日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第378夜 引きこもり

日曜の午前中に、大リーグ中継を見ながら寝入ってしまいました。
これはその時に観た短い夢です。

妻が部屋から出て来なくなった。
きっかけは近隣トラブルだ。
前々からゴミの出し方などで食い違いがあったようだが、ささいなことで近所の主婦連と言い争いになったらしい。
その時、主婦たちが揃って妻を非難したので、それ以後、妻は外に出なくなったのだ。

オレは43歳で、妻は44歳。妻の方がひとつ年上だ。
子どもは居らず、この家は十二年前に、結婚を機に購入した家だった。
妻が部屋い閉じこもってから3か月が経つ。
最初のうちは、なかなか気づかなかった。
オレは仕事が忙しくて、朝は早くから出勤するし、夜家に帰るのは11時頃だ。
ローンもだいぶ残っているので、頑張って働かねばならない。

家に帰った時には、妻は先に寝ている。
だから、ほとんど話をすることも無かったので、気づくのが遅れたのだ。
洗濯物が溜まり、台所の汚れ物がそのまま残っているようになって、初めて妻の様子がおかしいことに気付いた。

生活時間がズレているので、元々、部屋は別々だった。
朝もオレは6時前には家を出るので、妻は寝ていることが多かった。
オレはいずれ独立するつもりで、その時に備え、朝は必ず2、3時間ほど、会社の近くの喫茶店や漫喫で勉強をしている。
睡眠時間が少ないが、昔から精神力が強い方なので、週末に寝だめをすればなんとかなる。
家事も平気だ。
オレは料理が嫌いではなく、むしろ得意な方なので、頻繁に料理をする。
自分の分のつまみや飯は、自分で作ることが多かったのだ。

そういったことが重なり、妻の異常に気付くのが遅れてしまった。
気づいた時には、もはや妻は、自分の部屋から一歩も出なくなっていた。
オレの方も気持ちの余裕がないから、妻と向き合うよりも、自分で家事をすませる方を選んだ。
洗濯や食事、掃除の類をオレが自分でこなすようにしたのだ。

それから3カ月が経った。
朝のオレは、妻の部屋の前に朝食を置いて出掛ける。
帰宅すると、そのトレイが廊下に置いてある。
食べてはいるらしいが、風呂や洗濯はどうしているのだろうか。
おそらく、オレがいない時に下に降り、風呂に入ったり自分の服の洗い物をしているのだろうと思っている。
妻の部屋には常時鍵が掛かっており、暮らしぶりを確かめる術はない。
オレが家にいない時、いったい妻は何をして暮らしているのだろうか。
テレビを観たりした形跡もなく、ただ部屋の中に座っているとしか思えない。
1日中その調子だとすると、それはそれで少し気落ちが悪い。

こんな状態が3カ月続いたわけだが、4、5日前から様子が変わった。
食事を摂らなくなったのだ。
オレが支度をしたお盆は、ご飯やおかずがそのままで、置いた時のまま廊下に出ている。
何も食べないのでは、そろそろ参って来るはずだ。

だが、部屋の中に妻はいる。
オレの部屋は妻の部屋の2つ奥だが、自分の寝室に向かおうと廊下を歩いた時に、妻の部屋のドアが少し開いていたことがある。
前を通ると、そのドアの隙間から、妻の手が見えた。
まあ、オレが通ることに気づき、すぐにドアが閉まったので、妻の顔は見ていない。

「そろそろ限界だよな。衰弱してしまう」
そう思って、妻の部屋のドアを叩くが、応答は無い。
こういう時は「無理強いしてはいけない」と聞いたことがあるので、3度呼びかけたところで止めた。
「義妹を呼んで、声を掛けて貰わねば」
自分の妹なら、妻も話をしてくれるかもしれない。
そこで様子を見て、精神科に連れて行こう。

早速、次の日に義妹に家に来てもらうことにした。
昼過ぎには義妹がやって来たので、まずは妻の現状について説明した。
義妹は話を聞くなり、オレを責めた。
「どうしてそんなになるまで放置したんですか」
強情そうな顔つきだ。
その辺は姉妹ともよく似ている。

オレと義妹が階段を上り、妻の部屋の前まで行くと、ドアが少し開いていた。
「あ。由香里の部屋が開いている」
そこでオレはそのドアを引き開けた。
すると、その部屋の真ん中に妻が倒れていた。
妻の首にはシーツを破ってこしらえたロープが巻き付いている。
そのロープの先は切れていたが、切れたもう片方の端はドアのノブに結ばれていた。
天井にフックを打ち、そのフックにロープを通し、ドアノブに先を結んだうえで、首を吊ったのだ。
そのロープが切れたから、ドアが開くようになったと言うわけだ。
妻の顔は青黒く変色しており、首を吊ってからだいぶ時間が経っていることが一目で分かった。

オレはすぐに救急車と警察に電話を掛けた。
妻が死んでいることは間違いないが、一応念のためだ。
救急車が去ると、警察による現場検証が始まった。
不審死の場合は、ひとまず事故と事件の双方を想定して調べるらしい。
詳細に調べるので、結構な時間が掛かる。

発見時の説明をその部屋でした後、オレと義妹は応札間に向かった。
警官から事情聴取を受けるためだ。
「異変に気づいたのは何時ですか?」
オレにそう訊いたのは、まだ若い警官だった。
「数日前から、食べ物を摂らなくなっていました。首を吊っていることに気付いたのは、今日のことです」
細かい話をしていると、警官の無線が鳴った。
警官がそれを受け、何やら話をしている。
話が終わると、警官はオレに向き直った。

「今は病院の方からの連絡です。奥さんは亡くなられていました」
それはあの状態を見れば分かる。
警官が言葉を続ける。
「あなたの奥さんが亡くなられたのは、今から2週間くらい前のようです」
「え。本当ですか」

この時、オレの背筋にざわざわと悪寒が走った。
妻が首を吊ったのが2週間前だとすると、4、5日前にドアの隙間から見た、あの手の持ち主は一体誰なのか。
しかし、あれが妻であったことには疑うべくもない。
妻は死んでからも、しばらくの間、そのままあの部屋に引きこもっていたのだ。

ここで覚醒。

ホラーとしては、なかなか良い筋だと思います。
怪異譚の場合、現実には絶対に起きない恐怖を語る物がほとんどですが、こういう現象は実際にも起こり得ます。
いない筈の人の気配や音がするのは、最も典型的な霊現象です。
まあ、他の人の小説にもありそうな設定なので、小説にするにはひと捻り必要です。

いつもながら、スンナリ眠れた時には、必ずホラー系の夢を観ます。

追記)
妻の部屋の前を通った時に、「ドアの隙間から、一瞬、女の片目がこっちを見ていた」を足すと、ホラーっぽい記述になりそうです。
もう死んでいるのに、「あれは誰?」が鮮明になります。