日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

扉を叩く音 (番外編)

「秋から冬にかけて、深夜、玄関のドアを叩く者がいる」話の続きです。

9月28日午前0時55分の記録。

仕事に飽きたので、居間でホラー映画を観ました。
ところが、幽霊だか妖怪だかが現れる直前に、鈴がチリンと鳴る設定になっていました。

「おいおい。アリエネーよ。鈴は幽霊が最も嫌うアイテムじゃん。こいつを書いた作者はあの世のことを何ひとつ知らないのか」
でも、妖怪はどうだろうな?
さすがに、これまで妖怪を見たことはありません。
妻によると、「伯母の葬式の時に、ベッドの上を歩く小人の妖怪を見たことがある」とのこと。

鈴の音はやはり錫杖を思い出しますので、宗教的なムードはあります。
でも、あらゆる怪異の中で、この手の音を好むものがいるのは考え難いです。

なんてことを考えながら、冷蔵庫に行くと、寝酒のワインがありません。
「じゃあ、コンビにでも言ってくっか」
時計を見ると1時前。
「あと5分あるから間に合うだろ」
我が家の異変は、概ね1時から3時の間です。

外に出ると、道は真っ暗です。
ここは工場地帯で、夜は明かりが落ちてしまうのと、住宅地としてはまだ新しいため街灯がほとんどないためです。
暗がりの中を歩いて行くと、角を曲がって誰かが歩いて来ました。
コツ、コツ、コツ。
ヒールの音です。

「うへへ。嫌だよな」
こんな真っ暗な中を女性が歩いて来るのです。
「オレの家に行く途中じゃないだろうな」
でも、まさかね。
宅地十数軒の周りは、ずうっと畑です。
この時間にここを通って帰るのは、いかにも無用心だよな。

すぐに、女性のシルエットが近付きます。
道の端っこに寄りますが、女性の方は心なしか、こっちに寄って来たような気がします。
この時間帯だし、少し緊張します。

その女性はすれ違いざまに、私の顔を見ました。
そして徐に口を開いたのです。
「こんばんは」

近所の人かあ。
でも、こちらからは誰だかわかりません。
向こうもそうだったと思います。

推測すると、おそらく、人気の無い道を通ろうとしていたら、向こうからオヤジが歩いて来た。
この夜中だし、まともな人かどうかはわからない。
こういう時の対処法は、「知り合いのように振舞う」ですねえ。
その女性の方も、痴漢を怖れていたのです(笑)。

すぐ近くで言われたので、少し驚いてしまいました。
普通の時なら、何とも無いことですが、この時期、この時間帯には、「人間ではない女」もしくは「かつては女だったもの」が出没します。
「おおううう」といったうなり声や、「助けて」なら、走って逃げただろうと思います。

ま、そうでなくて良かったです。
やや小心者でした。