◎夢の話 第584夜 仏陀との出会い
10日の午前3時に観た夢です。
公園通りを歩いていると、大きな岩が見えて来た。
高さは2辰らい。横は10短擁?らいの台形をした岩だ。
その岩の上には、人が一人乗っていた。
近付いてみると、黄色い袈裟を着たオヤジジイだった。
貧相な顔で、痩せている。
脇を通り過ぎようとしたが、そのオヤジと目が合ってしまった。
お坊さんなら丁寧に接しなくてはと思い、挨拶をした。
「こんにちは」
お坊さんのオヤジジイが頷く。
「今日は」
桜の咲く季節だが、外で座っているのはまだキツい。
「寒くないですか」
「いや。もう慣れた。それに瞑想していると、案外平気なもんだよ」
そうでもないよな。体験入信で座禅を組んだことがあるが、冬だったこともあり、寒くてかなわなかった。そんな経験もあり、つい興味を持ってしまった。
「袈裟1枚だけですよね」
「ああ。そうだよ」
「ここは日本なのに、袈裟は南国風ですね」
黄色い袈裟はどこだっけ?タイとかカンボジアだよな。
「わしは普段、インドに居る」
え。見た目はインド人には見えないが。
このオヤジジイの顔つきは、最近、ニュ-スを賑やかせている「カゴイケ」って人にそっくりだ。
「失礼ですが、お名前は何と言われるのですか?」
「ゴータマ・シッタルダ。君たちは仏陀とも呼ぶね」
これで思わず失笑してしまった。
「またまたご冗談を。仏陀、すなわち釈迦は数千年前の人だし、それに話で聞いたのとは随分違う。人をからかおうとしてるんでしょ」
「いや、わしは冗談を言わないし、ブラフも吹かさない。君みたいに、のべつ幕なしにブラフを吹いて、人の心をもてあそぼうとしたりはしない」
「ちょっと失礼だよね。私だって、無闇に法螺ばかり吹いているわけじゃない。ブラフをかますのは、ひとの心の内、心の機微を知るためですよ。それがオレの仕事なんです」
「他人にとっては、迷惑かもしれんだろ」
「ま、そりゃそうだけど、気にしてはいられんです。でも、それは話が別でしょ。話を戻すと、あんたはガリガリに痩せているから、世間でよく知られたお釈迦さまじゃないことは確かだよ」
すると、釈迦もどきが大仰に首を横に振った。
「違う違う。君は仏像でよく見る太った仏さまをイメージしているんだろうけれど、あれはただのイメージだ。考えても見たまえ。釈迦は野に入り、修行をして暮らした。周りにいるのは弟子たちで、一人も働いていない。皆で托鉢をして、世間の人から頂いたものを食べていた。贅沢が出来るわけじゃないだろ。そんな暮らしで太っているわけがない」
そう言われると、確かにそんな気もする。
数百人が毎日、食べ物を貰いに来たら、近隣の住人たちは大変だ。
そのうち、「もう来るな」と叫びたくなってしまうだろうな。
「だから、本当の私は痩せていた。仏像が太っているのは、ふくよかなイメージを与える目的からで、後世の者により意図的に作られた姿なのだよ」
「なるほどね。お釈迦さまもキリストと同じように痩せていたわけだ」
「それも違うね。キリストには後援者がいたから、食べるのには困らなかった。わしとは逆で、ろくに働かず、充分な食事を摂っていたのだから、太っていたんだよ」
「ええ?そりゃ、だいぶイメージとは違いますね」
俺の心の中で、教会の上の方で見るあの像ががらがらと崩れた。
「現実はそんなもんだろ」
オヤジジイはゆっくりと頷いた。
「ところで、何か食い物を持っているか」
「自分の昼飯しかありませんね」
「何?」
「サンドイッチです。食事制限がありますから、味の無いチキンサンド」
「それでいいよ」
「は?」
「それでいいから置いてゆけ。そしたら、お前が極楽に行けるように、特別に計らってやらんことも無い」
オレはあきれて、そのオヤジジイを見詰めた。
「いつもこんな調子で食い物をねだってるの?」
「当たり前だろ。死んだ後に極楽に行けるなら、皆喜んで食い物をくれるさ。だからお前も他の皆と同じようにわしにくれ」
なるほど。そこは今どきの宗教の勧誘と同じなんだな。
大岩の横の方に目を遣ると、石造りの階段がついていた。
オレはその階段を登り、大岩の上に上った。
「ジーサン。これがオレの昼飯のサンドイッチだよ」
オレが鞄に手を入れると、オヤジジイが手を伸ばす。
オレは包みを手渡す振りをして、途中でやめた。
「と見せかけておいて」
前のめりになっているオヤジジイを、思い切り蹴り倒し、岩から落とした。
「おい。今のオレに必要なのは、お釈迦さまでもキリストでもない。オレにもう少し時間をくれる悪魔や死神だ。オレを騙そうと思うなら、そっちに化けろ」
オヤジジイは岩の真下で呻いている。
オレは念には念を入れて、そのお釈迦さまの上に飛び下りた。
ここで覚醒。