夢の話 第437夜 樹木の霊
有馬ダムの景色を見物し、そこから高麗神社に参拝しました。
1千日詣の2百日目を終え、夕方帰宅しました。
これは夜に仮眠を取った時に観た夢です。
家族全員で温泉に3日滞在して、家に帰って来た。
玄関の扉を開け、家の中に入る。
妻が早速、洗濯を始め、洗濯機がごとごとと回り始める。
最初のが終わったので、妻は洗濯物を干しに、2階に上がった。
すぐにオレを呼ぶ声が響いた。
「お父さん。ちょっと来て!」
切羽詰まった口調だ。
「うちの庭を見てよ」
それなら、2階に行くより、外に出る方が早い。
居間の窓を開け、サンダルを履いて外に出た。
すると、反対側の方の庭の一角が灌木で覆われていた。
緑の色が妙に鮮やかな、2メートル位の高さの灌木がもさもさと庭に生えていた。
「何だこりゃ」
近寄って見る。
その木は庭の西南を3×7メートル位の幅で覆っていた。
数十本の灌木が並んでいるから、うっそうとした茂みになっている。
「これがあると、家の後ろに行けないな」
灌木の根元を観察すると、最近、土を掘って埋めた痕が残っていた。
「こりゃ。オレたちが留守にしている隙にこれを植えたんだな」
長靴の痕までしっかり残っている。
その靴の痕を辿って行くと、後ろの家の庭に続いていた。
境目に立って、その足跡を見ていると、向こう側からこっちを見ている視線にぶつかった。
後ろの家のオヤジが、こっちの様子を見ていたのだ。
「これを植えたのはあんたか?」
そのオヤジに手招きをする。
気を付けよう。最近は気が短くなっているから、いきなり殴りつけて殺してしまわないように心掛けよう。
ここで深呼吸をする。
オヤジが口を開いた。
「留守のところ申し訳なかったが、どうしても必要だったから・・・」
あ、ダメだ。言い訳めいた言い方をされると、怒りのスイッチが入ってしまう。
「何だって」
すると隣家のオヤジは、頭を下げつつ、近寄って来た。
「これはそっちの家のためにもなるんですよ。きちんと説明します」
じゃあ、ひとまずそれを聞いてやるか。
「そちらの家の前には樹齢3百年の樫の木が立ってますね。それくらいの老木になると、樹には魂が宿ります。木の霊と申しますか、次第にそういうのが外に出るようになるのです。現に私のところには時々女の幽霊が現れます」
言うに事欠いて、「樫の木の霊」だと。
「風水師に尋ねてみたのですが、その女を出なくするには、あの大木と私の家の間に、防護柵のように緑色の木を植えれば良いという答えでした。女の霊にうろつかれたら、あなたの家だって困るでしょうから、勝手ながら植えさせてもらいました」
これを聞いて、オレは思わず「バカか」と呟いてしまった。
「ここにあんたが引っ越して来たのは、つい最近の事だ。あの樹にしてみれば、ほんの今しがたの話だ。しかも、オレの家よりも十年も後に引っ越して来た人間だ。それが、何で勝手に物事を決める。ああん」
オレはオヤジの方に一歩近づいた。
「占い師か霊感師か知らんが、ろくにものの見えないヤツに訊いたところで何が分かる。良いか」
オレはそのオヤジの首根っこに手を掛けた。
「あんたの家に現れる女の霊ってのは、あの樹の精霊じゃない。あんた個人に取り付いているヤツだ。自分じゃ分からんだろうがね」
オレはそのオヤジの肩口に取りついている女の髪を掴んで、親父の顔の前に出した。
「ほら。コイツが悪霊だよ」
女は目玉を白黒させている。さすがに気持ちが悪い。
それを間近に見て、オヤジが「ひゃあ」と腰を抜かした。
「こういうのは、こうするんだよ」
オレはその女の頭を見据えて大きな声で言った。
「ここはオレたちの場所だ。あの樫の木とオレたちは共存して暮らしている。お前なんかが来るところじゃない。すぐに出て行け」
悪霊には脳味噌が無いから、口で言っただけでは分からない。
オレは女の両眼に、人差し指と中指を突き刺した。
「分かったか。お前よりオレの方がはるかに強い。ここから出て行け」
頭だけの女の悪霊は「きゅうん」と子猫のような呻き声を立てた。
ここでオレはボウリングのボールのように女の頭を持って、オヤジに渡した。
「これはあんたのもんだから返す。このままお寺なり神社なりに行って、納めれば良いよ」
今度はオヤジが「ひゃあ」と漏らした。
このオヤジはこれからちょっとしんどいぞ。
悪霊は実体化したので、今では誰の目にも見える。
女の頭をぶら下げて、お寺に行く必要があるからな。
ここで覚醒。
今の家が出て来る夢でした。
隣家のオヤジは現実の人ではなく、かつて当方にちょっかいを出して来た詐欺師の顔です。
家の脇には、実際に大木がありますが、雨風、とりわけ夏の日差しを遮ってくれるので感謝しています。
「そろそろ注連縄を巻いた方が良いよな。そうすれば周囲が大切にする」と、いつも考えているので、こういう夢にかたちを変えたのだろうと思います。