日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢から出た話  木本みちの生涯

 「夢の話」の「縞女」シリーズを、少しずつ小説に直しています。
 これはその製作ノートになります。   

 ◎「木本みち」の生涯 
 「木本みち」は明治三十年代の生まれだ。
 父は料亭の主人。子どもの頃のみちは不自由なく育った。
 妹が1人いるが、みちとは5歳ほど齢が離れている。
 みちが15歳の時に父が45歳で他界する。
 みちは17歳の時に、芸妓の道に入る。芸妓としては遅いが、母と妹との生活を守るためだった。
 元々、料亭育ちで、芸妓に見慣れていたので、みちはこれを選んだ。
 21歳の時に、半玉を終え、芸妓となる。源氏名は「濱子」。
 この時にお水揚げをしたのが藤井昭だ。藤井は織機工場の若旦那で三十台だった。
 これが大正三年の好景気の時。
 1年後、みちは藤井の囲われ者(妾)となる。

 それから十数年の間、みちは藤井の妾として暮らす。
 みちは自宅で子どもに稽古事を教える日々を送った。
 二十台の末に、一度、流産を経験している。

 昭和の初めには、みちは三十台の半ばになっている。
 藤井の会社が次第に傾く。
 徐々に、みちの面倒を見られなくなり、みちは芸者の世界に復帰する。

 藤井は次第に荒れ、みちにつらく当たるようになる。
 藤井の本妻が死に、みちはほんの少しだけ、藤井の妻になることを思い描く。
 しかし、藤井はみちのことを放置したままだ。
 藤井は別の若い女のところに通うようになっていた。
 噂では、その女を後添いにするらしい。

 みちが二度目の妊娠をする。
 日頃は気を付けていたが、藤井と諍いがあり、乱暴に犯された時に出来たのだ。
 そのことを告げると、藤井が怒り、「嘘を吐くな」と切れる。
 藤井はみちと別れるつもりだった。
 藤井が策謀し、若い男にみちを犯させる。
 その現場を押さえた藤井は、「不貞を働いた」ことを口実に、離縁を宣告する。
 「お前の齢ではこの街では働けぬ。どこぞの温泉にでも行き、そこで枕芸者にでもなれ」
 藤井がみちの腹を蹴る。
 みちは流産し、そのまま死ぬ。

 みちの死体は隅田川に流される。
 この時、みちが最後に着ていたのが、縦縞模様の着物だ。
身元が分からないように、みちの死体は着物を剥ぎ取られ、裸で流された。

 その年に世界恐慌が起き、藤井は破産し、自殺する。

 それから長い間、みちは暗闇の中にいた。
 五十年後、みちは覚醒し、幽界の中を徘徊する。
 ある出来事がきっかけとなり、みちは現世に戻る。
 この話は、ここからが始まりだ。

 これが「縞女」の誕生プロフィールです。
 本編の中には書きません。
 怪談として書くつもりは無く、「心変わり」がテーマになりそう。

 あんなに幸せだったのに、人はどうしてこんなに変わるのか。変われるのか。
 人の心には、どうしても抗えない情念があります。