日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第570夜 生き物が消える

夢の話 第570夜 生き物が消える  (もしくは「天空のファンファーレ」) 
 3日の午前2時頃に観た夢です。

 野良猫の三助が死んだ。
 三助は去年生まれた子猫で、俺の家から五十辰らい先の笹薮にいた。
 三助は冒険心が強く、時折、県道を越えていたが、車に轢かれそうになることもしばしばだった。
 この俺だって、少なくとも2度はコイツを轢きそうになっている。
 「いつかは」とは思っていたが、それがこの日だ。
 三助の骸は道路脇の畑の隅に転がっていた。
 
 猫の死骸の傍には男が立っていた。
 男はホームレスの老人で、キャリアカートに全財産を載せて、この辺りを歩いている。
 空き瓶を拾い集めている時に、死骸に遭遇したのだろう。
 俺はその爺さんに声を掛けた。
 「残念だ。俺はコイツのことが好きだったのにな。三助という名前までつけていた」
 「この猫はこの辺じゃあ、最後の野良猫だった。もう猫はいないね。どういうわけか、この数ヶ月でどんどん消えていく」
 「そう言えば見かけないね」
 「猫だけでなく、烏や鳩も居なくなってる。いったい何が起きているんだか」
 俺はそれには気付かなかった。仕事が忙しく、周囲に気を払う余裕がないせいだな。
 「小父さん。少し失礼なお願いなんだけど・・・」
 「ああ。コイツをどこかに埋めてくれってか」
 老人はすぐに俺の腹を読んだ。この老人なりに、三助のことを気に掛けていたのだろう。
 「俺はすぐに仕事に行かねばならないから、申し訳ないが・・・」
 ここで俺は尻のポケットから財布を取り出した。
 こんな風にすれば、相手に「銭カネで済まそうとするな」とキレられるかもしれんんが、他に礼をする方法がない。 
 爺さんはそれを一瞥して、俺の目をじっと見た。
 「そんなもの要らんよ。そう言いたいところだが、今日は貰っとく」
 「そう言ってくれると助かります」
 われ知らぬうちに、俺は敬語を使っていた。
 2万円を渡すと、爺さんは独り言を言うように呟いた。
 「何だか、変なことが起きているような気がするんだよ。天変地異の兆しかもしれんな」
 俺は爺さんに会釈をし、自分の車に向かって歩き出した。

 翌日の朝のことだ。
 目を覚ますと、窓のカーテンが揺れていた。
 天気の良い休日だったから、早朝から妻が窓を開けていたらしい。
 俺はベランダに出て、外の空気を吸った。
 そこに後ろから妻が近付いて来た。
 「お父さん。何だか変なのよ」
 「え。何が」
 「何て言ったらいいのかしら。何だかしんとしてるの」
 前に向き直る。
 妻の言う通りだった。
 普通、朝は色んな音がする。
 雀や土鳩、様々な野鳥が鳴く声がしたり、ゴミを烏が漁る音が聞こえるものだ。
 犬や猫が叫んだり、人が歩く足音がする。
 そういう音が一切聞こえない。
 妻の言う違和感の原因はそれだった。

 「全然音が聞こえないね」
 「そう。獣だけでなく、車の音まで聞こえない」
 「俺たちを残して、世界中の生き物が消えてたりしてな」
 そう言えば、そんな映画があったっけな。
 気が付くと、街には誰もいない。人が消えてしまっていた。
 そんな筋だ。
 「ま、獣はともかく、人間が静かなのは、今日が休日だからだろう。休みの日くらい、遅くまでベッドに居たいもんだし」
 だが、妻は俺に返事をせず、上を見上げている。
 「お父さん。あれ見て」
 妻の視線の先を追うと、空の上に何か黒い点がぽつんと見える。
 「何だろうな。とりあえず、UFOではないようだ」
 冗談のつもりだったが、妻からの返事はない。

 「よく見えないわね」
 「じゃあ、とりあえず双眼鏡を持って来よう」
 俺の部屋には双眼鏡があるから、それを取って再びベランダに戻った。
 「どれ」
 双眼鏡で見ると、その黒い点が何か、はっきりと分かった。
 「おい。あれは・・・。馬だ」
 黒い馬が空を飛んでいたのだ。
 「どう見ても馬に見える。お前も見てみろ」
 俺は双眼鏡を妻に渡した。

 そう言えば、こんなことが前にもあったっけな。
 確かブラジルかどこかだ。ビルの上空を馬が飛んで行く。
 空の上に向かって、馬が飛行して行くのだ。
 報道で流されたビデオは不鮮明だったが、ああいうのは肉眼の方がよく見える。
 ビデオ撮影をする前に見た人々は、口を揃えて「あれは馬だった」と言っていた。
 ここで妻が口を開いた。
 「お父さん。あれは馬だわ。本当に馬よ」
 あきれた話だ。こんな話。一体誰が信じると言うのか。
 「そうだ。あれを録画しよう。カメラかスマホを持って来い。録画しとけば、俺たちが見たものが本物だという証拠が残る」
 「分かったわ。すぐに持って来る」
 妻はすぐさま階下に向かった。

 「こんなことが現実に起きるとはなあ」
 とても信じられないが、自分の眼で見ているものが信じられなくなったら、何もかもが信じられなくなる。
 ま、あれが実際に起きているとしよう。
 それを認めたら、次は「なぜ起きているのか」という疑問に進むことが出来る。
 「じゃあ、いったい何故、馬が飛んでいるんだろ」
 他にも異常なことがあって、それと関連づけられるかもしれん。
 そこで思い浮かんだのが、三助のことだ。
 あのホームレスの老人は「最近、生き物が消えている」と言っていた。
 実際、鳥や獣たちの姿が消えている。
 
 「もしかして、この世から生き物が消えて行こうとしてるんじゃあ」
 大絶滅?それとも、この世の終わりが来るのか。
 トントンと足音が聞こえる。
 妻がビデオカメラを持って、2階に上がって来ようとしているのだ。
 すぐ後ろに妻の気配が届いたところで、俺は妻に叫んだ。
 「おい。もしかすると、とてつもなく異常な事態になっているのかもしれんぞ」
 返事がない。
 ここで俺が後ろを振り返ると、そこに妻の姿はなかった。
 「おおい。母さん、どこだ」

 次の瞬間、空一杯に大きな音が響いた。
 「ファファファアアアアン」
 中くらいの金管楽器を思い切り吹いたような音だ。
 それが四方八方の空で鳴っている。
 「おいおい。これは・・・」
 俺はこの手の話で知っているのはひとつしかない。

 「何てこった。これは黙示録そのままじゃないか」
 今、まさにこの世の終わりが始まろうとしているのだ。
 ここで覚醒。

 野良猫の「三助」が車に轢かれて死んだところまでは実際の記憶です。
 三助は冒険心が強く、県道を横切って行ったり来たりしていました。
 大人猫になれば用心深くなり、車の往来をはかることが出来る筈ですが、1歳を前にして撥ねられてしまいました。
 三助の姿が、新しいことに「つい飛び込む」自分と似ているような気がして、どこか仲間意識を持っていたのですが、本当に残念です。