日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第472夜 工事現場で

夢の話 第472夜 工事現場で
 雪道を歩いて駅に行ったら、負担が大きかったらしいので、帰宅後すぐに横になりました。
 これはその時の夢です。

 夢の中のオレは、まったくの別人格だ。
 たぶん昭和三十年代の初めの頃で、オレは妻と共に工事現場で働いている。
 「流れ人夫」で、工事現場の小屋で寝泊まりしながら、各地を渡り歩いている。
 
 仕事は朝から夜までびっしりだ。
 どうやらダム建設かなんかの現場らしく、時々、発破の音が聞こえる。
 妻は元々、良い家の娘だ。
 名前は美恵と言う。
 オレとは幼馴染だが、親の都合で嫁にやらされそうになった。
 美恵が嫁に行く数日前に、オレは美恵と会った。
 すると、美恵は「私を連れて逃げて」とオレに告げた。
 美恵は良く言えば勝気な女、悪く言えば我儘なところがある。
 既に何か月も前から準備をしていたらしく、当座の金とかを隠し持っていた。
 小説なら、ここで「泣きの別れ」なのだが、オレも飛び込む方の性質だった。
 そのまま、二人で郷里を離れ、都会に逃げた。

 ところが、美恵の父親はかなりの有力者なので、何処に行っても追手が来る。
 普通の仕事に就こうとしても、必ず邪魔が入る。
 身元が分かった瞬間に解雇されてしまうのだ。まあ、父親の差し金だ。
 気が付いたら、オレと美恵は労働者として各地の工事現場で働くようになっていた。
 お嬢様育ちの妻だが、負けず嫌いなので、ソコソコ頑張った。
 しかし、数か月で手は荒れ、顔がやつれてしまう。
時々、「私たちに未来なんてあるんだろうか」と呟くようになった。

 ある時、オレは夢を観た。
 妻と二人で家の中にいたが、その家の壁面に大きなヒビが入り、家が傾げるという内容だ。
 父親が精神科医だったから、その父の影響で、オレは夢のことに詳しい。
 「これは、オレの潜在意識が『これから病気になる』と告げる夢だ」
 建物が家なら体のことで、神殿や遺跡なら経済面での予知夢だ。
 その夢の通りで、オレは病気になり、意識を失った。
 何日かの間、オレは意識不明のまま、小屋で寝ていた。
 幸いにして意識が戻り、眼を開いて見ると、その時、オレの妻の美恵は姿を消していた。
 周りの者に話を聞くと、オレが伏せっている間に人が来て、妻を連れ去ったらしい。
 はっきりとは聞かなかったが、妻はその時、まったく抵抗しなかったようだ。
 父親が自ら来たか、あるいは、妻がいい加減、こんな暮らしに見切りを付けようと思っていたかのいずれかだ。
 オレは最近の妻の様子から、それが後者であることを承知していた。

 再びオレは具合が悪くなり、数か月の間、横になっていた。
 その時、オレの世話をしてくれたのが、雅代だ。
 雅代は現場監督の娘で、作業小屋の給仕の手伝いをしていた。
 雅代がオレの事をかばい、身の回りの面倒を見てくれたので、オレは回復することが出来たのだ。

 それから5年が経つと、オレは建設会社の現場監督になっていた。
 オレは雅代と結婚し、雅代の父親の片腕になったのだ。
 その頃、大会社の社屋建設の仕事を請け、オレはその現場で働いていた。
 オレがビル建設の指揮をしていると、黒塗りの車が少し離れたところに停まった。
 ただ停まっているだけだが、車の中から誰かがこっちを見ているのは分かる。
 暫くすると、車から壮年の男が出て来た。
 見るからに「執事」の物腰だった。
 男はオレに近づくと、何かの包みを差し出した。
 「あちらの方はこの工事の発注主です。貴方にこれを、と申されております」
 その包みの中は現金だった。
 三百万の札束だ。昭和三十年代の三百万だから、価値は分かるだろ。
 オレはすぐに、車の中にいるのが誰かを悟った。
 やはりあの時、美恵はオレの事を見捨てたのだ。

 「お金を頂くいわれはありませんから、これはお返しします。でも」
 オレがあっさり断るので、執事が怪訝そうな顔をする。
 「貴女の決断はけして間違いではない、とお伝えください」
 美恵は工事現場でオレの姿を発見し、今もオレが貧しく暮らしをしていると考えたのだろう。自分は裕福な家に戻ったが、しかし、自分が捨てた男の方は今も苦しみに喘いでいる、と思ったに違いない。

 だが、それは考え違いだ。
 今のオレたち夫婦には息子が2人居る。
 最初のうちは大変だったが、今は幸せだ。
 雅代は明るい性格で、「頑張れば、必ず良くなる」が口癖だ。
 息子たちも腕白盛りだが、良い子ばかり。
 これが幸福でなくて何だと言うのだ。
 それに、オレたちの会社はものすごい勢いで成長し続けている。五年後、十年後には、オレが美恵の父親の会社を買っているかもしれんだろ。
 自ら諦めない限り、人生に負けはない。幸せは暮らしの中から自分で見つけるもんだよ。

 ここで覚醒。

 昼メロのようですが、「今昔物語」→「宇治拾遺物語」の話の1つが変化したものです。
 丁寧に書けば、1本のドラマになりそうなので、ここでははしょりました。