部合わせてもせいぜい数百人。
しかも、星間を旅行するためには、宇宙船と専門の飛行士が必要だった。
いつの日か、他の星からここに救援船が来るのかどうか。

その日まで、オレたちはこの星で、この星の中だけで生きて行かねばならない。
50歳のオレと、5歳のこの子の2人だけなのだ。
ドームの外に出られるようになるのが、ほぼ十年後。
少なくともその時までは頑張らねば。

ここで覚醒。

渚にて」みたいな人類の終焉でした。