夢の話 第448夜 幸運を呼ぶ花
羽田から帰るバスの中で観た夢です。
両親が交通事故で死んだ。
唐突のことで驚いたが、父は用心深い人で、ビデオの遺書を準備していた。
これがあったので、僕はあれこれ迷わずに済んだ。
「これをお前が見ているということは、父さんはもう死んでいるということだ。父さんは生まれつき勘が鋭く、早く死ぬような気がしている。だから、万が一の時にお前が困らないように、毎年、こういう遺書を録画することにした」
父はいずれ自分が死ぬことを見越して、その後の段取りを済ませていた。
家は最初から僕の名義になっていたし、預貯金の処理や保険金の書類もきちんと整理されていた。
「葬式は要らない。遺骨はレンタルのお墓に預けて、高校生のお前が大人になった時に、オレが好きだったあの山に散骨してくれ。だから」
僕はこのビデオを父が雇った弁護士と、伯父の3人で見ていた。
「お前の伯父さんが何を言っても、その人の世話になるな。遺産はお前が自分で管理して、人には預けるな。そのため、オレの死後十年間は触れないようにした」
横を見ると、さすがに伯父は不機嫌な表情だ。
父とこの伯父は前々から仲が悪く、疎遠にしていた。
止めは次のひと言だった。
「歌手の※※の例もある。死んで遺産や保険金を残したが、それを管理する親戚が半分を使い込んだ。さらには使った分を取り返そうとして、もう半分を博打で使った」
このひと言が決定打で、伯父はぷいと席を立ち、部屋を出て行ってしまった。
「これで、あの伯父とはこの後付き合わずに済む」
「お前のためには」という押し付けがましい話を聞かずに済みそうだ。
ただし、父の誤算は自分と一緒に母が死ぬとまでは考えていなかったことだ。
僕は18歳で、まだ高校3年だ。
18歳なら大人と同じ扱いになる筈だが、高校生だと少し違う。
児童福祉の対象となり、強制的に「保護」されてしまうかもしれない。
僕は一人っ子で、僕が家にいなくなると誰かがここを好きに出来る。
僕は父譲りの用心深い性格だ。
父が死んだ翌月には、高校に行くのを止め、就職した。
自活する18歳なら、役所だって手出しは出来ない。
高校なら夜学はあるし、数年後、落ち着いたところで、大学に入れば良い。
「まずは進学のための資金を貯めないとな」
父の遺産が入るのは十年後だし、それまで誰かの世話になって借りを作ったら、戸の時、何を言われるか分からない。
若くて都合が良いこともある。
色んな悪いヤツが家を訪れるが、面倒臭い時には「親は仕事で今居ません」と言える齢格好だということだ。
その時々で、「自活する大人」と「少年」を使い分けるくらいの知恵なら、この僕にだってあるわけで。
両親が死んで、ほぼ一年が経った。
僕は生前、父が言っていたことを思い出した。
「×◎山の山頂付近には、万年百合の花が咲いている。オレは何度もその花を見に登ったが、あと30メートルの所までは行けても、それ以上、近付けたことがない」
父によると『万年百合』は、何千年も前から同じ場所に咲いているということだ。
黄色い花で、もしその花を持ち帰ることが出来れば、「必ず幸せになれる」と言う。
「そろそろ一周忌だし、父さんの言っていたあの山に行ってみようか」
父さんが探していた万年百合が見られるかもしれない。見られなくとも、父さんと母さんの遺骨を散骨できるもの。
こうして僕はその山を訪れた。
さほど高くない山で、登山道を登れば、ほんの2時間で頂に着く。
ところが、万年百合の花が咲いているのは裏側だ。山の後ろに回るのに2日かかる。
そこから山を登るのには、また2日だ。
表と裏では全然違う。
父が残してくれたルートがあったので、僕は難なく山の中腹に着いた。
上を見上げると、わずか30メートルかそこらのところに、黄色い花が咲いている。
僕は双眼鏡ではっきりとその花を確認できた。
「さて、難しいのはこれからだ」
万年百合は幸運の花だ。それを持ち帰った人は必ず幸せになる。
ところが、持つべき資格の無い者が近寄ろうとすると、その花は急に萎んでしまうと言う。
僕は半日掛かって、その花のところまで岸壁を登った。
やっとのことで岩棚に着いたが、その時、その花は萎んで黒くなっていた。
「父さんの言った通りだ。花に近付くことさえ滅多にないことなんだな」
そこで僕は両親の遺骨を取り出し、岩棚に散らした。
「父さん。母さん、どうも有り難う」
ここで中断。
長い夢で、この先、万年百合の花を見つけるところまで話が続きます。
幸運を呼ぶ花は、「青い鳥」のように、ごく身近なところで咲いていました。
丁寧に記述すると、物語に出来そうです。