日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第380夜 居酒屋の怪談

月曜の深夜に観た夢です。この「夢の話」は起きてから十分程度内に書いていますので、誤変換が残ったり、表現が拙い部分があると思います。

仕事が一段落したので、スタッフ一同で打ち上げをすることにした。
俺たちは、動画を作り、それをネットに投稿して、CMの広告収入を得るのが仕事だ。
最初は道楽でやっていたが、案外収益が上がるので、本気でやるようになった。
まあ、ネットで閲覧数が上がる素材と言えば、超常現象だ。
各地で心霊現象や、UFO、UMOなどの素材を探しては、それを脚色して流している。
面白くならない場合は、もちろんだが捏造する。
ネット動画など、大体はねつ造だし、それをわきまえていれば害はない。
と言うか、そう思って眺めてくれなければ困る。

メンバーは、撮影・録音スタッフが3人、ディレクターが1人。それとリポーター役の男女が1人ずつと、アルバイトのアシスタントを1人か2人雇う。
大体6、7人が1チームで、アシスタントは入れ替わりなので、全体では15人くらいになる。

今回は、明治時代に作られた旅館を探索するビデオを作った。
大きな旅館だが、30年くらい前に跡継ぎが絶え、それ以後は遺産相続のトラブルで、そのまま放置された。
廃屋同然だが、1年に1、2度、関係者が掃除の手だけは入れたようで、古びてはいるがさほど痛んではいなかった。
今回の撮影は、この旅館の跡に幽霊が出るという設定だ。
係争中の相続人が3人いるが、「後で掃除をする」という約束をしたら、3人ともすぐに同意書をくれた。やはり、30年間も掃除代を支払い続けているので、少しでもそれが浮くとなると、助かるらしい。

撮影では、旅館跡の各部屋を回った。
この手のビデオでは、よく夜中に撮影したりするが、無人の旅館に夜中に入るとなると、いかにもあざとらしい。そこで、「明治を偲ぶ」ための体裁にして、昼に撮影した。
「あの頃はこうだった」という解説をする情報番組の中に、偶然、幽霊が映っていたというシナリオだ。
もちろん、都合よくそんなものが映ることは無いことも分かっている。
俺達には場の絵柄が必要なだけで、幽霊は合成するから平気だ。むしろ、本物らしく見せるためには、全体の画像が綺麗に撮れていなくては、加工するのに困ってしまう。

このビデオはこんな筋だった。
古い旅館の中を探訪して、明治時代の人の暮らしぶりを辿って行く。案内はそこの家族の人数人だ。
御主人と奥さん、それに元使用人くらい。
ところが撮影していくと、時々、若い娘が映り込む。
御主人の娘かと思っていると、帰りしなに、「そんな娘はいませんよ」と言われる。
ビデオを確かめると、そこに映っていたのは、明治時代に亡くなったその旅館の娘だった。
こんな筋だ。
このため、今回のリポーターは男が務め、女のメンバーは幽霊役に回った。
撮影はうまく行き、まだ音なしだが試作品が出来たので、後は編集に任せることにして、打ち上げを開くことにしたのだ。

「どうせなら、もう一度あの旅館を見て、駅前の居酒屋で打ち上げをやろうよ」
この美奈子の誘いに、皆が乗った。
修正用に、旅館を横から撮影した映像を追加する必要があり、いずれにせよ、あの旅館に行くからだ。
「幽霊がそう言うんじゃ、行かなきゃな」
そう軽口を叩いて、その旅館に向かった。
そこは都心から案外近く、電車で30分の駅だ。そしてその旅館は最寄の駅からすぐ近くだった。

撮影はすぐに終わり、俺たちは駅に戻った。
この駅の周辺は再開発が進んでいたが、何軒か昔からの店が残っている。
俺たちはそんな店のひとつに入り、腰を下ろした。
この時、ここに来ていたのは6人で、この6人が入ったら、店は貸切の状態になった。
店には、無愛想な店主とその奥さんらしき女性がいた。
おそらく、夫婦2人でやっている店なのだろう。

「この状態なら、お気楽に飲めるね」
「そうだな。他に客はいないし、入って来られないもの」
早速、ビールを立て続けに3回お替りをした。
アルコールが入ると、口がなめらかになるが、話題は専ら幽霊の話だ。
仕事だからどうしてもそうなる。
次第に声高になっていくと、そんな俺たちの話を店主が耳に留めたらしい。
「お客さんたちは映画を作ってるの?」
「いや違います。ビデオですよ。今はビデオですが、いずれは映画も撮るつもりですけどね」
「怪談なの?」
「そうです。異論な場所を回って、幽霊を撮影してるんです」
「今回はこの辺で撮ったんだね」
「ええ。駅の裏の方にある若柳旅館です」
この答で店主の表情が変わった。
「お客さんたちは、あの旅館に入ったの?」
「はい。そうです」
「そこの家の人がよく入れたよね。あそこは本当に幽霊が出るという噂なのに」
「え。そんな話は聞いていませんが・・・」
まあ、よくある展開だ。プロに対し、本当はこうなんだぞと能書きを語るヤツはどこにでもいる。
そうは言っても、昔から幽霊が出るという噂があるのなら、先に聞いて置くべきだったな。

「それって、どんな話だったんですか」
これは美奈子だ。自分が幽霊だったから、気になるんだろ。
店主は一瞬、話そうか話すまいかと考えたようだが、話すことに決めたようだ。
「あそこが出来たのは明治十年頃だ。3代目の主人の時に娘が1人いたが、肺病で死んでしまった。ひとり娘だったので、親は嘆いたんだが、子が出来ないので、姪を養子に貰い、跡継ぎにすることにした。その子が家に来て3カ月経った頃・・・」
「まさか、死んだ筈の娘が迷い出て来た、とか?」
俺たちは、皆で顔を見合わせて、くすくすと笑った。
その話の筋は、まさに俺たちが撮影していた心霊ビデオのコンセプトそのものだったからだ。

「貰われた娘が1人でいる時に限って、家のどこからか女の子が出て来て、一緒に遊んだらしい。親たちは見ていないのだが、その養女が何度もそう語ったらしいよ」
「座敷わらしみたいな感じですか」
「ちょっと違うね。その養女が子どもの内はただ遊び相手になるくらいだったらしいけれど、ある時それが変わった」
店主の表情を見ると、なんだか薄気味悪い展開になりそうな気配が満々だった。
「養女が死んだ娘と同じ齢になった時、その養女はこつ然と姿を消したんだよ」
「まさか。攫われたんですか?あるいは、その幽霊に・・・」
店主が頷く。
「後の方だね。あの旅館の後ろには墓地があるでしょ。そこに死んだ娘のお墓があったのだが、養女はそのお墓の前で死んでいたんだよ」
「ひゃあ。本物の怪談じゃないですか」
「その話の方が、俺たちのより面白そうだな」

「でもそれで終わりじゃないんだ」
「まだ続きがあるんですか?」
「それ以後、その旅館では娘を作らなくなった。言い方は変だけど、死んだ娘の齢に近くなったら、親戚の家に養女に出すようになったんだ。二度と幽霊に連れて行かれないようにね。ところが・・・」
「さらにまだ?」
「そう。家の中で悪い欲望を満たせなくなったものだから、そこの娘の幽霊は外に出るようになった。時々、この街をうろついて回っているんだよ」
「旅館の中だけじゃないんですか?」
「そうだよ。この店にも来たことがある」
この言葉を聞き、皆の視線が店主に集まった。

「そこの旅館の娘はここにも来たことがある。証拠を見せようか?」
「ええ。是非」「見せてください」
店主はレジの下の引き出しから、1枚の写真を取り出した。
「これは、ほら。この近くのW大学のラグビー部の連中だよ」
ここで皆でその写真を回し見する。
「普通の宴会の場面じゃないですか」
「二十人以上いる。この店によく入れましたね」
店主はこっくりと頷いた。
「奥にでっかいジャージのヤツがいるでしょ。相撲取りの北小岩に似てる」
「ああ。いるいる」
「その隣に女が映っているでしょ」
「はい」
「そのラグビー部に女性のマネージャーはいないんだよ」
「ええ!」「本当ですか」
6人は大騒ぎをしながら、その写真を回し見した。

ひと通り皆が写真を見た後、店主が皆を順番に舐めるように見回した。
「こんな話をしたら、皆は本気にするかね?」
店主がにこっと笑う。
「なんだ。冗談だったんですか」
「ああ、ドキッとした」
6人がどっと沸いた。
ここで店主が種明かしをした。
「その子は女房の妹だよ。たまたまこの店を手伝っていたんだよ。はは」
「なんだ、ご主人。人が悪いなあ」
「いや。仕事で幽霊を撮影しているなら、怪談は怖くないだろうと思ってさ」
それまでの店主の話が上手かったので、皆が一斉にほっとしたような表情に変わった。
「よし。良いネタを聞いたところで、今日は飲むぞ!」
「おお。じゃあ乾杯!」
それから、皆でがんがんお替りをした。

2時間後、いい加減酔っぱらった後で、再び店主が口を開いた。
「実はあの話。本当のところもあるんだ」
「またまたあ」
さすがに2度は騙されない。
たとえ、幾ら酔っぱらっていたとしてもだ。
「女の幽霊が出るってのは本当の話なんだよ。それから・・・」

店主の話の途中で、店の灯りがパチンと消えた。
「ありゃ停電だ」
「すぐ点くかな」
「大丈夫だろ。一応ここも都会なんだし。十分かそこらも待ってれば点くさ」
6人はそのまま椅子に座り直した。
「御主人。電気はすぐに復旧しますよね」
声を掛けたが、返事が帰って来ない。
「ありゃ。どこに行ったのかな」
「たぶん、ブレーカーでも見に行ったんじゃないのか」
「それもそうだね」
そのまま待っていたが、なかなか電気が復旧しない。
これまでだいぶ飲んでいたこともあり、次第に眠気が強くなってきた。

「オレはちょっと居眠りをしてるから、灯りが点いたら起こしてくれ。電車があるかどうかはわからないが、家には帰りたいからな」
「停電のままだったら、電車だって走っていないよ。きっと。それに終電と言うより、もうじき始発の時間だよ」
「そっか。じゃあこのまま待ってるしかないか」
しばらくの間、2人がライターの灯りを点していたが、それも点かなくなった。
酔っぱらった上に、暗くなったので、皆が一様に眠気を覚えてきた。
「仕方ない。じゃあ、灯りが点くまで、この席で寝ていよう。点いたら、ご主人が教えてくれるさ」
すぐに眠気が強くなり、俺は眠りに落ちた。

「おい。起きろ」
誰かが叫ぶ声で俺は目を醒ました。
「皆、早く起きろ!」
「何だよ」
瞼を擦りながら起き上った。俺は床に体を伸ばして寝ていたらしい。
回りでは、仲間たちがそれぞれ起き出してくる音がしている。
先に目を醒ましたらしい誰かが叫んだ。
「うわ。なんだこりゃ」
次々に6人が起き上がる。
「これって、一体どういう事だよ」

回りを見渡してみると、周りは墓石だらけだった。
6人は墓地の中にいたのだ。
山の斜面を崩して作った墓地だ。
「ここは・・・」
斜面の下を見下ろすと、30辰曚媛爾法△△領拘曚見える。
「おい。俺たちは・・・」

昨日、撮影を終わった後に、あの旅館を出て駅に向かった筈が、たった30辰靴歩いていなかった。
あの居酒屋も、店主とその奥さんも、昨夜の出来事総てがまやかしだった。
「怖ろしい」
「まだ終わってないよ。俺たちが安心できるのは、この墓地から出られてからだ」
それもなかなか難しそうだ。
あんなに長いこと飲んだつもりなのに、俺の時計はまだ夜中の1時を指していた。

ここで覚醒。

結末がやや甘いのですが、あくまで夢なので。
丁寧に書き直せば、ひとまず読めるようにはなりそうです。
場所は東京の西部ですね。ベースには、やはり幾らか実体験が横たわっています。
少し捻れば、小説にはなりそうですが、実体験がそこにある話は取扱いに注意する必要があります。
良からぬものを呼んでしまうのは避けたいものです。
他の人の体験談を聞く時も、悪霊を引っ張ってしまうことがあります。